見出し画像

花の記憶 邂逅編 終














「………」
(はぁ……寒い…)

今朝のニュースで、今冬何度目かの冬将軍の到来を告げた、師走の丁度真ん中。
何時にも増して街は明るく、世間は今正に、冬の慌ただしいイベント事で、酷寒を司る冬将軍でさえも打ち負かして仕舞う程の賑わいであり、それと同等の数多の雑踏の中で、外出にも、初めて訪れた街にも、慣れない俺は少し迷い乍ら人混みに酔い始めていた。
(……此処…何処だ…?……歩き過ぎたな……早く帰ろう…)


「………」
…あれから、一週間が経った。
だが、どれだけ時間が経とうと、状況が変わる事は無かった。
…未だに、岩泉さんは昏睡状態。
しかもそれを…まだ伊織には…言えて無い。
分かってる…分かってる…!………言わなければいけないと…

「………」

ーーー蓮…如何しよう…!

だが…またあんな事になって仕舞ったら…
伊織は…
………
もう……伊織の悲しむ顔なんて…見たく無い…!
…そう考えると…言えなくなって仕舞った。
だが、あの時に比べたら…大分落ち着きを取り戻してはいる。
体調面でも、徐々に回復して来たし…
けど…

『もう大丈夫。大丈夫だよ…』

「………」
優しい伊織は…俺に心配掛けまいと、直ぐに何時もの笑顔を浮かべる。
だが…その優しさこそが……自身の首を絞めて仕舞っている…
本当は…物凄く苦しい筈なのに…

「………」
(…仕方無い…もっと、伊織が落ち着いたら、ちゃんと話そう……今度は、ちゃんと…)


「…!」
突然、誰かと肩が打つかった。
これは完全に、考え事をし乍ら歩いていた俺に非がある。
謝ろうと振り返った。

「済みませ…!」
「あっ…!」


「幸…!」
「蓮…!」





「いやーマジ吃驚だわ!まさかこんな所で会うなんてな!」
と、少し多めの砂糖で甘くなった珈琲を飲み乍ら、彼は子供の様な無邪気な笑顔で言った。
確かに、これは偶然か…必然か…
そんなの、俺には分からないが、只…こんなにも、無常迅速な、寥廓たる世界で、一週間振りに、彼と邂逅したのだ。
そしてその直後、こんな寒い所にいるのもあれだからと、彼は近くのカフェに行こうと言い、今に至る。
まぁ…実際は……行くのに少し躊躇したのだが、「そんな事言うなよ〜ほら、寒いから早く行こうぜ!」と、彼の満面の笑顔に押し負け、有無を言う前に腕を引っ張られて仕舞って…
…要は断る事が、出来無かった。

「………」
「腹減ったなぁ…何か頼もうかな…」
「あっ、そう言えば…蓮ってさ、今日はこんな所で、何してたんだ?」
「ぇ…?」
「俺はさ、此処の近くでジム通ってるから良く来るんだけど…正直言って、蓮は人の多い所、苦手そうだし(笑)」
(…確かに)
「ぁ…嗚呼……只の……散歩…」
「へぇー。てか、独りで散歩とか…なんか、俺のじいちゃんと似てるな!」
「ぇ…」
(いや…御前の祖父と似てると言われてもな…)
「ん…?いや、ちょっと待て!?御前、めっちゃ歩いてねェか?」
「ぇ…?」
「えっ??(笑)いやいやだってさ、御前の家から此処迄歩くって…すげー遠くね?!めっちゃ歩くじゃん!!(笑)」
「ぁ……嗚呼…」
「えっ?何?何時もこんなに歩いてんの??(笑)」
「ぇ…ぁ…いや……偶々、ちょっと…何時もより歩いた…と言うか…初めての場所で…ちょっと迷ってた…と言うか…」
「………」
何故か…幸は驚いた顔をして…黙って仕舞った。
「…?」
「…ふっ…(笑)」
「あははははっ!!」
「…?!」
あれだけ話して、急に黙ったと思ったら…何故か…独りで大笑いしている…
…俺は何か…可笑しい事でも…言っただろうか…?
「えぇっ?待って?(笑)散歩途中で迷ったの?(笑)マジウケるぅ〜!(笑)そこもじいちゃんに似てるわ〜(笑)」
「………」
(いや…御前の祖父は…迷ってたら大問題だろ…)
「マジ?マジで言ってる?(笑)わ〜あははっ!(笑)蓮って歳幾つか知らねェし、背も高くて傍から見たら威圧感とかめっちゃヤバそうだけど、顔良く見たら結構、顔面偏差値高いよな。でも案外可愛い所あるじゃん!」
(顔面偏差値…??)
「で、因みに、歳と身長幾つ?」
「えっ?」
「えっ?じゃ無いよー教えろって!」
「……36…それと…193…くらい…」
「えっ!?マジでッ!?13個も上!?思ってたより年食ってるな!!(笑)てか、でかいな〜(笑)」
「…ぁ…嗚呼…」
「じゃあ、伊織さんは?」
「ぇ、伊織も…?」
「おう、だって気になるし♪」
「47…」
「おぉ!マジかッ!24個もか!顔綺麗だからもうちょい若いかと思った!てか(笑)俺の親とそんなに歳変わんねェじゃん!マジヤバイ(笑)」
(…まだ23か……若いな…)

