【前進か後退か】2020 Jリーグ第14節 ベガルタ仙台vsガンバ大阪

 お疲れ様です!ちくわです。なんだかあっという間に8月が終わってしまいました。夏らしいことはほぼできずに家にこもってたような気がします(家族でひまわり畑に行ったぐらいかな)。実は私、毎年フジロックに参戦するような夏フェス男子なんですが(Jリーグ苗場支部で知り合ったフォロワーさんにはいつの間にか芸風変わったなと思われているかもしれない)、今年はコロナの影響でフジロックを含め多くの夏フェスが中止となりました。夏フェスには年間十数万円はかけているので今年は夏フェス行かなかったんだからあれ買ってもいいよね……これ買ってもいいよね……と家からポチポチ色々なものをオーダーした結果いま死ぬほど積読が溜まってます本は読むものじゃなくて積むもの。一番買ってバカだったなと思うのはパトレイバーの愛蔵版(一冊2,000円、全16巻で32,000円)ですが、名作漫画は長い目で見ればきっと息子と未だ見ぬ孫に読ませて元が取れるのでヨシ!

 さて近況報告はこのぐらいにして本題へ。8月はリーグ戦1勝1分3敗とかなり出遅れてしまったガンバ。川崎戦を落としたのち昌子源が本格的にスタメンに組み込まれました。以降のゲームはこの代表3バックをどう機能させるかについて試行錯誤してきた印象です。練度の低さが招いたミスからの失点など、ストレスが溜まる試合の多い一か月でした。気が付けばもうすぐシーズンも折り返し。心機一転常勝ロードを進んでいけるか。そんな9月の初戦はアウェイ仙台戦、試合は1-4で快勝。久しぶりの勝ち点3でしたが内容にはいろいろと考えさせられるものがありました。

スタメン

スタメン

 両チーム中6日で迎えた一戦。ガンバは前節から中盤の構成を変更してきました。注目は今シーズン初先発の山本。ここ数戦サブにリストアップされていましたが矢島が怪我の影響でベンチ外となったのを受けてアンカーに抜擢。前節IHを務めた小野瀬がWBに入り、倉田が二戦ぶりの先発。

 一方の仙台はここ数戦で定着した4-2-1-3。前節からの変更は左ウイングに入ったロシア帰りの西村のみとなりました。

前半:捨てたのは「理想」か「意地」か

 ガンバは前半早々に失点。仙台がキックオフからホームの勢いそのままに獲得したCK。ゾーンの隙間を縫う浜崎のキック精度とゲデスの飛び込みが見事でした。

 前半早い時間の失点で前節の嫌な記憶がよぎりましたが、ガンバは3分後に同点に追いつきます。井手口が自陣で横パスをカットしてから左に張っていた宇佐美へ。宇佐美は斜めに運ぶドリブルで時間を作り、上がってきた小野瀬へパス。中央で再び受けた宇佐美のドリブルは引っかかりますが、バイタルエリアでこぼれ球を拾ったのはこの日J1初先発の山本。対面のアプローチを冷静に読み切って切り返し、「ゴールへのパス」と言わんばかりの正確なシュート。ルーキーとは思えない落ち着きでした。

 さらにその7分後、アデミウソンのカウンタープレスから宇佐美がシュートに持ち込み、獲得したCKで逆転に成功。鋭く変化した宇佐美のキックに反応した三浦の逸らしがアデミウソンへ。体をいっぱいに伸ばしながらもしっかりボールを捉えてゴールに流し込みました。

 失点からわずか10分間で逆転に成功したガンバでしたが、前節とは打って変わって、自陣で時間をかけて前進しながらチャンスを作るのではなく、CB・GKからの速いタイミングでのロングボールが目立ちました。

 ゲームプランとしては、開幕節の横浜戦に近かったかもしれません。ロングボールを早めに相手のサイドに出し、そこに走ったFW、WBに通れば良し、通らなくても即時にハイプレスに移行して、高い位置で奪ってシュートチャンスに繋げる、というもの。

 「ロングボールに競らせる」という観点ではパトリックや渡邊千真が想起されますが、相手を背走させるようなボールが多かったため、おそらく「ロングボールを収める」よりも「奪われた後のハイプレス」を重視して、アジリティの高いアデミウソン・宇佐美を2トップに起用したとみられます。

