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不器用すぎる愛情「蛇にピアス」

なんとなくずっと読んでみたかった蛇にピアスをようやく読了した。

読み終えて、良し悪しの思考がぐるぐると胸の辺りで渦巻いていた。


【登場人物】

ルイ : ギャルじゃないって自分では言ってるけど周りからはそう言われてる女の子。基本的に冷めてる。

アマ : サイド刈り上げ赤髪、顔面ピアスと刺青ゴリゴリ、スプリットタン。ルイのことが大好きな男の子。

シバ : アマと仲の良い彫り師。表情が分からないくらいの顔面ピアス、刺青ゴリゴリ。とんでもないサディスト。


ルイはアマに出会ってスプリットタンに興味を持ち、自分もやろうと舌にピアスを開けて徐々に拡張、刺青も彫ることにする。

ルイとアマは同棲しているが、本書からはアマがルイ大好きオーラしか感じられない。終盤あたりまでは。

大好きというより、苦しいくらい愛情が強い。街で絡まれたそっちの人たちの一人がルイに触れた瞬間ボッコボコにしてしまう。

一方のシバもルイに対して鬱陶しいと思っていそうな話し方をするが、「もしもお前がいつか死にたくなったら、俺に殺させてくれ」と言う。サディスティック爆裂。そんなシバにルイは興奮したり。ルイもマゾヒストなんだと思う。

印象に残った部分を抜粋する。

所有、というのはいい言葉だ。
欲の多い私はすぐに物を所有したがる。でも所有というのは悲しい。手に入れるという事は、自分の物であるという事が当たり前になるという事。
手に入れる前の興奮や欲求はもうそこにはない。

〜〜〜

結婚なんてのも、一人の人間を所有するという事になるのだろうか。事実、結婚をしなくても長い事付き合っていると男は横暴になる。釣った魚に餌はやらない、って事だろうか。
でも餌がなくなったら魚には死ぬか逃げるかの二択しかない。所有ってのは、案外厄介なものだ。

金原ひとみ 蛇にピアス より

ルイはアマを所有出来ていると感じているから終始冷めた態度だったのかなと個人的に思う。けれど、そんなことはなかったというシーンが勢いよく押し寄せ、クライマックスを迎える。

人に対して所有という言葉を使うのは、物扱いしてることになり得るから、あまりよろしくない響きな気がする。

しかし、自分の欲しい、つまり独占したい人がいるとすると、その欲を満たしたい気持ちになるのが人間なのではないか。独占欲っていうやつ。

独占欲を言葉を選ばずに言えば所有なのかもしれない。作品を通して、各々の欲がだだ漏れだなと思ったし、シバがオーナーの店の名前が「Desire」だし。

Desireの意味は願望、欲求、欲望。そのままだ。

所謂アンダーグラウンドな世界を描いた作品ではある。三人とも割とぶっ飛んでいる。小説や漫画で未成年の喫煙飲酒はよく(?)描かれているかもしれないが、それだけではない、もっとドロついたもの。

私自身はピアスも刺青もタトゥーも、している人を見たとて、嫌悪感は持たない。(ギチギチに刺青が掘られていたらヒュッとはなる)ただ、どこかで読んだ「アクセサリーなどを沢山身につける人は、心の弱さを隠している」というのを何故か思い出した。

三人とも不器用で、自分でも自分の考えていることが分かっておらず、そのせいで表現の仕方も分からないのかもしれないと思った。

この作品は吉高由里子主演で映画化している。有名だから観ていなくても知っていたが、先に原作を読んだ。読んだからには映画も観たい。

結構なエロもグロもある本作。″普通″ではない愛し方をする者たちの不器用さを目の当たりにして、小説であってもこういった関係性は存在するのかも、と感じた。

影響を受けやすい私は本などを読んだりすると登場人物のようになりたいと考えたりするが、蛇にピアスは到底マネできないと思った。小説は想像力が試されるから、シーンによっては少し気分が悪くなった箇所もある。

ちなみに作者の金原ひとみさんは20歳そこらで本作を書き、芥川賞を受賞している。しかもデビュー作。すごすぎる。

主人公であるルイは19歳だ。受賞したのは20歳だけど、ほぼ同じ歳の女の子の心情であったりなんだりを投影させられても、こういった作品を書けるのは容易いことではない。

ジャンル的にエッセイ本が一番好きではあってもやっぱり小説も面白い。自分の頭の中にルイ、アマ、シバ、他の人物像を作り上げて読むのは楽しかった。映画化した時の画像を見たら私の脳内ビジョンと結構同じような外見をしていてなんだか嬉しかった。

比較的ページ数の少ない分、結末まで自然な流れで「そうくるんだ」と思わせるものだったから読みやすい。興味が湧いた方は是非。

読んでくださりありがとうございました。
また来週!

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