「あの…幸…」
「ん?何?」
「その…此処迄話しておいて、今更だとは思うが……御前は俺と居て…気不味くは、無いのか…?」
「はっ??何で??」
「ぇ…?!…ぁ、いや…だって…!一週間前……俺は御前に、不快な思いを…させて仕舞ったから…」
「悪かった。あの時は…色々あって…」
「本当に、悪かった…!」
何度も謝った。
だが彼は、とても楽観的だった。
「あ〜、あれか?いやいや良いよ別に!何も気にしてねェよ(笑)」
「いきなり来ちゃった俺もあれだしぃ〜…」
「それに!何か急用っぽいの出来たんだろ?あっ!そうだよ!それ!あの時何があったんだ?御前急にさぁ、顔色悪くなったから、地味に気になってたんだよな!」
「…?地味に…?」
「そうそう。で、何だったんだ?」
(……話す勢い……凄い…)
「いや…幸に言っても、仕様が無い。全然、御前とは接点の無い人の事だから…」
「…?そうかぁ?…でも、やっぱ気になるなぁ、その言い方」
「てかさぁー、俺ばっか喋ってんじゃん!御前は何か、俺に聞きたい事とかねェの?」
「えっ…?」
(…想定外)
「いや、えっ?じゃ無いだろ!何かあるだろよ〜(笑)誕生日何時だとか、休日の過ごし方だとか」
「………」
それでも俺なりに、少し考えてみた。
だが、一つしか…思い浮かば無い。
でも…
………
いや、聞いてみるか…

「幸…」
「はいよ」
「その……」
(嗚呼…やっぱり…)
「ん?」
「いや…悪い……何でも無い…」
やはり俺は、躊躇した。
だが彼が…
「も〜〜〜!!何だよ〜!!俺に聞き辛いのかぁ〜?あっ!蓮、御前…所謂優男って奴だなぁ〜?(笑)良いよ良いよ、そんな気遣い!てか!自分で言うのもあれだけどぉ、超年下の俺は全ッ然!気遣ってねェんだしぃ〜!」
「俺なんかに気遣う暇あるんなら、ほれほれ!さっさと話せよ!」
と…頬杖を付き乍ら、言われて仕舞った。

………
それなら…

「幸…」

「……彼は…いや、雨花は……今、如何してる…?」
「………」
頬杖を付いた儘の彼から、笑顔が消えた。
(仕舞った…!やはり…止めておけば良かった…)
自身の発言を酷く後悔し、俯いていると、
「やっぱり…気になる?」
再び目にした彼は、先程の明るい笑顔の彼では無く、とても落ち着いた笑顔の彼が、そこにいた。

「悪い……やっぱり今のは…聞かなかった事に…」
「何で?」
「………」
「何で、謝るんだよ」
「言ったじゃん。気遣いいらねェって」
「…でも…」
「蓮と雨花が、どんな関係かは、俺は知らねェけどさ…」
「心配なんだろ?雨花の事…」
「……嗚呼…」
すると彼は、
「も〜素直じゃ無いな〜気になったら直ぐに聞けよな!これ、俺の実家の家訓だから!」
…また、先程の明るい笑顔の彼に戻った。

「じゃあ…改めて聞くが、雨花は本当に…記憶が無いのか…?」
「嗚呼、仰る通り」
(やはり…本当なのか…)
「それとまた…手首を切って、酷い状態になったと、伊織から聞いた…」

