花の記憶4 邂逅編
…
………
……か………
…雨花……
雨花…!
「雨花!」
「……!…」
「雨花?大丈夫?」
「………」
「泣いてる…また怖い夢でも見た?」
「………」
「ほら、おいで……もう大丈夫…」
いない筈の幸が、僕を抱き締めた。
「雨花ずっと、魘されてたんだぞ…」
「幾ら呼んでも…起きなくってさ…」
「俺……すげー…怖かった…」
「………」
(…良かった……幸、傍にいた…)
「はい、雨花」
穏やかな表情で彼は、温かい珈琲を淹れてくれた。
「有り難う」
礼を言って、少し冷ましてから一口啜った。
「なぁ、雨花…」
「?」
「さっき見た夢…覚えてる?」
「………」
(夢……あっ、傷…のある人…)
僕は頷いた。
「えっ!?マジ!?じゃあさ、嫌じゃ無かったら…教えて欲しいなー…と、思って…」
僕の顔色を窺い乍ら彼は聞く。
「雨花、よく夢見てるけど、何時も覚えて無かったから…」
「あー…ほら!夢ってさ、見る内容で……えっと…何だろ……まっ…!まぁ取り敢えず!沢山意味があるっぽいから!
…多分…」
「………」
何だか凄く曖昧な気がするけど、僕はまた、頷いた。
「じゃあちょっと待ってて!何か書く物用意するから!」
慌てん坊な彼は返事をする前に紙とペンを用意しに行った。
「………」
僕はもう一口、珈琲を啜った。
「えーと…」
「まず…俺より背が高い男性…って、俺でも184あるのに、結構でかいな…その人」
「…幸って、大きいね」
「まぁね。てゆーか、雨花が小さいんだよ〜だって何時も、
ちっちゃいなーって思ってるし」
「てか今更だけど、雨花って166だもんなー…ちっちゃい(笑)ミニサイズ…(笑)」
「………」
「あれ?怒った?(笑)」
「………」
僕は咳払いをして、話を続ける様促した。
「…で、全体的に真っ黒…服も髪も?」
「うん…あっ、傘」
「傘?」
「紅い…紅い傘を差してた」
「傘……で、後は…」
「傷…顔に…大きな傷があった」
「傷…どの辺だった?」
「長い前髪で隠してた……確か、左目…」
「どんな感じのか、分かる?」
「………」
「切り傷…だと思う」
「何か…謎な人だなー…」
「………」
「…?」
雨花が急に黙り込んでしまった。
「雨花、如何したんだ?」
「………」
「なぁ、如何したんだよ…」
『会いたい…』
「…えっ?」
「会いたい…って、言ってた…」
「僕の事…知ってた…」
(会いたい?雨花の事知ってる??)
今の俺には全然、理解不能な発言だった。
「えっ??ちょっ、ちょっとま、待って…どう言う事?」
「………」
「きっとあの人……僕の大切な記憶…だと思う…」
「あの夢…失くした記憶だ…」
「雨花…?」
「思い出さなきゃ…」
彼は焦る様に立ち上がり、足早に玄関へと向かう。
探しに行こうとしてる…
「雨花!」
止めようとしたその時、彼が振ら着いてその儘壁に手を付き、倒れ掛かった。
「…!」
床に崩れ落ちる寸前で、何とか受け止めた。
「雨花!大丈夫?」
「………」
顔が赤い。
触ってみると、凄く熱かった。
(そう言えば昨日から熱あったんだった…忘れてた…)
それと、無理に動いたからちょっと悪化しちゃったんだと思う。
「雨花、取り敢えずベッド行こうか?」
「………」
彼は無言で小さく頷いた。
ベッドに運ぶなり、完全に無口になってしまった、雨花。
「なぁ…雨花…」
熱があるから、何か欲しい物はないか。
…そう聞こうと思ったが、止めた。
「お願い…独りにさせて…」
馬鹿な俺だけど何となく、その後ろ姿がそう言っている様に思えた。
(雨花…お休み…)
言葉にする事無く、俺は部屋を出た。
…また、何となくだけど……布団に埋もれていた彼は多分…
泣いている。
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