久彌吹 吟士

「ひさぶき ぎんじ」と申します。 超絶更新遅い創作物書き(主にBL)。俺得な文章許りで…

久彌吹 吟士

「ひさぶき ぎんじ」と申します。 超絶更新遅い創作物書き(主にBL)。俺得な文章許りですが、閲覧又はスキしてくださると嬉しいです。何卒宜しく御願い致します。

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最近の記事

花の記憶 邂逅編 終

「………」 (はぁ……寒い…) 今朝のニュースで、今冬何度目かの冬将軍の到来を告げた、師走の丁度真ん中。 何時にも増して街は明るく、世間は今正に、冬の慌ただしいイベント事で、酷寒を司る冬将軍でさえも打ち負かして仕舞う程の賑わいであり、それと同等の数多の雑踏の中で、外出にも、初めて訪れた街にも、慣れない俺は少し迷い乍ら人混みに酔い始めていた。 (……此処…何処だ…?……歩き過ぎたな……早く帰ろう…) 「………」 …あれから、一週間が経った。 だが、どれだけ時間が経とうと、状

    • 花の記憶 16 邂逅編

      「伊織…!」 俺は急いで先程の電話の内容を、伊織に伝えようとした。 だが… 「伊織…?」 「……蓮…」 伊織は、あの日と同じ様に目を真っ赤にし乍ら大粒の涙を流し、手には何か…小さな紙を持っていた。 「伊織…!?如何した…!」 俺は慌てて駆け寄り、優しく頬に触れ、涙を拭ってあげて。 「………」 「大丈夫か?何があった?……あの男は…御前に何を言ったんだ…?」 「………」 「伊織…お願いだ…教えてくれ…」 だが伊織は、終始涙を流し、首を横に振る許りで、答えようとはしなかった。

      • 花の記憶15 邂逅編

        「雨花〜おはよ〜」 「おはよう、幸」 午前9時過ぎの休日。 顔洗って、歯も磨いて、気持ち的にも目が覚めた丁度、朝食の味噌汁の出汁や、綺麗に焼かれた卵の良い匂いが、ゆったりとした朝に良く似合う。 巫山戯て細い身体に抱き付くと、「幸、危ないから、そんな事しちゃ駄目」って、味噌を溶かし乍ら軽く叱られた言葉に、「んふふ♪大丈夫大丈夫♪」と少し体重を掛ける。 「もう出来るから、座ってて」 「はーい♪」 手際良く料理を熟す後ろ姿。 …半年前迄は、独りで留守番させるのも心配だったけど、今と

        • 花の記憶14 邂逅編

          「………」 控え目に居座る、欠けた月。 夜の歓楽街に紛れる様に、烏の如く真っ黒な姿の俺は、幾多の灰で汚れたスタンド灰皿だけの簡易的な喫煙所で、煙草を喫み乍ら独り、待ち惚けを食わされていた。 携帯の時刻、19時58分。 …後、5分。 そんな口約をしてから早、1時間。 (……まだ、来ないな…) 人工の光に負けた、欠けた月。 夜の歓楽街にそっと…紫煙を燻らせた。 「おーい、蓮!」 「…!」 少し遠くから、俺を呼ぶ低い声が聞こえ、一人の白髪混じりの中年の男が息を切らし、焦る様に走

        花の記憶 邂逅編 終

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        • 花の記憶 邂逅編 (完)
          17本
        • 雨の花 (完)
          12本