「嗚呼…そうだな…」





「雨花ー、ただいまぁー」
7月末、その日は35℃を上回る程の猛暑日で、夕方になっても息苦しい程だった。
そんな暑さに乾涸びそうになり乍らも、右手でネクタイを緩め、少しだけ寄り道して、何時もの様に18時過ぎに帰宅。

(…?)
ドアを開ければ、その音で何時も俺を迎えてくれる筈の彼。
だが今日は…来ない。
しかも、返答すら無い。
(…風呂入ってんのかな…?)
そう思い、脱衣所のドアを開けた。
(あれ…?…いない…)
「…!」
良く見ると、リビングの照明が点いて無かった。
(嗚呼…もしかして、寝てんのかな?最近、変な夢ばっか見るから、良く眠れ無いって言ってたし…)
(仕舞ったな…今ので起こしてなきゃ良いけど…)
自分の足音でも起こさない様に、静かに部屋のドアを開けた。

「……雨花…?」
さっきよりも声を抑えて、名前を呼んだ。
すると、

「……ぁ……幸…!」

彼は何故か…キッチンで蹲っていた。
「雨花…?」
俺はゆっくりと、彼に歩み寄った。

「…!?」
震える身体、何かに怯える様な泣き顔、血の付いた包丁と細く青白い手首…

「…幸………御免なさい…!」

「雨花…!大丈夫か…?!」
こんな光景をまた目にして、少し自分も焦って、「早く何とかしなければ…!」と言う気持ちが、声で先走って仕舞ったからか、
「…!」
彼はそれを拒む様に、首を横に振って後退り。
「…!雨花…?」
「…御免なさい……御免なさい…!」
「雨花…!大丈夫、怒って無い…大丈夫だからな…!」
「……御免なさい…」
(待て待て…!駄目だ…まずは俺が落ち着かないと…!)
一度、深呼吸して…
(…よし…取り敢えず……うん、まずこう言う時には、焦らず…落ち着いて…)
(焦ってるからと言って、でかい声で話すのも良く無い…良く無いぞ…俺…!)
(…兎に角、雨花には安心して貰いたいから…まずは俺が何時も通りになって。それから、泣き噦る雨花を優しく抱き締めてあげよう!よし!よし俺のプラン最高!)
自分に暗示を掛けた事によって、さっきよりも気持ちが落ち着けた俺は、自然と何時も通りの笑顔になれた。

「御免な、雨花。急に大声出しちゃって…吃驚したな…」
「………」
「取り敢えず…よし、まずは傷の手当しよっか?な?」
「御免な…ちょっと傷見せて…」
彼の手を取ろうとしたその時、
「…!駄目…!」
またさっきみたいに拒んで、手を引っ込めて仕舞った。
「雨花…」
「………」
「如何して…駄目なんだ?」
「………」
「……汚いから…」
「えっ…?」
「…こんな……身勝手な僕の傷を…綺麗な貴方に…見られたく無い……身勝手な僕の血で、綺麗な貴方を…汚したく無い…」
「だから…駄目……触れないで…!」
「雨花…」
「………」
「………」
「…いや、違う」
「ぇ…?」

胡桃色の瞳と、視線が合わさる。

「雨花……雨花は本当に、優しいな…」
「でもな…雨花に汚い所なんて、一つも無いよ…」
「寧ろ…全部綺麗だ…」
俺は、雨花の右手を掴んだ。
その時、俺の左手に血が付いた。
「…!」
「大丈夫。汚く無い」
「傷……嗚呼、良かったぁ…思ってたより浅い」
「よし!救急箱と…後、服もテキトーに取って来るから、ちょっと待ってろ」
「嗚呼後、包丁はその儘な。俺が片付けるから、大丈夫、置いといて」
「………」



