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サッカーボールが飛んでくる

サッカーボールが飛んでくる

小学生のとき、私は休み時間のグラウンドを歩くのがきらいだった。

サッカーボールが飛んでくるからだ。

ある放課後、校門に向かう途中でクラスメイトの男子が蹴ったボールを顔面キャッチ、鼻血を出して保健室に運ばれたが、それからというものグラウンドを歩けばサッカーボールにあたるようになった。

サッカーボールの呪いである。

グラウンドのど真ん中を横切ったり、ゴールの前に立ち塞がったりなどしていない。

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イモのふわ

イモのふわ

11月もなかごろ、ここのところめっきり冬らしくなってきた。

午後3時にはもう夕方みたいな空の色とか、お風呂上がりにうかうかしていられないあの感じとか、鼻先をまっさきに冷やす澄んだ空気のにおいとか、もうすっかり冬のそれだ。

猫たちも、日に日にふわふわとふくらんでいく。

このあいだ、なんとなく去年の今頃どうしてたのかな、とカメラロールを遡っていたら、今よりひとまわりくらい小さいアネとイモの写真が

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想い憶いの思い出

想い憶いの思い出

8月が過ぎていく今日この頃、私はすっかり疲弊して寝転がってばかりいます。

というのも先日、ラストサマー(学生最後の夏)を楽しみたいという友人に連れられて、ドライブで伊豆まで行ってきたのです。

伊豆で目にしたのはどこまでも続く澄んだブルー、白浜を蹴りあげる笑い声…なんてものではなく、主にイグアナ蛇ワニ亀トカゲ、あとは終わりの見えないうねった山道そればかり。

イグアナや蛇やトカゲは、伊豆の山道に

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箱の中身はなんだろな

箱の中身はなんだろな

私が高校生のとき、よくこもっていた秘密の小部屋がある。

校内唯一の完全個室、しかもエアコン完備で、私が使っていたいちばん奥の部屋は他よりもゆとりがあり、足もゆったりと伸ばすことができる。

冬には座席があたたかくなり、つるつるとした床はいつもきれいに磨かれていて、小窓を開ければ渡り廊下と、その向こうにゆれる緑が見えた。

そこで私は昼食を取ったり、本を読んだり、初夏の風に吹かれてうとうとしたり、

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わがままとマニキュア

わがままとマニキュア

幼い頃、母のアシスタントとしてうちで働いていたゲイの男性に、マニキュアを塗ってもらった。

幼い頃と言っても7、8歳くらいのときで、ゲイの男性とは元アイドルの櫻田宗久くんである。

しかもむねくんが塗ってあげるねと言ったのではなく、ちょうどオシャレに目覚め始めた私が、自分では上手く塗れないからと押し付けたのだ。

彼がマニキュアを纏っているところなど一度も見たことがないのに、ゲイなんだから当然うま

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兄弟姉妹

兄弟姉妹

保護猫マンチカン姉妹のアネとイモが、今月初めに1歳になった。

うちにやってきたときは8ヶ月だったから、もうそれなりに育っていたのだけど、この4ヶ月でまた少し大きくなったような気がする。

相変わらずマンチカンのくせに足が長く、知人にも「立派なキジトラに育ったね」と言われた。

キジトラ柄とは一見ガサツな印象だが、床に散らばったアネやイモの毛をよく見てみると、一本の毛の中に白い部分と黒い部分があり

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交わらなくなったものたち

交わらなくなったものたち

あけましておめでとうございます。

と、会う人と挨拶を交わすことに、どうしても違和感がある。

なんていうか、「まだ明けてないけどね」という気がしてしまう。

なにが、というのは、みんながわかっていることだろう。

それでもたしかに年は明け、早くも1月が過ぎようとしている。

年末に誕生日を迎えて、私は21歳になった。

20歳とは10代に毛が生えたようなものに思えたが、21歳となると途端に20代

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猫、ねこ、ネコ

猫、ねこ、ネコ

6月が終わると同時に梅雨が明け、8月になった途端に猛暑となり、そして12月を迎えたこの頃、急に寒さが深刻化している。

今年は不思議な年である。

そういえば去年の今頃、雑誌の占い特集に「来年は山羊座にとって大きな転機となる、山羊座の年です!」などと書いてあって浮かれていたが、「俺の年だ!!」と思えるような出来事はまだ起きていない。

というか、今年は良くも悪くもすべての人にとって転機の年だったの

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空白を過ごす

空白を過ごす

裏起毛のスウェットをかぶって、氷のように冷えた足先をさすりながら、規則正しく落ちる雨粒を数えたり、色濃く染められた木の幹や、輪郭がはっきりとした草の一本一本を見ている。

まだ16時前なのに、庭に立つセンサーライトはすでに点っていて、濡れたウッドデッキに反射した光が導くように揺れている。

近頃めっきり寒くなった。

着る機会を伺っていた夏服の数々が結局着られることのないまま仕舞われ、そもそも誰か

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なき虫

なき虫

これまで流した涙をかき集めたら、一体どれほどの量になるだろう、とよく考える。

たぶん、今寝転んでるシングルベッドくらいは、余裕で満たされるのではないか。
もしかしたら、この部屋の天井にまで届くかもしれない。

私はとても泣き虫なのだ。

良くも悪くも心が揺れる瞬間には、いちばん早い体の反応として涙が出てきてしまう。

映画や読み物に泣かされることはしょっちゅうだし、たとえ何を見なくたって、悲観に

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差別と分別

差別と分別

高校生のとき、クラスメイトの男子と兄弟の話になり、私の姉に興味を持つ彼に「顔は全然似てないよ、父親が違うから」と言うと、彼はあからさまに気まずそうな顔をした。

驚いた私は弁明のつもりで「いやいやいや、兄も違うから!両親とも一緒なの私と弟だけだから!」と言ったのだが、場の空気はさらに凍りつき、彼は困ったように「もうやめて。悲しくなる」と言った。

このとき私が感じたのは、家庭の多様性に理解を示さな

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若さは誰のものなのか

若さは誰のものなのか

成人式のときに書いたブログの中で、私は自らの若さに対する恨みにも近い文句を垂れた。

その内容は、「若さが放つ輝きのせいで、本来の自分自身の輝きがかき消されてしまう。けれども歳を取り、若さの輝きが薄れていくことによって、ちゃんと自分の力で得てきたものが人の目に届くようになる」というようなものだった。

私は今もうんうんと頷きながらこの文章を打ったが、けれどもふと思う。

どうして私は、自らの若さを

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早起きは3時間の得

早起きは3時間の得

新型コロナの脅威にさらされる今日この頃ですが、みなさま無事でいらっしゃいますでしょうか。

私は無事&元気に引きこもっているのですが、最近、とにかく集中力が続かなくて困っています。

体中がそわそわして、本を読むどころかじっと座っていることも難しく、喉が乾いていないのにお茶を入れたり、一日になんどもキャンディチーズを食べてしまう。

季節の変化や植物の繁殖のせいにしたっていいのだが、実はもうひとつ

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祝、ただの20歳

祝、ただの20歳

新年あけましておめでとうございます。

20歳になったかと思いきや年が明け、あっという間に成人の日がやってきては過ぎ去って行きました。

新成人…というのはなんだか間抜けな響きだなぁと思います。

私もその一員であるはずなのですが、どうにもこの新しいスタート的なムードに乗り切れていない、というのが本当のところです。

もしかしたら、成人式に行っておらず、振り袖を身にまとうこともしなかったからかもし

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