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創造性とCOLOMAGA Project

「アート思考とは何か」を研究していくと、やはり「創造性とは何か」にたどり着くことになる。
アートを生み出すアーティストの思考も、正解のない「創造性」の一部であり、創造という人間の基本的な営みの中に包含される。
この「創造性とは何か」は、自分の力量ではテーマが大き過ぎて手に負えないが、知の巨匠たちがライフワークとして取り組んだテーマは挑戦的であり、創造性がいったいどの様な構造をしているのか知りたいという知的欲求は止まらない。

自分が創造性のある人間かどうかは一旦保留にすることとし、一人でも多くの人たちに「何かを生み出す」苦しいながらも楽しいさを伝えることが自分の出来ることと思っている。
創造性を育むための活動(プロジェクト)も本当に様々あるが、時代の要請と時代の創造性に対する価値観の変化から、多くのプロジェクトが生まれ消えていく。

しかし、縁あって2012年から静岡県伊豆市で始めた子どもたちへのデザインリテラシー向上のための活動は、2022年には活動10周年となり、他地域へも広がりを見せている。
それはこの活動を支えている地域の人たちの努力の賜物なのだが、10年の活動を通じて見えて来たこともあり、その活動を数回に分けて一旦の総括をしてみたい。


COLOMAGA Projectとは

2012年から静岡県伊豆市で始めた「子どもたちがつくるローカルマガジン」COLOMAGA Projectは、子どもたちとクリエイティブのプロの大人がコラボレーションして作る地域情報誌である。
実際のプロジェクトの内容はこちらを参考にしてもらいたい。

このプロジェクトの大きな特徴は、大人も子どもも問わず、関わる全員を“関係者”に変容させることだろう。
子どもたちが自分たちの住んでいる地域を調べて、取材し、それを記事し、その記事の素材を制作し、プロのデザイナーがレイアウトし、印刷・製本して各所へ配布する、このプロセスを通じて、多様な立場の人が、それぞれのスタンでこの活動の“関係者”になることができる。

出版による創作物の流通により、創作に関係していない他者の眼差しが誕生する。このパブリックな目の存在は、創作物の社会的な責任を問うこととなり(情報の誤り、印象、効果など)“関係者”は自分と地域の関係をメタ的に意識することとなる。
これを繰り返すうちに、地域に対する意識、住民同士の関係性の再構築が行われ、このプロジェクトに関わる大人も子どもも地域への関心が高まり、シビックプライドを自然な形で向上させていくことができる。
それだけでなく、メディアとしてのローカルマガジンを意識することで、創作する行為に関心が向く傾向がある。
ローカルマガジンとしての成功体験、もしくは失敗体験を繰り返すうちに創造性に対する意欲と関心が高まり、無理なく「創造的人間」へと変容することが可能である。

2012年当時の活動の様子

創造的人間

開始当初、この活動の効果や影響力は、漠然としたイメージしか持っていなかったが、筆者自身のプロのデザイナーとしての体感から、この活動を通じ、参加した子どもたちは「創造的人間」に近づくことだけは推測できた。
そのためには、実施機的なフィールドワーク、取材対象者とのコミュニケーション、現場感覚の共有、そしてプロによるメディア化が必要だった。
また、見た目のデザインも非常に重要であり、第一印象が子どもっぽいと多くの人がこの冊子を手に取る機会を減らしてしまう(図画工作などの子どもの作品が多くの人から賞賛されている訳ではない)。これについては別の機械に考察してみたい。

この活動がなぜ、「創造的人間」への変更に効果があるのか説明は難しい。周囲の傾向を見てみると、感覚的に雑誌を作る仕事はクリエイティブであり、その疑似体験をするのだから、参加する子どもたちは創造性が高くなると認識されている様に思える。(これは質的調査はまだおこなっていない)

しかし、これは雑誌を作る仕事がクリエイティブだからではなく、創造性を育むための美術教育を実践的に行っているプロジェクトであり、そのプロジェクトに関わることで、年齢や立場などは関係なく、創造的な人間に変容していくのである。
人家人類学者であり、情報整理方のKJ法の開発者ある川喜田二郎は以下の様に述べる。

創造的行為は,まずその対象となるもの,つまり『客体』を創造するが,同時に,その創造を行うことによって自らをも脱皮変容させる。
つまり『主体』も創造されるのであって,一方的に対象を作り出すだけというのは,本当の創造的行為ではないのである。そして創造的であればあるほど,その主体である人間の脱皮変容には目を瞠るものがある。

