中途半端ヒーロー七色いんこ
手塚治虫、というと皆さま、どの作品が思い浮かぶでしょうか。
「ブラックジャック」
「リボンの騎士」
「鉄腕アトム」
「火の鳥」……
こういったメジャー作品を私はほとんど読んだことがない。
中学生まで習っていたピアノの先生の蔵書は、今思うとなかなかのチョイスで
「どろろ」
「三つ目がとおる」
「プライム・ローズ」
「七色いんこ」
何回も借りて読んだ。
ピアノのお稽古バッグは、楽譜よりもマンガの方が重かった。(何をしに行っていたのか)
今日は、特に好きな「七色いんこ」の話。
※重大なネタバレはしないよう努めますが、人によってはアウト判定かもしれません
※文庫版(全5巻)を元にお話しします
七色いんことは?
主人公は「七色いんこ」と名乗る代役専門の「しろうと」役者。
ものすごい演技力を持っているのに、出演料をもらわないのはなぜか?
それは、「報酬は最も高価な金品を所持している観客から盗む」のが彼の流儀だからだ。
七色いんこは、変装とスリの名人でもある。「役者泥棒」なのだ。
作品全体は、古今東西の演劇のマスターピースへの案内書としても読める。
各話サブタイトルは
「ハムレット」
「人形の家」
「ガラスの動物園」
……と、演劇のタイトルになっており、劇の内容と物語がリンクしている。
作中でいんこが演じることもあるし、物語が既存の劇の筋書きとパラレルになっているパターンもある。
ま、詳しくは公式サイトをご覧ください↓
七色いんこ|マンガ|手塚治虫 TEZUKA OSAMU OFFICIAL
やー、いんこ、だいぶ目立つ恰好だな(笑)
特徴的な服装の方が変装したときに人目を欺けるというメリットはありそう。
でもこのカツラ(地毛じゃないです)とマスクにも由来があるんだよ。
「水戸黄門」かつ「ねずみ小僧」
七色いんこは各地(世界中!)で舞台に立ったり財宝を追い求めたりしながら、出会った人々・動物たちを結果的に救ったりする。
役者志望の女の子に押し掛け弟子になられちゃったり、
無差別殺人車(!?)の謎を突き止めたり、
故国へ帰ったら殺されてしまう運命のお姫様を助けたり。
訪れた先々でそんな活躍をするので水戸黄門的な要素もあるし、
金持ち(悪人が多い)から取った金を困っている人にあげることもあって、ねずみ小僧的な面を見せることもある。
七色いんこのかわいらしさ
私が初めて「七色いんこ」を読んだのは小学校中学年くらいだった。
いんこは大人に見えた。ミステリアスでかっこいいなー、と思ってた。
ところが40になって再読すると、いんこは全然かっこよくないのだ。
むしろ、若くてスキだらけで情けないところもあって、かわいい。
いんこを追いかける女刑事・千里万理子(すごい名前だ)とのトムとジェリー的なコンビも、非常にほほえましい。
刑事とドロボーなんだから基本は敵対関係なのだが、二人はとても仲が良く(?)、共同戦線をはることも多い。
てゆーか、この話はラブコメでもあるのだ。
イチャイチャしやがって……もっとやれ!!
中途半端ヒーロー・七色いんこ
このたび懐かしくなって再読して思ったこと。
七色いんこの最大の魅力は、その中途半端さではないだろうか。
善人ではない。悪だくみをしたり、小ずるく立ち回ったりもする。
一方で、悪人にもなりきれない。
自分の盗みのせいで真面目な勤め人が首をくくらざるを得ない窮地に陥ると、あわてて助けに行ってしまったりする。
盗むなら最初から覚悟を持って盗まんかい!とどやしたくなるが、そこが彼の憎めないところだ。
絶妙に中途半端。
善でもなく悪でもない、かっこつけるけど最後までバッチリ決まりはしない。かわいいヤツだ。
常識人で、子どもに優しい。世話焼きなんだよね。
特に、親に抑圧されている子どもは放っておけない。
それは彼自身の子ども時代の経験が大きくかかわっているのだが……
この先はネタバレになってしまうので別の機会に。
第1話にほぼ全て出ている
なんや、ちょいおもろそうやないか……
と、ここまで読んで思ってくださる方がいらっしゃるのかはわからないが、
(プレゼンが下手すぎて我ながら唖然としている)
文庫版はたった5冊である。すぐ読めるので、どなたにもたいへんおすすめしやすい。地域によっては図書館に所蔵してある可能性もある。
どうかな、と思った方は1巻をとりあえずお読みいただきたい。
「七色いんこ」は俯瞰するとものすごく単純な構成だ。
スタート(第1話「ハムレット」)/中盤/ラスト(最終話「終幕」) の3パートに分けられる。
そして、第1話にほぼ全ての要素が出ている。
乱暴なことを言うと、ストーリーの骨格は1巻と5巻だけで成立している。
というか、第1話と最終話(←まあまあ長い)だけでほぼ成立している。
しかし間の巻もそれぞれ見逃せない部分があるのでご紹介しよう。
※文庫版全5巻準拠
1巻:開演。第1話に本当に全部出ているといっていい。大活劇回もあって読み応えのある1冊。
2巻:いんこと千里刑事のコンビが大活躍。二人でお泊り回もあるぞ……!! 相棒となる流し目犬(?)玉サブローも登場だ。
あと、重要なキャラ「男谷マモル」が登場するので、1・5巻につぐ重要な1冊。
3巻:いんこが散々な目にあう。「ホンネ」登場。ある意味迷走しているがそれもまた一興。
4巻:いんこ、お前やっぱいいやつなんだよな……役者としての矜持も見える。玉サブロー回も豊富。
5巻:1冊の半分以上を「終幕」が占める。その前に手塚先生ご本人が登場するメタフィクションの極みのような回もあって興味深い。
「七色いんこ」は知名度こそ低いが、たいへん面白いマンガなのでもっと多くの人に読んでもらいたい。
味わい深いこの作品といんこの萌えポイントについてもっと話したいが、ネタバレあり記事になるのでまた今度。
↓↓聖闘士星矢の話もやたらしてる人だよ↓↓
聖闘士星矢オタクの叫び|茶ぶどう|note
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