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安楽死を考える

フランスの片田舎に住む20歳の青年ヴァンサンは交通事故で重傷を負い、9ヶ月の昏睡状態に陥った。意識が回復した時、彼の全身は麻痺し、唯一、親指だけをわずかに動かせるだけだった。ヴァンサンはこの親指を使って愛する母と会話を交わすようになった。彼が望んだのは、この悪夢のような人生を一日も早く終わらせることだった。

ヴァンサンは3つの計画を立てた。計画Aは、シラク大統領に手紙を書き、死ぬ権利を与えてもらうことだった。大統領はその手紙に感銘を受けヴァンサンの病室に自ら電話をかけた。だが、フランス大統領には、彼の望みを叶えてあげる権限などなかった。

計画Bは、安楽死を合法化したオランダに行くことだった。フランスのメディアはヴァンサンの大統領への手紙を大々的に報じていたので、彼は、その計画を実行するにはあまりに有名になりすぎていた。

2003年9月24日、計画Cが実行された。ヴァンサンは、『事故後の人生で最高の日』と愛する母に伝えた。そして母は致死量の鎮痛剤を愛する息子に投与した・・

日本はフランスと同じく、安楽死を厳しく制限している。以下の4要件を満たさなければならない。
①患者の死が避けられないこと
②耐えがたい肉体的苦痛があること
③その苦痛を除去・緩和する代替手段がない
④患者本人の明らかな意思表示があること
この4要件を満たす場合に限り、例外的に安楽死が認められるに過ぎないのだ。
ヴァンサンは全身が麻痺していたが、意識を保ったまま生き続けることができるために、この安楽死の要件を満たさなかった。

しかし、考えてもらいたい。安楽死の要件を満たさないというだけで、人はなぜ安らかな死を迎える権利を奪われないといけないのか?

2001年4月、オランダで積極的安楽死を認める法案が成立した。それによれば
①本人の意思が明らか
②治癒不可能な耐えがたい苦痛がある
この2要件を満たせば医師が患者の生命を終結させても刑罰を課せられることはないこととなった。つまり、『避けがたい死』が外されたのである。これにより病気や障害などで苦しむ全ての患者に安らかな死を選択する権利が与えられた。

オランダでは、精神的苦痛による理由で健康体の老人を安楽死させた医師や、二人の子供を失って生きる意欲をなくした女性の自殺を手伝った精神科医に対して、刑事責任を問わない判決が下されている。

様々な意見があるだろう。オランダの安楽死は間違った父親的温情主義であり、適切なケアによって自殺願望を生きる意欲に変えることができると説く学者もいる。

日本も高齢化社会を迎えてこの問題から目を逸らすことはできなくなってきたと思う。やがて経済的に恵まれた自殺志願者が海を渡って安らかな死を迎えるようになるかもしれない。

全ての人が生きる権利を持っていることに異議がある人はいないであろう。しかし、誰も、生きることを他人に強制する権利などないのである。

おしまい

ポコ♪🐸🇯🇵🇯🇵🇯🇵

【参考文献】『知的幸福の技術』橘玲著
『僕に死ぬ権利をください 命の尊厳をもとめて』ヴァンサン・アルベール

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