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この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜 ⑥

石垣市立図書館は、それが滞在中に利用できる最後のタイミングだった。
翌3月1日から、新型コロナウイルス感染予防のため、休館に入ったからだ。
この頃は市街地でもマスク姿の人は見当たらず、
土曜日の図書館では、みな思い思いの時間を楽しんでいた。

金城龍太郎

私は、積まれた雑誌のバックナンバーをひとつひとつ確認する。
月刊やいま2018年10月号は、すぐに見つかった。
ページをめくり、探していたタイトルにたどり着く。
闘う農民のバラッド
その下には、金城龍太郎(28歳 石垣市 嵩田)とある。

館内のベンチに座り、読みはじめる。それは、マンゴー農園で屈託のない笑顔をうかべて少々たどたどしく(失礼!)私の問いに答えてくれた龍太郎さんとは、別の人間の手記のようだった。社会の深淵をのぞきながら、それでも光さす方を目指そうとする青年の叫びが、そこにあった。

もし僕が死んだら、この世の権力によって殺されたんだと思ってください。一応冗談ですが、本当に冗談で済むことを祈っております。それほど、見えない大きな権力による“圧”を日々感じています。
ー闘う農民のバラッド「遺言」よりー

「求める会が出来る前に書いたんです。求める会の代表としての言葉ではありません。でも、僕の言葉です」

手記について尋ねると、龍太郎さんはこう答えた。電話取材だったので表情はわからないが、穏やかで、けれどきっぱりとした口調だった。
「求める会」の龍太郎さんの言葉をベースに記事を書いてきた私は、その中で、この『闘う農民のバラッド』に触れることにためらいがあった。
けれど島の人たちのためにと行動する彼の姿を伝えるうえで、
「金城龍太郎」というひとりの人間に光を当てるべきだと思った。

ーー『闘う農民のバラッド』を記事で取り上げてもいいですか?
後日、LINEでたずねてみた。
「もちろん大丈夫ですよ!よろしくお願いします」
絵文字つきの返事が、かえってきた。

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島を出る

龍太郎さんは、中学3年の時に書いた詩「願いよ届け」で、県の平和メッセージ展・中学校詩の部門の最優秀賞を受賞している。15歳の少年は沖縄の小さな島に立ち、そこから静かに世界の矛盾を見つめていた。

でもこの海の向こうの
遠い国では
今 戦争が行われている
自分と同じ年の子が
犠牲になって命をおとしている
苦しみと不安の中で
遠いところで起きているけど
人ごとじゃない
だって六十年前
この国で
この島で
戦争は起きたのだから
ー金城龍太郎『願いよ届け』よりー


高校卒業後、多くの同級生がそうであるように、龍太郎さんもまた進学のため、島を出る。ただしその行き先は、アメリカ。
いずれは国連やJICA(国際協力機構)などの国際機関で働き、平和な世界の実現に貢献する。そんな未来を思い描いていたのだ。

民主主義の本場でリベラルな空気にふれたことが、「住民投票を求める会」へとつながったのだと妙に納得した。
ただ、アメリカで彼を待っていたのは、もっと生々しくて残酷な日々だった。

「ねぇ、カンフーやって見せてよ」
淡いブラウンの眼を輝かせて、僕に問いかけてきた彼の顔を今でも覚えています。
ー闘う農民のバラッド「ステレオタイプ」よりー

入学したアーカンソー州立大学は、海外からの学生の受け入れを始めたばかりで、なじみのなかった東洋人を好奇の目で見る学友は少なくなかったようだ。彼らは高揚した声で囃したてた。アジア人=中国人、中国人はみんなカンフーができるはず・・ステレオタイプのアジア人像を押し付けられ、その価値観の違いに龍太郎さんは戸惑った。

渡米してすぐの頃、歩道を歩いていると大きなトラックが近づき、通りざまにペットボトルを投げつけられた。車窓から顔をのぞかせた黒人男性は、差別的な言葉を浴びせて去っていった。その後1週間部屋を出られなくなるほど、龍太郎さんは心に傷を負った。

夢を抱き、単身渡米した10代の青年が受けた偏見や差別。
言葉や文化の違う社会に飛び込み、味わった孤独と閉塞感は想像にかたくない。
人種でも国籍でもない、僕そのものを見てほしい。そのような葛藤を抱えて時は過ぎていった。

改めて、この時の経験がいまの行動に影響しているかを尋ねると、龍太郎さんは苦い笑みを浮かべて肯定し、続けた。

「でも、信頼できる人との出会いもあったんですよ」

僕がアメリカにいるときに、お世話になった人生の先輩から頂いたアドバイスがあります。
「何か事件や大きなニュースが発表されたとき、誰が得をしたのか考えなさい。そうすると世の中の流れが見えてくる」
ー闘う農民のバラッド「遺言」よりー