ロングボール+ハイプレス

 なぜこのゲームプランを採用したのか。理由はいろいろ考えられますが、やはりホーム浦和戦・東京戦と、自陣のビルドアップ局面でのミスが続いていた影響は否めないでしょう。自陣で繋ぐリスクは減らしたい。ただ、ここ数試合勝ちがない。ロングボール主体になっても「受ける」マインドではなく「攻める」マインドのもとで選手にプレーさせたい。こうした考えのもと、「ロングボール」×「奪われた後のハイプレス」というゲームプラン採用に至ったのかもしれません。

 一方の仙台。序盤は繋ぐ意識が高かったと思います。2CB+2ボランチで四角形を組み、SBも絡めてパス交換しながら相手を引き付ける。狙い目は引き出したWBの裏。ガンバのプレスを誘い出してWBの裏にボールを供給する、という形はこの試合何度も見られました。

仙台WB裏

 また飲水タイム周辺から、3センター脇を起点にFWに縦パスを当て、レイオフで前進するという形にも再現性がありました。ガンバのプレス強度が落ちた影響もあったでしょうが、仙台としては、もう少しこの形での前進を増やしたかったかもしれません。サイドチェンジを使って、やり直しながら3センターの脇を攻略しようとするパターンも何度か見られました。

仙台レイオフ

 そうした仙台の攻撃に対して、ガンバは、前から行けるときは行く・行けない時はブロックを組む「ハイプレスとブロックの使い分け」がうまく機能していたと思います。ゾーンごとにチームの意思疎通が取れており、仙台の攻めに対して「後の先」の択を取れていた、と言えると思います。

 仙台はこの試合非常に多くのクロスボールを供給しましたが(37本)、選択肢を減らし、クロスを蹴るしかない状況に追い込めたという見方もできるでしょう。代表クラスのCBが中で控えていますのでどうとでもなる、という読みもあったかもしれません。ただ、その割には、クロスで与えたCKからハンドでPKを献上するなど決定的なピンチを招くこともあり、蹴らせた後の対応についてはまだ改善の余地がありそうです。

後半:認知・共有・実行

 前半は仙台がボール保持で上回っていましたが、スコア状況からも主導権を握っていたのはガンバだったと思います。なので先にテコ入れを図ったのは木山監督。具体的には、中盤の配置を変えてきました。4-2-1-3から、4-1-2-3に。浜崎を一列前に上げます。

 この変化はガンバにトラブルをもたらしました。ひとつ目のトラブルはハーフスペースを活用されたこと。前半はWB裏に蹴りこむことが多かった仙台ですが、3トップにIHの関口や浜崎も絡んだ5トップのような形になり、SBも絡めてローテーションしながらガンバのサイドを攻略にかかります。ガンバの右サイドでも同じようなサイド攻略のパターンがあるので、既視感を覚えた方もいらっしゃったかもしれません。

 この試合一番の決定機は、ハーフスペースに入り込んでヨングォンとの1対1を制した仙台右SB、柳のクロスでした。西村の頭にうまくヒットせず事なきを得ましたが、これ以降にも同じようなロジックで危険な位置からクロスを蹴りこまれるシーンが何度かありました。

 ふたつ目のトラブルはハイプレスが機能しなくなったこと。仙台が2+2でビルドアップしていた際は2トップとインサイドハーフが連動してはめ込めていましたが、仙台が形を変えてからはなかなかハイプレスがはまる形を見出せません。前述の5トップの攻撃でWBが低い位置に押し込まれ、ロングボールからハイプレスへの移行、という形もスムーズに機能しなくなりました。結果的に、後半開始から飲水タイムまで、ガンバはほぼ自陣に押し込まれてしまう状況に陥ります。

仙台フォメチェン

 相手が形を変えてきた時の対応には、なかなか改善の兆しが見えません。一般的に、変化に対応するには「①変化を認知する」「②対応を共有する」「③実行する」という3つのプロセスが必要ですが、11人が同じ絵を描く必要があるなかで、ピッチの中でゼロからそのプロセスを組み立てるのは容易ではないでしょう。少なくとも「②対応を共有する」については、事前に済ませておく必要がありそうです。

 ガンバは、神戸戦で類似のシチュエーションを経験していました。簡単にまとめると、アンカーに対してアンカーをぶつけて中央を塞ぎ、FWの誘導でサイドに流させて嵌める⇒ハーフスペースに入るIHには左右CBが対応、という流れ。この日アンカーに入っていた山本は、かなりの時間サイドの守備に奔走していた印象があります。ここを調整できればここまで一方的な展開になることはなかったかもしれません。

