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【NGO】一刻も早くこの仕事をなくしたい 世の中を本気で変える仕事/インタビュー(01)

いろんな生き方・働き方をしている人に話を聞くインタビュー。

知り合いや人伝いで知った人に、生き方やお仕事の話を聞いて、文章で紹介していきます。
 
第1回は、海外に拠点を置く環境系のNGOで働いている武井七海(ななみ)さんに話を聞きました。
 
七海さんの素敵な人柄とともに、読んでみてください。
 
 
 
待ち合わせは、渋谷駅近くのカフェ。
 
朝9時ごろの店内はまだお客さんも少なく、本を読んだり、パソコンをカタカタしたりと、それぞれが思い思いに過ごしている。
 
「入り口を入って左手のところにいます」というぼくのメッセージを見て、この人かな?という顔で話しかけてくれたのが、武井七海さん。
 
アイスティーを飲みながら、ちょっと緊張している様子。

七海:こんにちは。よろしくお願いします。
 
──よろしくお願いします。聞いたところだと、最近までイギリスに滞在していたんですよね。
 
七海:そうなんです。いま働いているNGOの本部がイギリスのロンドンにあって。初めて行ったんですけど、物価が高くて…。何も買えない、どうしようってなりました(笑)。
 
到着して、ご飯食べようと思っていろいろお店を回るんですけど、20ポンドとかばっかり。1ポンド180円ちょっとなので、めちゃ高いですよね。え、ほんとに?みたいな。スーパーに行っても、惣菜が7ポンドとか。こんなに物価が高いとは思わなかったですね。
 
──へえ、円安っていうのもあるかもですが、単純に物価が高いんですね。
 
七海:イギリスはとくにインフレがすごいみたいで。ただヨーロッパはしっかりしていて、友達がベルギーで働いてるんですけど、ベルギーはインフレで何パーセント上がったら給料も何パーセントあげなきゃいけないって、制度で決まってるらしいんです。しっかりしてますよね。

──日本も物価が上がってきているし、賃金も上げてほしいですよね…。ちょっと話がずれてしまいましたが、七海さんは環境系のNGOで働いているということで。具体的にどんなことをしているんでしょう?

 七海:まだ働き始めて1年半くらいなんですけど。企業の政策への影響力を可視化するっていうのが主な仕事です。

 政策への影響力は何かって言うと、とくにいまは気候変動に焦点を当てているんですけど、気候変動に対する政策に対して、企業がどういう風に働きかけているのか。それを分析して、その分析結果を投資家の人とかに提供する、っていう感じですね。 

たとえば、この企業はホームページではこういうことを言ってるけど、政策への働きかけでは真逆なことを言っています、とか。結構あり得るんですよ。そういう情報を提供して、投資判断に役立ててもらう。あとは、環境問題に前向きに取り組んでいる企業にもっと政策に対して声を上げてくださいって、後押しをしたりとか。

 ──そういうことをしている団体があるんですね、正直知らなかったです。NGOで、しかも海外に拠点がある。そんなところで働いている人もなかなかめずらしいと思うんですけど、どうしてそこで働くことに?

 七海:きっかけを話すと長くなるんですけど…。わたし、学部を卒業したあと大学院に4年間いて。1年半は休学して、青年海外協力隊でベナンっていうアフリカにある国に行っていたんですよ。

 ──ベナン… ちょっと調べますね。…あ、ガーナとかトーゴとかナイジェリアがあるあたりですね。縦に細長いかたち。 

七海:農業の支援で行ったので、中学校でみんな一緒に、バケツに苗を植えてお米を育てるとか。あとは、オーガニックのトマトとかを収穫して、普通に育てたトマトと比べて重さとかにちがいがあるのか調べたり、肥料をみんなでつくったり。
 
あと、ベナンには「たけし日本語学校」もあるんですよ。ゾマホンさんがベナン出身で、その縁でビートたけしさんにつくってもらったらしくて。日本に留学してるベナン人の方は、けっこうその学校出身の人が多いです。
 
──ビートたけしさんの名前はそんなところにも…!

──気候のことに興味を持ったのは、ベナンに滞在したからというのが大きかったりするんですか?
 