        記事

          物凄くどうでも良い話ですが、名前を変更しました。 旧・地平線に浮かぶ、文。 新・久彌吹 吟士

          物凄くどうでも良い話ですが、名前を変更しました。 旧・地平線に浮かぶ、文。 新・久彌吹 吟士

          花の記憶13 邂逅編

          「蓮、もう少しゆっくり歩いて」 「嗚呼…悪い…」 あの後、途轍もなく口惜しくて仕方無い不機嫌な彼に、少し扇情的に焦らして。 それから…我慢出来無くなった彼は、服を、眼帯を…己を隠す物全て投げ棄て、俺を抱き潰す形で何度も、肌を重ねた。 情欲に支配された彼は、何かに取り憑かれた様に、激しく呼吸を奪って、俺の身体を余す所無く舐めて、噛んで、貪った。 髪、瞼、頬、耳、指、唇、首筋、項、鎖骨、胸、腹、背中、腰、太腿、足先… そして、最も快楽を得る、あの場所… 「…っ…!……ん…ぁ…

          花の記憶13 邂逅編

          花の記憶12 邂逅編

          ……… 俺は今…誰かを殴っている… 何度も…何度も、何度も、何度も… 俺の手は、酷いくらいに血塗れだ… 「…同じ痛みを…!味わえ…!!」 「………」 (…?今の……夢…?) 気持ち悪い感じの夢だっだが、はっきりとは覚えてない。 「んっ…」 まだ眠いから、左の方向に寝返りを打った。 「…!」 (あっ…) 横に向いた瞬間、そこには珍しく伊織が眠っていた。 何時もなら先に起きていて、いない筈なのに…今日はまだ夢の中にいるみたいだ。 上半身を起こして、枕に頬杖を付き乍ら

          花の記憶12 邂逅編

          花の記憶11 邂逅編

          何時の間にか雨は止み、静かな時間が流れていた。 お互い目も合わせず黙った儘、帰路に着く。 「………」 (行かなきゃ…) 焦る様に行き成り出て行って仕舞った雨花を奇跡的に見付けられて、一安心したい筈なのに…とある一つの疑問が、そうはさせてくれない。 蓮… 雨花と一緒にいた…長身の男の事だ。 …確かに、夢で見た人に似てるけど……でも…そんな事って… 有り得るのか…? もしそれが本当なら、あの人ってやっぱり…雨花の大切な… 大切な…… 「………」 馬鹿成に分かってはい

          花の記憶11 邂逅編

          花の記憶10 邂逅編

          「はっ…!はっ…!はっ…!……」 俺はまた、寒雨の中を疾走っている。 薄墨だった空は何時の間にか、黝く変色していて、より一層俺を不安で掻き立てた。 ……… 俺は… 俺は、救い様の無い馬鹿だ…! あんな暴虐な事をして、恐怖に慄き飛び出して仕舞った俺はなんて…身勝手なんだろうか。 『蓮……待って…!…お願い…行かないで…!!』 飛び出す直前に聞こえた愛しい声が、頭から離れない。 「…嗚呼ッ…!糞ッ!!…」 舌打ち混じりに俺は吐き捨て、左手にある小さな盾を強く、握り締めた。

          花の記憶10 邂逅編

          花の記憶9 邂逅編

          どのくらいこの薄墨を疾走っただろう。 降り頻る雨に打たれ、俺の身も、心も、思考も…まるで 忘れられた玩具そのものだ。 「……伊織…」 俺は何度、同じ過ちを繰り返して仕舞うのか… 「…!?」 足が縺れ、段差に引っ掛かり、派手に転んだ。 「…ぅっ…」 辛うじて起き上がったが、立つ事が出来無い。 「はぁ…はぁ…はぁ……」 誰もいない薄墨。 雨音と荒い息遣いに紛れ、悪魔の様な、俺を見下し嘲笑う彼奴の声が聞こえる。 『本当、馬鹿だなぁ…御前は…』 「………」 『同じ事繰り返して…

          花の記憶9 邂逅編

          花の記憶8 邂逅編

          「…雨…」 僕はずっと、硝子越しに濡れた世界を眺めていた。 情緒的で、衝動的な世界を。 「……幸……」 …もう少しで、愛しい人が帰って来る。 「早く、貴方と重なり合いたい…」 降り頻る雨にそっと…願う。 「………」 硝子に映る紅。 自分で付けたのに、記憶が無いなんて…馬鹿みたい。 如何やらこの世界は、「これ」が嫌いらしい。 皆、気味悪がった目で、僕を見る。 ーーーー『雨花…大丈夫…』 …でも幸は、幸だけは違う。 幸はこれを、「一生懸命生きている証」

