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【Bar S 】episode27 種だけ欲しいの!



リカを連れて来たのは、ケンとタツヤのふたり。近所のバーで、ひとりで呑んでいた女性をナンパしてきたのだ。

リカはビジネスの通訳の仕事をしている、英語が堪能な帰国子女。32歳。身長162センチすらっとした体型で、綺麗なお姉さんといった感じ。

始めはケンの方が積極的に狙っていたが、明らかにリカはタツヤの方がタイプのようだった。

リカが店に通うようになり、レギュラーメンバーとなってからは、連休などにみんなでキャンプなんかに出掛ける機会が多くなった。(私はもちろん店があるので行けない) このグループは、仲間同士どんどん仲良くなっていった。

そのうち、みんなで店で呑んだ後、リカは毎回タツヤを自分のマンションに誘うようになった。リカはタツヤと付き合いたがっていた。だが、タツヤはリカとやる事だけやって、でも付き合う気はなかった。

リカの事を狙っていたケンは、リカがタツヤの方を恋愛対象として見ているという事を悟ると、リカの東京でのお兄ちゃんという役割に変えていった。実際にリカとケンは「お兄ちゃん」「妹」と呼び合った。(ちょっと気持ち悪かった)

リカは、タツヤと出身地が同じで(九州のとある県)、なんと驚くべき事に、タツヤのお姉さんと知り合いである事が判明した。(同じ所で習い事をしていたらしい) リカはそんな事も含めて、タツヤの事を運命の人だと言っていた。

しかし、タツヤはやっぱりリカと付き合う気はなく、リカ本人にも 他の仲間達にも断言していた。

ケンはこの頃からよく、タツヤにちょっとした事でも突っかかるようになった。(ふたりはこのグループの最初のメンバーで、始めの頃は仲良くやっていたが、本当はお互い合わないところがあった。だからふたりで他のバーに行って、ナンパして来たと聞いた時には少し驚いた)


そんなある日、リカが突然みんなの前でタツヤに向かって

「ねえ、もう、わたしと付き合うのが嫌だったら、それでもいいからあなたの種だけちょうだい。わたしあなたの子供が欲しいの!」

驚きながらも、みんな冗談だと思って笑い出す。タツヤも笑う。

「ちょっと、わたし本気なんだけど! ちゃんとひとりで育てるから。お願い。あなたの種をください。」



アホなタツヤは、その言葉に乗ってしまった。



それから3ヶ月後、本当にリカは妊娠した。



タツヤはそれでも、リカと一緒になる気はなかった。



リカは妊娠してからも店に訪れた。酒は呑まず、烏龍茶を飲みながら、私にお腹の赤ちゃんの状況を嬉しそうに報告して、1時間くらいで帰った。

まわりの仲間達は心配して、リカとタツヤ双方に別々で説得を始めた。リカには「本当にひとりで育てられるの? まだ今なら生まないという選択も出来るよ!」と。

タツヤには「もう結婚して、一緒に育ててあげれば! れっきとしたタツヤの子供なんだから」と。

それでもふたり共、考えは変わらなかった。



だが、妊娠6ヶ月になった頃から、リカの言う事が変わってきた。タツヤに結婚を迫り始めた。

「あなたの子供なんだから一緒に育ててよ!」

「お父さんのいない子供がかわいそうだと思わないの?」

「お願いだから子供のために結婚して!」

しかしタツヤの気持ちを変える事は出来なかった。


この様子を見て、グループの仲間達の反応が別れた。

ケンは、リカを応援し、タツヤを非難した。他にも5人ほど(ここには登場させてないメンバー)ケンと同じように、リカの側についた。

リカを応援する側の主張は、

〈自分で解って子供つくってるんだから、男らしく責任をとれ。結婚出来ないなら、子供が成人するまでの養育費を払え。知らねえじゃ済まねえだろ!〉


タツヤ側についたのは、やっちゃん カエル君 カナ ナオト マサル ジョウ ミク。

タツヤ側の主張は

〈そもそもリカがタツヤの子供が欲しいから、種だけくれっていう話しだっただろ! 自分ひとりで育てるって言ってたし〉

他のマユミ アツシなどは両方の話しを受け入れながらも、最終的にはタツヤ側についた。


ある日、ケンとタツヤが言い争いを始め、ケンがタツヤの胸をどついた。タツヤがケンにどつき返すと、体の小さいケンは壁まで吹っ飛んだ。本格的に喧嘩になりそうなところを、やっちゃんが間に入り止めた。


そろそろ私も決断しないと、みんな居なくなってしまいそうだった。それまで、両方に対してうまく接してきたつもりだったが、もう無理だろう。

私の中では始めから決まっていた。この二人のやり取りを最初から全て見ていたのは、当人達以外では私だけだった。しかしそれとは関係なく、私が下すべき判断の基準は、どちらが正しいか という事ではない。あくまで私はこの店を守らなければならない。そういう基準で考えれば、私の選択は自ずと決まっていたのだ。

私はタツヤ側についた。

ケンがリカの話しをしてきた時に、リカの言い分には賛成出来ない と告げた。

ケンを含め、リカ側についた人達は、それから殆ど店に顔を出さなくなった。


グループのメンバーでは、タツヤ側についた10人程が残った。

タツヤには皆で、

「ホントにお前はアホだなー! 種だけ欲しいって言われて、本当に種をあげて 後は知りません。なんて普通は通用しない事、わかるだろ!!」

って説教した。

「だって最初から付き合う気もないし、結婚なんて絶対ないって リカには言い続けてきてたし、アイツが種だけどうしても欲しいって言うから協力してやっただけじゃん。まあアホはアホですけど。」

「でも、マスターにだけは悪い事をしたと思ってる。店をぐちゃぐちゃにして申し訳ありませんでした。」



それからリカは、「弁護士を雇って訴えるから」と言い出した。実際に相談には行ったらいが、訴訟になる事はなかった。


そして、リカは無事に子供を生んだ。ふたりの話し合いで、養育費としてタツヤの貯金の全て(500万くらい)を渡すこと。月に2回子供に会いに来ること。という決め事をして決着がついた。

タツヤは毎月2回、ちゃんと通った。リカはタツヤに子供の顔を見せる事で、タツヤの気が変わる可能性に期待していたようだが、それも叶わなかった。



子供が生まれてから半年後、開店前の準備中 リカが子供を抱いて現れた。

「マスター 見て。この子、髪の毛がアイツに似てクセっ毛なの。体重も多めだし、背も高くなるかな⁉」

リカが抱いた男の子は、まるまると大きく育っていた。

「マスター わたし、田舎へ帰る事にした。こっちだと保育園がなかなか見つかりそうにないから。田舎で両親と一緒に育ててもらう事にするわ。」

「マスター いろいろ迷惑かけちゃってごめんなさい。あの人、これからもココ来ると思うけど、そしたら宜しく伝えておいて。もう解放してあげるって。みんなにも宜しくお伝えください。それじゃ、お元気で。」

「おうっ その子が大人になったら一緒に呑みに来いよ!」

「うん わかった。」

最後は笑顔で帰って行った。




ーepisode 27 おわりー

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