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この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜 ④

石垣島のほぼ中央に位置する於茂登岳(おもとだけ)。沖縄県内で最も高い山だ。東側にはその山の名の通り、「於茂登」という集落がある。戦後沖縄本島や与那国島から計画移民として渡って来た人たちが住んでいる。何人かは、本島の北谷(ちゃたん)村から移り住んだ。彼らは家や畑を米軍基地として奪われ貧しい生活を強いられたため、自分たちの土地を求めてこの地に渡って来た。63年前のことだ。於茂登岳周辺には、他にもたくさんの開拓移民がいて、石ころだらけの土地を一から開墾し、水をひき、苦労をされて豊かな畑を子や孫に引き継いでいる。

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南の平得大俣側から於茂登岳を望む

平得大俣

於茂登岳の南側の一帯が平得大俣(ひらえおおまた)地区である。水源地に近く地下水が豊富で、サトウキビやパイナップルを中心とした農作物の生産が盛んな農地が広がる。

陸上自衛隊の石垣島配備計画が聞こえ始めて、この場所は候補地の一つとされていた。しかし、谷になっている部分もあり土地利用が難しい上、農地だけでなく、近くに集落や小学校があるこの地区に、ミサイル防衛に特化した部隊が配備されることはないだろうと考えられていた。

だが2015年11月、若宮防衛副大臣(当時)が来島し、候補地を平得大俣として陸自の受け入れを要請した。地域の人々、そして石垣市民は、それを新聞などの報道で知らされた。

市政は、どちらを向いているのか

2018年の沖縄は選挙イヤーで、石垣では9月に市議会議員選挙が行われた。
私はその頃、平得大俣で農業をされる、ひとりのハルサーにお話を伺っている。

「反対の声を上げても基地はできるでしょう。投票には行きますが、自分の1票で  何かを変えられるとは思っていません。他の地域の人の無関心を責めるつもりもありません。逆の立場ならば自分も無関心だったでしょう

私は何も言えなかった。彼らは力なく微笑んで、乾いた声で、そういうのだ。

帰り道、一面の緑がざわざわと風に揺れるこの地域に立つ、カラフルな選挙ポスター掲示板の存在が、虚しく感じられたことをよく覚えている。

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開票結果では与党(石垣市は保守系)が13、野党が9という議席を獲得。陸自配備の問題だけを挙げるともう少し複雑ではあるが、配備に賛成の与党がやや有利であることに変わりはない。だが注意すべきは、与党系候補の多くが争点を巧みにそらしていたように見られることだ。

今選挙戦で野党系候補が配備阻止を掲げて運動を展開したが、与党系候補の多くが陸自問題に言及せず争点化を避けた印象があった。好調な経済を背景にした市政運営の安定化による地域振興、子育て支援などの政策を重点的に訴え、支持を得た。
(2018年9月10日付 八重山毎日新聞記事より引用)

自分や家族の生活に必要な政策を支持することは、何も間違ってなどいない。加えて、市全体のことを考えて投票しているという方だって少なくないだろう。

けれど苦しみを抱える当事者の小さな声は、誰が聴き、誰が届けるのだろう。

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市街地
(右上の木々が茂っている場所が石垣市役所)

観光シーズンにも終わりを告げ、落ち着いた趣の10月。
『石垣市住民投票を求める会』が誕生した。
そして彼らのムーブメントが、11月の石垣島を駆けめぐる。
市の有権者の4人に1人が「石垣市平得大俣への陸上自衛隊配備計画の賛否を問う住民投票」を求めて署名を行なった。
前回の記事参照

市長に届いた1万4,263筆の署名

「笑顔だけど、目が笑ってなかったです」

歌を聴く市長の反応をたずねると、龍太郎さんはこう答えた。まったく悪意を感じさせないおっとりした口調だったので、私は思わず声を上げて笑ってしまった。

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市長の前で歌うハルサーズ (出典:OKIRON)

12月6日。龍太郎さんら求める会のメンバーは、石垣市の中山義隆市長と面談した。その冒頭、ハルサーズが署名運動のテーマソング「話そうよ」を歌う。歌うことはメンバー間で即決だったらしいが、おもむろに楽器を持ち込まれ、市役所の人たちは少々戸惑っていたという。

市長はこの面談で、集まった署名の重みと、求める会の若者らの純粋な思いが伝わったとし、「住民投票は実施される方向になると思う」と発言している。

同月20日、龍太郎さんたち「求める会」は、有効署名1万4,263筆とともに、住民投票条例制定の請求書を中山義隆市長に手渡す。

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左から中山市長、金城龍太郎さん、宮良 央さん
(出典:八重山毎日新聞

請求を受け、市長は地方自治法に基づき20日以内に議会を召集し、条例案を審議することとなる。つまり、住民投票実施の有無は、市議会の判断に委ねられる。いよいよだ。

この場で、龍太郎さんは次のような趣旨を読み上げている。

このままの状態で基地建設が進められたら、私たちは、この島の暮らしの安全、豊かな自然、産業を子や孫たちに責任をもって伝えることはできません。今一度よく考え、後世に悔いを残さないためにも、賛成にせよ反対にせよ、市民の意思がはっきりと分かるような形にすべきではないでしょうか

個人的な印象だが、求める会は、陸自配備計画において「国の専権事項」を優先する与党系議員にとって、配備反対の声以上に頭を悩ませる存在だったのではないだろうか。
なぜなら求める会のメンバーが訴えたのは、どちらか一方の意見ではなく、“僕らの島の民主主義”だったからだ。

つづく

文 ・写真(出典表記のないもの)/蔵原実花子


■石垣市住民投票を求める会
https://ishigaki-tohyo.com
https://www.facebook.com/ishigaki.tohyo
https://twitter.com/ForIshigaki
https://www.instagram.com/ishigakijumintohyo2018/

■ハルサーとは、沖縄の方言で「畑仕事をする人」の意味。石垣島の中心部への陸上自衛隊基地配備計画。地元のハルサーである同世代の若者たちが、住民投票をおこなうことで、自由に語ることが難しい閉鎖的な空気を変えて、計画への賛否ともに意見を言い合える、認め合えるそんな島にしたいと行動してる。

ーArchiveー

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜①

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜②

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜③

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑤

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑥

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑦

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑧

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑨

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はじめましてTWFFです。私たちはジャンルやテーマを問わず女性(自認も含む)が製作した作品、もしくは「性や性別」をテーマにした作品(製作者の性別不問)を発表する市民メディア映像祭の運営を主な活動としています。こちらではそのメンバーが個々の想いを独自の視点で発信していきます。

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