見出し画像

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜 ②

石垣島は歌と踊りの島、芸能の島、と表現されることがある。

沖縄本島の名護で「沖縄では有形の文化財はことごとく壊されて来た歴史がある。だから歌や踊りのような無形の文化を大切につないできた」という話を聴いた。大津波、台風、戦争マラリアなど海の向こうからやってくる天災あるいは人災に苦しめられてきた石垣島にもそれは当てはまる。

しかしそれは「文化」というより「生活」そのものだったのではないだろうか。琉球王府が百姓に課した過酷な人頭税を背景に、今に伝えられる地域の古謡にも苦しい労働を歌ったものや、畑仕事をしながら掛け合う掛け声のような歌もある。

島の人たちにとって、歌うことは生きること 歌い合うことは生かし合うこと だったのかもしれない。

画像1

2018年、石垣島登野城の豊年祭

2018年に時間軸を戻す。9月30日は翁長前知事が亡くなったことを受けて実施された沖縄県知事選挙投開票日で、私にとっては半年間の短い移住生活の最後の日でもあった。働いていた居酒屋はほとんど来客がなかった。20時過ぎにこっそりスマホで検索すると、玉城デニーさんの当確が既に出ていた。ちなみに石垣市の結果は、主要候補の2人の得票が、拮抗していた。

2018県知事選石垣市の得票数
 ●佐喜真淳氏11,648票 ●玉城デニー氏11,015票
(NHK選挙WEB 選挙データベースより)

金城龍太郎には会いましたか?

その前日のこと。あるバーに入り、カウンターの他のお客さんが帰った時点で、陸上自衛隊駐屯地建設について店の若い男性に意見を聞いてみた。他の店で「政治の話をしてほしくない」と言われたこともあり様子を見て切り出したのだが、彼は石垣市政の現状について思うところがあるようで、淡々とした口調で話してくれた。

こちらからも、働きながらこの島に住み陸自配備について住民の方の取材をしていること、島の若い人に意見を求めるのは難しいと思い込んでいたことなどを話した時、「金城龍太郎には会いましたか?」と問いかけられた。配備候補地の近くで農業をしている若者で、会ってみるといいのでは、と。

残りの滞在1日では難しく次の来島時には会ってみたい、と感謝を伝えて店を出た。そして2日後の10月1日に石垣島を去り、沖縄本島にしばし滞在したあと東京に戻った私が再び「金城龍太郎」の名に出会うのに、1ヶ月とかからなかった。

平得大俣地域への陸上自衛隊配備計画の賛否を問う住民投票条例制定を目指す「石垣市住民投票を求める会」が13日夜、結成された。石垣市健康福祉センターで開かれた結成総会には、約150人が出席し、代表に金城龍太郎氏(28)=嵩田=を選任した。同会は今月下旬にも署名活動をスタートさせ、地方自治法に基づく条例請求に必要な有権者数の50分の1を大幅に上回る1万人分の署名を集め、11月末までに市に提出し、名簿縦覧や異議申し出などを経て、12月27日ごろに本請求する計画。(八重山毎日新聞2018年10月15日付記事より引用)

これまで議会で2度否決されたこの案を、住民の側から直接請求するという発想とともに、立ち上がったメンバーが地元の若者中心であることに驚いた。沖縄本島の米軍基地の問題も含め、意志を行動で示すのは年配の方、あるいは地元の住民ではない若い方たちが主だと考えていたから。そして何より印象的だったのは、彼らのスタンスが、

賛成の意見も反対の意見も、大事な島の人たちの声。

島のみんなが自分で考えるきっかけを、それを話せる空気を作りたい。

というものだったこと。またあくまでこれは「平得大俣に陸自を配備する」ことに対する賛否を問うもので、自衛隊そのものへの賛否ではないことも付け加えられていた。

10月31日、いよいよ署名集めがスタートする。その夜に開幕式が行われた。

画像2

中央、ギターを弾くのが金城龍太郎さん(出典:八重山毎日新聞

“市民大署名運動会”の開幕

ひとり、またひとりと壇上に集まり、三線・ギター・パーカッションに合わせてオリジナルのテーマシング「話そうよ」を歌う。署名集めのルールをコント仕立てでおもしろおかしく伝える。マイクを持った龍太郎さんがこんな例え話をする。

「石垣島を一つのお弁当箱に例えるなら、開けた時に全部唐揚げとか全部ご飯とかだと、あまり楽しくないかなと思います。島も同じ意見だときっと楽しくないです。いろんな意見があって、それが協調し合って鮮やかなお弁当箱になると思うので、皆さん強い思いはあると思いますが、それぞれご飯やおかずと協調し認め合ってこの運動を進めましょう。子どもたちがこのお弁当箱を開けたときに、わあっと喜ぶようなそんな島にしていきましょう。」

会場に来ていた人たちからは笑い声が絶えなかった。こんな明るい社会運動を見たのは初めてだった。風向きが変わったと感じた。けれどあの島の社会の中で1万筆の署名を集めるのはおそらく無理だろう・・私は東京からそう思っていた。

つづく

文・写真(出典表記のないもの)/蔵原実花子

■石垣市住民投票を求める会
https://ishigaki-tohyo.com
https://www.facebook.com/ishigaki.tohyo
https://twitter.com/ForIshigaki
https://www.instagram.com/ishigakijumintohyo2018/

■ハルサーとは、沖縄の方言で「畑仕事をする人」の意味。石垣島の中心部への陸上自衛隊基地配備計画。地元のハルサーである同世代の若者たちが、住民投票をおこなうことで、自由に語ることが難しい閉鎖的な空気を変えて、計画への賛否ともに意見を言い合える、認め合えるそんな島にしたいと行動してる。


ーArchiveー

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜①

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜③   

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜④ 

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑤

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑥

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑦

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑧

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑨

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
10
はじめましてTWFFです。私たちはジャンルやテーマを問わず女性(自認も含む)が製作した作品、もしくは「性や性別」をテーマにした作品(製作者の性別不問)を発表する市民メディア映像祭の運営を主な活動としています。こちらではそのメンバーが個々の想いを独自の視点で発信していきます。

こちらでもピックアップされています

road movie
road movie
  • 14本

その日どこに泊まるのか。翌日どこへ向かうのか。何も決めずに思いつくままに旅した頃がありました。スマホのない時代のことです。 その感覚を思い出してTWFFの蔵原実花子が写真と言葉で綴ります。

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。