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フリーライターはビジネス書を読まない(31)

傲慢になるボランティアと我がままになる被災者

焼野原になった街を撮り続けていたら、いつしか陽が傾いていた。この日の取材予定は終えていたから、あとは帰るだけ。来るときは鷹取から歩いてきたから、帰りは兵庫駅まで歩くことにした。

さほど遠い距離ではないはずなのに、このときの新長田~兵庫は、なぜかとてつもなく長く感じた。あたりに見えるのは、焼け焦げた家やビルばかり。歩いても歩いても、いっこうにたどり着けない。
歩いた時間は20分ほどだったけれど、兵庫駅までたどりついたときは足が棒のように疲れていて、鉛のように重かった。

翌日は取材の3日目。
兵庫県警察本部で被災地での犯罪発生状況を聞いて、そのあと芦屋警察署でも同じことを聞くだけ。スムーズにいけば、午前中に終わりそうだ。

県警本部では、事前のアポなしで飛び込んだにもかかわらず、すぐに広報担当に通された。
大きな会議室のような部屋をパーティションで仕切って、同時に何社もの取材に対応できるようになっている。銀行の融資担当の窓口みたいだ。

地元はもちろん東京や、ほかの地方からも、多くのメディアが入れ代わり立ち代わり取材に訪れていた。
発災直後からの、犯罪の発生状況を訊く。火事場泥棒が多いという噂があったからだ。
県警は混乱の中でも、被害届を受けた分はしっかりファイリングしていた。ところが、昨年の同時期と比べて、空巣被害は4分の1ていどしかなく、自転車泥棒は昨年とほぼ同数だという。

「自転車泥棒は増えていると聞きましたが」
噂の真相を確かめる。
「避難するとき、他人の自転車を勝手に拝借した例が多いのは承知しています」
「カウントしていないのですか」
「被害届が出ないと、カウントできないのです。しかもあのときの状況では、あえて被害届を出さない人もいましたし、緊急避難的な状況も少なくはなかったですから」
それ以上訊くのは野暮な気がした。

芦屋警察署でも、飛び込みで対応してくれた。
犯罪の状況については、ここでもさほど変わらないだろうと思ったので、避難所の様子を尋ねてみた。

取材に対応してくれた、いかにも叩き上げのオーラを放つ警部補は、
「実はね……」と、慎重に言葉を選びながら「被災者が我がままになってきてますな」と顔を曇らせた。

「助けてもらうこと、やってもらうことが当たり前になってる人が出始めてるんやわ」
「無気力ということですか」
「避難所を運営も、そろそろ自分たちでやる時期と思うんです。ボランティアも個人や団体入り混じって統制がとれてないし、だんだん傲慢になってます」

ボランティアが傲慢になっているとは、どういうことだろう?
「地震が起こったときは、神戸がえらいこっちゃ、なんとかせなあかんいうてたくさん来てくれました。善意と使命感が入り混じって、被災した人たちの気持ちに思いが至ってないというか――」
たとえば賞味期限が切れた食糧を廃棄する際に、被災者から見えるところで投げ捨てたり焼き捨てたりしているという。

ボランティア元年ともいわれた。これだけ長期間、救援するほうもされるほうも、お互いに慣れていなかったところはあるかもしれない。

「ボランティアに来てくれてる人は若い人が多いから、過剰奉仕になりがちです。やってもらう側も、任せてしまえば楽なので甘えてしまう。自立できる人にまで手を差し伸べるのが、果たして本当の救援といえるのかな」
警察官としてではなく、あくまで個人の思いとして語ってくれた。

新聞やテレビではお涙頂戴の美談ばかりやっているが、その裏で何か大事なことが隠されていると感じた、3日間の取材だった。

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