川喜田二郎,1993,『創造と伝統 人間の深奥と民主主義の根元を探る』,祥伝社,

この場合の「客体」はローカルマガジンであり、「主体」はこのプロエジェクトに関わる一人ひとりである。
対象となる「客体」のローカルマガジンを創造することで、それぞれの関係者たちは、この「客体」と「主体」である自分との関係性を探りはじめる。その行為が「主体」と「客体」の相互作用を生み、創造的人間へと変化させる。


創造性の種類

一般に創造性またはクリエイティビティという言葉からは、理論ではなく感覚的、生まれながらの造形能力や身体能力を持つ天才的な才能を想起することが多いように思う。(あくまでも個人的な感覚において)
東洋大学名誉教授 恩田 彰は、マズローを引用し以下のように述べている。

この点に関して,マズロー(Maslow, A.H.)は,創造性を「特別な才能の創造性」と「自己実現の創造性」に分けている。前者は、天才とか科学者、発明家、芸術家などの特別な人たちにみられる創造性で、その創造活動は,社会的に新しい価値をもつかどうかで評価される。これに対して、後者は、だれでももっているもので、かならずしも社会的に高く評価されるものでなくとも、そ
の人にとって新しい価値のあるものを創り出す経験を創造活動というのである。もちろん両者には連続性があり、自己実現の創造性を専門的に深めることによって、特別な才能の創造性に転化していくわけである

恩田彰, 1982, 創造性とはなにか,医学教育, P183 

この活動に参加した時点においては、創造性が起動するためのスイッチをどうにか押すのみにとどまる。
しかし、そのスチッチが入れば、全員ではないが、創造性をさらに伸長させるために自然な形で努力を始めるようになるはずである。
そのためにも「特別な才能の創造性」ではなく「自己実現の創造性」のスイッチをまず入れてもらいたい。
ただし、「自己実現の創造性」は好き勝手に絵を描いたり、表現したりすることではない。

創造性が社会と接する

ここからは、雑誌を構成するテキストやイラスト、写真を担当する子どもの創造性になる。

この活動においての“表現”は、自分自身の内面の感情や思いを表出させるものではない。
その様な芸術的な表現も行為は非常に重要なのだが、このプロジェクトにおいては、優先順位は低い。
このプロジェクトでの表現は、他者の目である「読者」が理解できるものでなくてはならない。ましてや情報が間違っていることは致命的である。
しかし、情報をそのまま読者に届ける訳でもない。
そこには、取材を通じ、自分がどんな感情をもち、五感でどの様な感覚を感じることが出来たのかという非言語的な要素を言語に変換することで、より印象よく読んでもらうことが可能であり、読者の心を動かすことも可能になる。これはアートのエンパシーに近い状態となる。

そのために、子どもたちは、自分の感覚や感情を含めた情報を第三者である読者に伝えるために自分自身の省察を行う必要がある。
日常的にあまり触れることのない、感覚的で非言語的なパーツに強制的に触れることを推奨される。

この体験を通じて、創造性の中でも非常に重要な「内省」行為を日常的に行うことが可能になる

妹尾佑介は、清太哲男の論文を引用し、以下のように述べる。

授業によって「主体」と「客体」が相互作用する中で授業は展開すると仮定すれば,その循環によって「主体」が拡張し,自分の外側の世界にある「価
値」に接続することができるようになる。これは,川喜田が述べた「創造」と「脱皮変容」が循環する営みと重なる。清田は「授業での他者や新たな素材や技法等の出会いのための共感性の幅」が広がれば,「自己受容・自己理解が深まる」とし,共感性の幅が広がるほど,社会への参画意識が「より遠く,より大きな課題に繋がる」 とした。

妹尾佑介, 2021, 美術教育におけるフロントランナー型創造性モデルの構築に関する一考察,
 大学美術教育学会「美術教育学研究」第53号


これは、ローカルマガジンを通じて、自分の感覚や感情を情報の一部として目的を持ち表現する行為の訓練は、必然的に自己受容・自己理解が深まり、他者との共感の幅が広がることになる。
共感の幅が広がることで、社会への参画意識が「より遠く,より大きな課題に繋がる」となると、これは立派な問題発見の意識をより明確なものになる。

これを、創造性が社会と接点を持ったということになる。


問題解決能力

創造性とは問題解決の能力である。

川喜田二郎,1993,『創造と伝統 人間の深奥と民主主義の根元を探る』,祥伝社,

最終的に、このCOLOMAGA Projectを通じて育成したいのは、“創造的人間”なのである。
さらに言えば、問題解決能力の高い人物が育成されることで、その地域の問題は自助努力で解決されることも可能になる。

このCOLOMAGA Projectに参加してくれた子どもたちが、自分の創造性に目覚め、その創造性を駆使して、地域の問題解決を進めてくれたら、こんなに嬉しいことはないかと思う。



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