「雨花、今から消毒するから…ちょっと痛いの我慢出来る?」

「…あっ、御免な…!今の痛かったな…」

「もっと、優しくするからな…」

「大丈夫。我慢出来たら、後で沢山…嫌って言うくらい抱き締めてあげるぞ〜」


「よーし。雨花、終わったぞ。服着替えて」
「…痛い?」
「……大丈夫…」
「そっか…。じゃあほら、雨花…」


「おいで!」
俺は満面の笑顔で、両腕を目一杯広げた。

「…幸…!」
胡桃色の瞳から、大粒の涙を流して、雨花は俺の中に飛び込んだ。

「よしよし…良く頑張ったな、雨花」
「なぁ、如何した?独りでいて、何か…怖いって思った事あった?」
「………」
「怖い夢でも見た?」
「………」
「…雨花、大丈夫…怒らないから…何があったのか、俺に教えて欲しいな…」
「…ぅ…御免なさい…」
「大丈夫。雨花は何も悪く無い。謝る必要なんて無いよ」
「………」
「あっ!なぁなぁ雨花!俺の顔見て!」
「…?」
「そう。俺の顔さ、怒ってる様に見える?」
すると、まだ腫れた儘の目で、俺を見つめた彼は、首を横に振った。
「だろ?だから…何でも話して良いよ。苦しかった事も、怖かった事も…全部、な?」
「………」

「独りで……貴方がいないのが…怖い…」
「…夢なのか…分からないけど……誰かに…気味悪がられて……罵倒されてる様な…声がして…」
「怖くて………楽になりたくて…」
「…こんな僕…嫌…!」

「そっか…独りで、怖かったんだな…」
「雨花…大丈夫!雨花は凄い、頑張り屋さんだよ!」
雨花は涙を流し乍ら、首を横に振った。
「本当だって!雨花は凄いよ…ちゃんと我慢出来てるよ!」
「だって、ちょっと前はさ、毎日切っちゃってたけど、前切ってから5日だよ?5日も我慢出来たんだぞ?それ、中々出来る事じゃ無いぜ?だから、雨花は凄い!凄く偉いんだぞ!」
「……でも…また切っちゃった…」
落ち込んだ顔をする彼の手を、俺は握って、
「ううん。切る事は、悪い事だけじゃ無い」
「えっ…?」
「確かに、親から貰った大切な身体を傷付けるのは、本当は良く無い。けど、俺からすればこれは、仲の良い友達と一緒に愚痴ってるのと、変わんない」
「雨花にとってこの行動は、『捌け口』なんだよ」
「捌け口…?」
「そう、これは…無意味なんかじゃ無い」
「…如何言う…事…?」
「んーと…これのおかげって言うのも、ちょっと変だけど…雨花がこれをする事によって、分かるんだ」
「雨花がどれだけ、苦しいのかが…」
「…僕が…?」
「うん。だから、助ける事が出来るんだ」
「これはさ…」
『雨花が、一生懸命生きているって言う証…』
「俺は、そう思うよ」
「この傷はね、『雨花にしか無い、御守りだよ。だから…大切にしよう』」

励ます事が出来たのか、宥める事が出来たのか、正直言って分からないけど、俺なりに言葉を繋げてみたら、
「……幸………手当してくれて…有り難う…」
雨花は穏やかになった声で、そう、言ってくれた。
「此方こそ。話してくれて、有り難う」



「疲れたろ?此処で休んでて」
取り敢えずソファに座らせ、血の付いた包丁と服を洗って、救急箱を片付ける俺に、「…貴方の方が疲れてるのに、御免なさい…」
片付け終わって、隣に腰掛けた俺は、手当てした細い両手首を見つめる雨花に、「俺は大丈夫!それより、前みたいに傷深くなくて、本当に良かった」と、栗色の髪をくしゃりと撫でたら、頬を紅くしてて、正直…可愛い(照)
「あっ、そうそう…」
帰宅前に、寄り道した買い物を渡した。
「頑張り屋の雨花に、プレゼント!」
「ほれ、中見てみな」
俺に促され、レジ袋の中を見た雨花は、
「…!」
入っていた物が何なのかを知り、俺を見つめた。
「幸…此れ…」
買って来たのは、服薬ゼリー。
「ちょっと寄り道してさ、薬局行って来たんだ。後此方は、晩飯」
序でにコンビニの買い物も見せた。
「前から思ってたけど、雨花って何時も薬飲む時、ちょっと苦しそうにしてたから…もしかして薬飲むの苦手?」
俺の問い掛けに、首を縦に振った。
「やっぱり。と言う訳で、此奴があれば雨花も、すんなり飲めそうだな!」
「じゃあ…早速此れで飲んでみるか。病院の薬って、食前だっけ?」
………

