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心を揺さぶられ、思い出に温かさをくれた本

『自分の情けなさに歯噛みしたことのない人間なんて、いない』町田そのこ著 夜明けのはざま より

冒頭の一文は本の帯に書かれてたもの。裏面はこう書かかれてて。「死を見つめることで、自分らしく生きることへの葛藤と決意を力強く描きだす」

ああ、読みたい。購入を決めた瞬間です。

「芥子実庵」という葬儀社を舞台に、いろんな人の人生を描くオムニバス形式の物語です。だからきっと、読んだあなたに当てはまる人物がいるはず。

わたしなんて境遇は違うはずなのに、どの人物の気持ちも身に覚えがあって。身につまされるというか。グッと心に刺さりました。

作中にもあるんですが、死とは恐怖で。どう考えたって、楽しいものにはならない。どうやっても怖い。でもそれでこそが死。

死に抱く畏怖の念とは、親しみや近しい気持ちがわくもんじゃない。畏れ敬う存在であっていい。わたしもとっても思います。

ただ「恐れてる」で止まっちゃうと、一歩を踏み出すことはできない。さあ、どうするのか。

答えのひとつを町田そのこさんが本作の中に書いておられて。この本の醍醐味だと思うので、気になる方はどうぞ読んでくださいね。

ここから少し、わたしの話。この本の中に、癌になったお母さんと娘とのやりとりがあります。わたしは絞り出すように泣いてました。悲しい涙というより、なんだろ。驚きの涙だったかも。

わたしの母は、わたしを褒める人じゃなかった。特に中学、高校の頃はけちょんけちょん。恐怖の鬼ババで。なんだ、この公開悪口。いや、でもマジそうだったんです。

関係が変わったのは、わたしが大学生になってから。ちょっとずつ、話せるようになって。それでも母の言葉は、いつまでも私には重みがあったんだよなー。どうやっても自分の中で、フラットな意見にはできずじまい。絶対なんです。

自分の性癖というか、歪な感覚ですよね。分かってるけど、どうしようもなくて。わりと他人さまには隠してきました。まあ、でも。わたしも母と同じく公開です。

でね。母が病気となったとき、「○○ちゃん(わたしのこと)、きれいだよ」と言い出して。

聞いたわたしは冷静に思いました。病気が進行してるか、心身が弱ってるかのどっちかだって。

だって元気なときは、「あとちょっと違ってたら美人だったのに」と残念がってたもの。母の病状を思案した瞬間でした。母の言葉を額面通りでは、全く受け取ってなかった。

「どうしてそんな……大事なこと、いま言うの」
(略)
「友達親子っていうの? あたし、そういうの苦手だしね。子どもといつでも何でもペラペラ喋れるかって話」

p.321より

この箇所を読んだとき、わたし思い出したんです。

「母さん、褒めるのが気恥ずかしいのよ。そんな褒められて育ったわけじゃないし。ほめるって、どうしたらいいんだか分からないんよ」

かつて母がそう言ってた。褒め方が分からない。恥ずかしい気持ちが先に立つ。そう言ってたじゃないか。決してわたしを認めてないわけじゃなかった。ただ、言えなかっただけ。

あの「きれいだよ」は母の本音だったのかもしれない。病気で恥ずかしいが外れて、ぽろっとこぼれたのかも。そう思ったら、ボロボロ泣けてきて。ぎゅーぎゅー胸をしめつけられ、涙があふれてました。

母は亡くなったので、事実は確かめようがないんだけど。でも、母の一言を思い出せて良かったなーって。温かい思いを加えることができました。

あなたも心を揺さぶられるエピソードが、きっとこの本の中にあるはず。おすすめです。

本日は長めとなりました。ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

では また

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