          花の記憶8 邂逅編

          花の記憶7 邂逅編

          秋の霖。 硝子窓から見える薄墨雲から、音も無く、静かに降り注いでいる。 (また…雨…) 確かあの子は…この雨の事を、「盗人雨」だと、教えてくれた。 「………」 「蓮、そこの段ボール運んで」 「嗚呼…」 沢山の古書で溢れた、山積みの箱。 紙、洋墨、装幀、黴や埃、染み付いた煙草、この家の匂い…少し化学的な、古い匂いが、あの子は好きだと言った。 (…また…) 独り、悩んでいると、伊織が溜め息混じりに呟いた。 「今日も生憎の雨だから、閑古鳥が鳴いているよ…休み同然だねぇ…」 「…

          花の記憶7 邂逅編

          花の記憶6 邂逅編

          雨花が不思議な夢を見てから、1週間が経った。 熱も下がり、ちゃんと食事も摂れる様になって、 今じゃすっかり元通りだ。 「………」 丁寧に洗濯物を畳む、彼。 華奢な後ろ姿。 …あれ以来、謎の男性に関する発言はめっきり聞かなくなった。 通勤途中、傘を差す人を見ても、紅い傘の男は見当たらない。 でも、俺自身…あの夢が、只の夢とは思え無い。 あれだけ雨花が取り乱したんだ…何か意味がある筈… 『会いたい…』 「………」 (もし、雨花の言う通りだったら…) そう考えると、無意識

          花の記憶6 邂逅編

          花の記憶5 邂逅編

          「………」 会いたい… 何処だ… 「…蓮…」 あの子は… あの子に…会いたい…… 「蓮?」 「………」 「おーい、蓮くーん」 「…!?」 「あっ、やっと気付いた♪」 気付けば伊織が満面の笑顔で俺の右頬を突いていた。 「蓮?聞いてる?」 「ぇ?……ぁ、悪い…」 そんな俺を見て伊織は苦笑いを浮かべ、一言。 「ほら、ずっと読書してるからそろそろ休憩しないと、身体に毒だよ」 そう言われ、壁に掛けた時計を見ると、午後5時40分過ぎ。 (4時間…そんなに経ってたのか…) 「御茶でも、淹

          花の記憶5 邂逅編

          花の記憶4 邂逅編

          … ……… ……か……… …雨花…… 雨花…! 「雨花!」 「……!…」 「雨花?大丈夫?」 「………」 「泣いてる…また怖い夢でも見た?」 「………」 「ほら、おいで……もう大丈夫…」 いない筈の幸が、僕を抱き締めた。 「雨花ずっと、魘されてたんだぞ…」 「幾ら呼んでも…起きなくってさ…」 「俺……すげー…怖かった…」 「………」 (…良かった……幸、傍にいた…) 「はい、雨花」 穏やかな表情で彼は、温かい珈琲を淹れてくれた。 「有り難う」 礼を言って、少し冷

          花の記憶4 邂逅編

          花の記憶3 邂逅編

          ……… 暗い… 真っ暗… …此処は、何処? ……… …? 幸…? 幸が…いない… 一緒に眠った筈なのに… 何処、行ったの…? 独り… 只々、寥廓を彷徨っていると、目の前に一人、男が佇んでいた。 幸よりも少し、背の高い人で…紅い傘を、差している。 …? 誰? 近付こうとしたその時、男が振り返った。 目が合う。 …! 大きな、傷… あの傷…見覚えがある… でも…思い出せ無い… 何だか…凄く、思い出さなきゃ…いけないくらい、 大切な記憶の様な

          花の記憶3 邂逅編