「えーっと…」
薬を飲んで貰う為に、着々と用意する俺の手付きを、「…また、迷惑掛けた…」とでも言いたげな顔で、落ち込む雨花。
「雨花、そんな顔すんな。俺は御前の事全然、負担に思って無いし、寧ろ…御前が辛そうにしてる顔を見る方が、俺は嫌だ」
「ぇ…」
「まぁそれに、安心し給えよ〜(笑)雨花の為、此の俺は薬局の美女薬剤師から、薬の飲ませ方をしっかりレクチャーして帰還した男!服薬ゼリーの取り扱いなんざ、誰よりも神ってるって訳よ!」
親指を立てて、盛大に格好良く言ってみたら、
「………」
当の美人妻は、全然刺さって無い模様。
…いかん。盛大にスベった(笑)
「…んー…ん、うん、まぁまぁまぁ、まぁまぁ兎に角、此奴の取り扱い方はしっかり、しっかり覚えたから、何時でも聞いてくれ。な?ふははははっ…(照)」
態とらしい咳払いと早口。
「…ぁ…うん……有り難う…」
急に巫山戯たもんだから、滅茶苦茶返答に困らせて仕舞った。
「よし!気を取り直して……ゼリーで包んで…ほら、準備OKだ」
「はい雨花、あーん」
何時も飲んでる抗不安薬、小さい皿に服薬用のゼリーを適量入れて、薬を入れて、スプーンで包んで口の中へ。
「………ぁっ…」
「…如何?」
「…飲めた…」
「おぉ!?水より?飲みやすかった?」
「うん」
良い反応を聞いた瞬間、
「マジ?!やったー!よっしゃぁぁぁ!!!」
まるで、スポーツ観戦で点数が入った時みたく、俺は立ち上がって、本人よりも喜んだ。
寧ろ雨花は…
「…?!」
急に立ち上がった俺に、イカ耳にゃんこみたいなサイレント吃驚顔。
「あっやべっ(笑)近所迷惑(笑)危ねぇ危ねぇ(笑)」
「いやー御免御免(笑)ちゃんと飲めたから、嬉しくってついな〜(笑)」
すると雨花、
「……嬉しい……苦しく無かったの、初めて…」
「…幸…有り難う……大好き…」
涙を流し乍ら、『大好き』って、言ってくれた。
「えっ?!えぇー!マジ?!俺も大好き!いや大好きに決まってんじゃん!」
「薬飲めた事だし、飯食おう!雨花の大好きなクリームパン買って来たんだ!よし食おう!」





「…これが、半年前の話」
「今は俺に話したり、紙に書いたり、他の方法を一緒に考えて…だから最近は、全然切ってないし、薬の頻度も大分減った。まぁ、偶に熱出すけど(笑)」
「…どう?ちょっとは、安心した?」
幸は優しい笑顔で、全て話してくれた。

「嗚呼…」
「俺も、伊織も…ずっと彼の事が、気掛かりだった」
「幸…話してくれて、有り難う」
「どういたしまして。序でにさ…」

「蓮……御前の事も、聞きたいなー…駄目?」

(俺の…事…?)
「…御前が聞きたいのは…雨花の事では…?」
「だから…一週間前、来たんじゃ無いのか?」
「んー…まぁ、そりゃあそうだけどー…良いじゃん!御前の事全然知らないし、俺、半永久的に御前と仲良くなるつもりだし!」
「えっ…?!」
(ぉ…俺と…?……半永久的に…??)
「いや……俺の事なんて…」
と、言ったが…
「えー!!?巫山戯んな!!?俺、雨花の事話してあげたじゃん!恥投げ捨てて盛大にスベった話もしたじゃん!駄目駄目駄目!俺だけとか!割に合わなさ過ぎッ!!」
「ぃ、いや…それとこれは…」
「やだぁー!!駄々捏ねてやるぅ!!」
幸は大きな手で、俺の右腕をしっかりと掴む。
ど…如何やら、俺が話す迄、帰らせる気は無い様だ。
(こ…子供か…!)

それから何度かは断ってみたが…只々、この繰り返し。

「…はぁ…幸…」
「御前、本当に…俺の事なんか…聞きたいのか…?」
「おう!最初から全部、雨花の事も含めて聞きたい!」
「ほら!仲良くなるにはまず、自己紹介からって言うだろ?」
「………」

…この男とは何れ、そんな話をする時が来て仕舞うのだろうとは…考えてはいたが…

………

ずっと…「俺の『過去』なんて……知らない方が良い…」
そう…あの子にさえも頑なに、生きて来た。

…だが……幸………御前になら…



「…分かった。只…聞いた事を、後悔するなよ?」




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?