偏見や価値観の違いに苦しみながらも、多様な出逢いに恵まれたアメリカでの生活は、龍太郎さんに広い視野を与え、ものごとを多面的に見る目を育ててくれたのではないだろうか。

石垣島のハルサーに

学生生活の中で、国連の職員の話を聞く機会があり、そこで、個人の発想や意見が生かされにくい「組織」の現実について知らされた。
思い描いた理想との距離を感じはじめ、やがて「国際機関で平和支援の仕事に就く」という目標は、薄れていった。
それでも平和への想いが変わることはなく、自分なりのアプローチを模索しつづけるが、それが何なのかこの時はわからなかった。

卒業後はアトランタに移り、自動車の部品を扱う日系企業で、営業の仕事についた。
そんなある日、顧客から不良品の原因を調べるよう依頼される。
取引先のメーカーに確認すると「うちの責任じゃない」の一点張り。
声を荒げて何度もそう否定する姿からは、事実を隠そうとする姿勢を感じた。
不誠実だと思った。
“自分が作ったものに誇りはないのだろうか”
その問いはやがて、龍太郎さん自身にかえってきた。
自分が作ったものに、誇りを持って仕事をしたい。


故郷の農園を想った。

果実をひとつひとつ、自分の手で大切に育て、誰かに届ける


それが龍太郎さんの誇れる仕事だった。
そしてそれが、金城龍太郎の「平和 」だった。
平和の詩を書いた15歳の少年は、24歳になっていた。


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今年5月のマンゴー
(撮影/金城龍太郎さん)

石垣島に戻った。
ふるさとの嵩田(たけだ)。豊かな自然と懐かしい島の人たちにふれながら、両親とともに農園に立ち、マンゴーやアセロラを育てる。
自称「半人前のハルサー」の誕生だ。


1年後、石垣島への陸上自衛隊配備受け入れが要請された。
告げられた候補地は、嵩田の目と鼻の先、平得大俣地域だった。
地域の先輩たちは反対し、闘った。
龍太郎さんはその姿を見ながら、それでも静かに果実を育てつづけた。


そこから3年近くが経った2018年の7月、市長が配備受け入れを表明した。
その翌月に『闘う農民のバラッド』は、生まれる。
ひとりの農民として何が出来るのか考え、龍太郎さんは書いた。
地域を守るため、必死に書いた手紙だ。
世界の矛盾と闘うため、声を枯らしてうたった唄だ。
その声が、私には彼の悲鳴のように感じられた。


夏が終わり、10月。「石垣市 住民投票を求める会」が結成される。
代表の名は、金城龍太郎。

ーーもしも自衛隊の基地の話が持ち上がっていなかったら、今、何をしていましたか?
「農業だけを、していました」
龍太郎さんは、少し頭をかいて笑った。
聴くまでもないことだった。それでも聴いてみたかったのだ。


『闘う農民のバラッド』は最終章の「夜明け」で、こう結ばれる。

僕は農家。農家には農家らしい闘い方ー。

そうだ、ここにタネを植えよう。
いつか花咲く平和のタネを。
僕らがいなくなっても、ここでずっと咲き誇るように。

そしていつか実を結んだのなら、
きっと甘くておいしい実になるだろう。
鳥たちが食べたくなるような。

もし食べてくれたのなら、
遠くまで運んでおくれ。
タネを世界中に届けておくれ。
いつか、この平和の花が世界中で咲き誇るように。

そう、はじまりはここから。
僕らの地域から。
ここ、石垣島から。

世界の夜明けに、優しく響く、
闘う農民のバラッド。

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つづく

文・写真(記載のないもの)/ 蔵原 実花子


■石垣市住民投票を求める会
https://ishigaki-tohyo.com
https://www.facebook.com/ishigaki.tohyo
https://twitter.com/ForIshigaki
https://www.instagram.com/ishigakijumintohyo2018/

■ハルサーとは、沖縄の方言で「畑仕事をする人」の意味。石垣島の中心部への陸上自衛隊基地配備計画。地元のハルサーである同世代の若者たちが、住民投票をおこなうことで、自由に語ることが難しい閉鎖的な空気を変えて、計画への賛否ともに意見を言い合える、認め合えるそんな島にしたいと行動してる。

ーArchiveー

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜①

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜②

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜③

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜④

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑤

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑦

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑧

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑨

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はじめましてTWFFです。私たちはジャンルやテーマを問わず女性(自認も含む)が製作した作品、もしくは「性や性別」をテーマにした作品(製作者の性別不問)を発表する市民メディア映像祭の運営を主な活動としています。こちらではそのメンバーが個々の想いを独自の視点で発信していきます。

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