七海:そうなんです。ベナンに行ったときに気候変動の問題に気づいて、これってすごく重要な問題だなと。自分のなかで無視できないくらい大きくなったんです。
 
ベナンでは生活に関わる問題だったんですよね。気候がおかしくなって、すごく暑くなったのもあるし、豪雨とかの異常気象もすごく増えたと。
 
たとえば、1週間ずっと雨が降り続くとか。それってあの地域ではあんまりあることじゃないみたいなんですよね。それでまち全体が水に沈んでしまうっていうこともあって。
 
災害に遭ってしまったら、まずは自分たちでできることをするしかない。雨以外にも、干ばつで作物がまったく育たなくなってしまうことも体験して。これはすごく申し訳ないなって思ったんです。
 
──申し訳ない、と。
 
七海:日本みたいないわゆる先進国って、何も考えずに生活するだけですごい量の二酸化炭素を出しているんです。日本にいる限りは、気候変動で災害が起きても、被害を最小限に抑えられる技術と体制が整っているけど、ベナンはそうじゃない。
 
わたしたちが原因になっているのに、深刻な影響を受けるのはベナンのような国々の人たち。それっておかしいんじゃないかと、すごく感じたんです。
 
──それは日本にいるだけじゃ感じられない感覚ですね。今こうやって聞くとそうだよなって思うけれど、実際にその気候を体験して、現地の人と共に生きた七海さんだからこそ言えることというか。
 
七海:それで日本に戻ってきて、気候変動に対する活動をしているNGOでインターンをしていたんですけど、そのインターン先の人が、こういうのあるんだけどって、新卒でもNGOで働くためのトレーニングをしてくれるプログラムを紹介してくれて。
 
実は内定が決まっていた企業もあったんですが、その会社の人とも相談して、「そんなにやりたいことがあるならやったほうがいいよ」って言ってくれて、プログラムを受けました。
 
内容は、気候変動の知識を学んだり、そのなかで期待されているNGOの役割とかを教えてもらったり。一番大きかったのは、つながりのあるNGO団体のミーティングに出させてもらって、そのご縁で入ったのがいま働いているNGOなんですよ。
 
──なるほど、ここでつながってくるわけですね。なんだか、いろんな選択肢を選び抜いていまに至っているんだなと感じました。
 
七海:いや、ほんとうに… 運がよかったと思います。

──実際、そのNGOで働いてみてどうですか。
 
七海:すごい働きやすいですね。普通の一般企業で働けなくなるんじゃないかっていうくらい(笑)。フレックスでリモートもできて、裁量もすごくあって。セルフマネジメントしないといけないっていうのはありますけど、この自由さはいいなって思います。
 
いま考えているのは、日本であまり知名度がないので、こういう情報を提供するNGOがあるんだよっていうことを投資家の人たちに知ってもらうには、どうすればいいかっていうことですね
 
──いまのお仕事は、七海さんにとってしっくりきている感じなんでしょうか。
 
七海:そうですね、しっくりきてます。
 
──ずっとやっていきたい、みたいな?
 
七海:いや、それは逆で。一刻も早く問題を解決して、この仕事がなくなればいいと思ってます。
 
──なるほど… そっか、問題が解決して自分たちの役割がなくなることが理想ですもんね。

──この先のやりたいこととかはなにかありますか?
 
七海:どうしましょう?っていう感じですね。いまはほんとに目の前の仕事をやるのが精一杯で。3年後どうしたいとか、5年後どうしたいって聞かれることあるんですけど、明確にはなくて。
 
すごく大きいことを言うと、社会問題を解決しようと思ったら、企業の力だけじゃなくて、NGOのような組織が必ず必要になると思っています。NGOがあることによって、方向性が間違ったときに、間違ってるよって言うことができる。
 
だから社会全体に、NGOをもっと知ってもらって、働く人も増えて。社会問題の解決に役立つことができたらいいなって思ってます。
 
──最後に、生きていく上で大事にしていることを聞いてもいいですか。言葉でも、尊敬している人の存在でも。今日の話を聞いていると、気候変動とか、その解決っていうのが大事にしていることなのかなと思ったんですが。
 
七海:うーん… それはそうなんですけど。なんか結構、自分勝手かもしれません。なんて言うんだろう、自分勝手にしようと思っている、っていうのかな。
 
自分自身がやりたいと思うことだったら、精神的にも健康に働くことができるじゃないですか。だからこそ、自分がいやだって思うことはやらない。本当にやりたいことのために行動する。
 
気候変動も、別に無視してもいいんですけど、無視したらわたしがいやなんですよね。目の前でバタバタ人が倒れているのに何もしないのと同じくらいの感覚で。それくらい、気候変動は見捨てられないものになっています。
 
だからこそ、助けられることがあれば、全力で助けにいきたい。そんな気持ちで動いています。 

 (2023.7.2 稲本琢仙)


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