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花の記憶 邂逅編 終
「………」
(はぁ……寒い…)
今朝のニュースで、今冬何度目かの冬将軍の到来を告げた、師走の丁度真ん中。
何時にも増して街は明るく、世間は今正に、冬の慌ただしいイベント事で、酷寒を司る冬将軍でさえも打ち負かして仕舞う程の賑わいであり、それと同等の数多の雑踏の中で、外出にも、初めて訪れた街にも、慣れない俺は少し迷い乍ら人混みに酔い始めていた。
(……此処…何処だ…?……歩き過ぎたな……早く帰ろう…
花の記憶 16 邂逅編
「伊織…!」
俺は急いで先程の電話の内容を、伊織に伝えようとした。
だが…
「伊織…?」
「……蓮…」
伊織は、あの日と同じ様に目を真っ赤にし乍ら大粒の涙を流し、手には何か…小さな紙を持っていた。
「伊織…!?如何した…!」
俺は慌てて駆け寄り、優しく頬に触れ、涙を拭ってあげて。
「………」
「大丈夫か?何があった?……あの男は…御前に何を言ったんだ…?」
「………」
「伊織…お願いだ…教えて
花の記憶15 邂逅編
「雨花〜おはよ〜」
「おはよう、幸」
午前9時過ぎの休日。
顔洗って、歯も磨いて、気持ち的にも目が覚めた丁度、朝食の味噌汁の出汁や、綺麗に焼かれた卵の良い匂いが、ゆったりとした朝に良く似合う。
巫山戯て細い身体に抱き付くと、「幸、危ないから、そんな事しちゃ駄目」って、味噌を溶かし乍ら軽く叱られた言葉に、「んふふ♪大丈夫大丈夫♪」と少し体重を掛ける。
「もう出来るから、座ってて」
「はーい♪」
手際
花の記憶14 邂逅編
「………」
控え目に居座る、欠けた月。
夜の歓楽街に紛れる様に、烏の如く真っ黒な姿の俺は、幾多の灰で汚れたスタンド灰皿だけの簡易的な喫煙所で、煙草を喫み乍ら独り、待ち惚けを食わされていた。
携帯の時刻、19時58分。
…後、5分。
そんな口約をしてから早、1時間。
(……まだ、来ないな…)
人工の光に負けた、欠けた月。
夜の歓楽街にそっと…紫煙を燻らせた。
「おーい、蓮!」
「…!」
少し遠く
物凄くどうでも良い話ですが、名前を変更しました。
旧・地平線に浮かぶ、文。
新・久彌吹 吟士
花の記憶13 邂逅編
「蓮、もう少しゆっくり歩いて」
「嗚呼…悪い…」
あの後、途轍もなく口惜しくて仕方無い不機嫌な彼に、少し扇情的に焦らして。
それから…我慢出来無くなった彼は、服を、眼帯を…己を隠す物全て投げ棄て、俺を抱き潰す形で何度も、肌を重ねた。
情欲に支配された彼は、何かに取り憑かれた様に、激しく呼吸を奪って、俺の身体を余す所無く舐めて、噛んで、貪った。
髪、瞼、頬、耳、指、唇、首筋、項、鎖骨、胸、腹、背中
花の記憶12 邂逅編
………
俺は今…誰かを殴っている…
何度も…何度も、何度も、何度も…
俺の手は、酷いくらいに血塗れだ…
「…同じ痛みを…!味わえ…!!」
「………」
(…?今の……夢…?)
気持ち悪い感じの夢だっだが、はっきりとは覚えてない。
「んっ…」
まだ眠いから、左の方向に寝返りを打った。
「…!」
(あっ…)
横に向いた瞬間、そこには珍しく伊織が眠っていた。
何時もなら先に起きていて、いない筈
花の記憶11 邂逅編
何時の間にか雨は止み、静かな時間が流れていた。
お互い目も合わせず黙った儘、帰路に着く。
「………」
(行かなきゃ…)
焦る様に行き成り出て行って仕舞った雨花を奇跡的に見付けられて、一安心したい筈なのに…とある一つの疑問が、そうはさせてくれない。
蓮…
雨花と一緒にいた…長身の男の事だ。
…確かに、夢で見た人に似てるけど……でも…そんな事って…
有り得るのか…?
もしそれが本当なら、あの
花の記憶10 邂逅編
「はっ…!はっ…!はっ…!……」
俺はまた、寒雨の中を疾走っている。
薄墨だった空は何時の間にか、黝く変色していて、より一層俺を不安で掻き立てた。
………
俺は…
俺は、救い様の無い馬鹿だ…!
あんな暴虐な事をして、恐怖に慄き飛び出して仕舞った俺はなんて…身勝手なんだろうか。
『蓮……待って…!…お願い…行かないで…!!』
飛び出す直前に聞こえた愛しい声が、頭から離れない。
「…嗚呼ッ…!糞