 陣地を取り返せない一方で、左右CBが迎撃にいかないことで、エリア内に人は足りている側面もありました。相手を跳ね返すパワーは充分に余っていたので、押し込まれる状況が続きながらもピンチの数はそれほど多くなかった印象です。そこで仙台は66分、SBの柳に替えて兵藤を起用。IHの浜崎をSBに回します。エリア内でもうひと工夫、といったところでしょうか。

 直後の給水タイムで、宮本監督が動きます。アデミウソン・宇佐美⇒パトリック・渡邉千真のFW2枚替え。

 ここから試合は一気にガンバに傾きます。空中戦に強みのある2トップに入れ替わったことでロングボールへの対応が共有され、IH・WGがこぼれを積極的に狙いにいけるようになりました。井手口・小野瀬がセカンドボール奪取で目立つようになります。

 また、フレッシュになった前線が2度追い、3度追いできるようになりました。特にパトリックは、CBにプレッシャーをかけつつ、ボールが動けばIHの穴を埋め、相手アンカーへのプレスバックを精力的にこなすなど、目の前の相手に猛プレスをかけるだけだった一時の姿はどこへやら、要所を抑えて仙台の前進を手こずらせる存在となっていました。

 モメンタムを取り戻したガンバが後半初めて敵陣に押し込んだ局面で追加点が生まれます。甘くなった仙台のクリアボールを残した山本のヘディングをうまく収めた倉田のシュートがゴールに吸い込まれます。このゴールについては、倉田選手ご本人の「解説するっち」を是非ご覧ください。笑 こんなに「見えてる」のか……と、プロの凄味を思い知らされるゴールでした。

 リードが2点に広がってから、仙台はゲデスに替えて長沢、平岡に替えて怪我から復帰したシマオマテを投入。しかし、モメンタムは依然としてガンバが握っていました。光ったのはパトリックの空中戦勝率です。マッチアップしたシマオマテにほぼ完勝。セカンドボールを支配下に置いたガンバは、セーフティーリードも背景に再びハイプレスの勢いを強めます。

 この最終局面で違いを見せたのが井手口でした。無尽蔵のスタミナで、比喩ではなくあらゆるエリアに顔を出していました。4点目は井手口のパスカットから、スルーパスに抜け出した千真が縦突破。パトリックが中でつぶれて、こぼれ球に飛び込んだのは動きなおしてエリア内に詰めていた井手口。

 3点差となり、勝利を確実なものとしたガンバは髙尾に加えてJ1リーグ初出場の川﨑を投入。中盤がフレッシュになったことで更にプレスの勢いを強めます。仙台陣でチャンスを作る時間もあり得点の期待が高まりますが、最後は川﨑のカットインからのミドルシュートがキャッチされたところで試合終了。1-4でガンバの勝利となりました。

まとめ:前進か後退か

 複数得点を奪っての快勝でしたが、この試合の評価は人によって分かれると思います。本来ガンバが進むべき道であろう、「ボールを保持しながら相手を圧倒し、アグレッシブにゴールを奪う『GAMBAISM』」というスローガンに照らし合わせれば、保持をあきらめてロングボールに傾倒した今日のゲームプランは批判されても仕方がないでしょう。

 評価の差は、このゲームプランをどの時間軸で解釈しているかにもよると思います。相手との彼我の差を見極めた90分のゲームプランなのか、直近3試合の悪印象を取り除き、勝ち癖を取り戻させるためのゲームプランなのか、3CBのパワーから逆算してシーズン全体で勝ち星を計算するためゲームプランなのか。

 私は今日のゲームプランを好意的に捉えたいと思います。二兎三兎を同時に追いかけることは難しく、また今期はシーズン終了まで過密日程が決まっている中でけが人も多く、チームを改善していく難易度も平時に比べるとべらぼうに高い。「やりたいこと」より「できること」に目を向けて、90分をデザインし、結果を持ち帰れたことは評価したいです。

 上手く行ってないな……という印象が頭に巣食う時、グレート・リセットは魅力的に映るでしょう。ただ、それを決めるのは自分ではないので。クラブがそうしよう、と判断するのであればそうすれば良いと思います。そうでない限りは、何ができて何ができなかったのか、新しく何ができるようになったのかを見つめ・記録していくことが、自分がやりたいことなのかなぁ……と思います。Partido a partido で。


雑談BOX

・川﨑、J1リーグ初出場おめでとう!神戸戦の松田とは違って、先輩方がセーフティリードを取ってくれたので伸び伸びプレーできてましたね。シマオマテに股抜き仕掛けようとした時は思わずにやけました。小野が長期離脱の憂き目に遭ってしまったこともあり、間違いなく出場機会は増えていくはず。今後の活躍にも期待!


ちくわ(@ckwisb

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