遂に公開!台湾ホラー映画『紅い服の少女』シリーズ
台湾のホラー映画ブームのきっかけとなった『紅衣小女孩』シリーズ2作品が今週末、邦題『紅い服の少女 第一章 神隠し/第二章 真実』として遂に日本公開となる。台湾での公開(第一章は2015年、第二章は2017年)から5年以上が過ぎた。
台湾で初めてホラー映画が作られたのは1970年代のことだ。当初は『聊斎志異』など中国の有名な古典小説の映画化からはじまり、1976年に台湾で初の現代ホラー映画『鬼嫁』が作られたが、戒厳令が敷かれた社会でホラー映画はその後ほとんど作られることはなかった。戒厳令が解除された1987年以降、心霊番組テレビ放映されるようになり大人気に。そんな中、番組で紹介されたある投稿動画が発端となり台湾を震撼させた都市伝説のひとつが、本作のモチーフのひとつとなる「紅い服の少女(紅衣小女孩)」である。「紅い服の少女」はハイキングする家族の後ろに見知らぬ赤い服を着た女の子が映り込んでいて、数日後にその家族のひとりが急死してしまったという怪事件だ。
ホラー映画はというと、都会育ちの少年と靈を扱う道士であるおばあちゃんのひと夏の交流を描いた台湾初の国産アニメ映画『魔法のおばあちゃん(魔法阿媽)』(1998年)や2002年に大ヒットとなった国際共同制作映画『ダブル・ビジョン(雙眼)』が登場するも、当時の台湾映画産業の低迷も手伝い、長らくこれといった作品が作られることはなかった。そんな中、2015年に公開された『紅い服の少女 第一章 神隠し』が爆発的ヒットとなり、今日まで続くホラーブームの火付け役となった。
本作でメガホンを執ったのは、台湾映画界を牽引する次世代のヒットメーカー、チェン・ウェイハオ(程偉豪)。国立台湾芸術大学の映画学系修士課程で学び、デビュー作の短編映画『搞什麼鬼』(08)、2作目の『狙撃手』(09)で高評価を得た後、2015年に発表した3作目の短編『保全員之死』(14)で第17回台北映画祭最優秀短編作品賞と第52回金馬奨最優秀短編作品賞をダブル受賞。3本の異なるジャンル映画を撮ったことが、後の彼の作風を決定づけた。チェン監督は過去に「ジャンル映画に必要なのは、我々の生活に密接していること、そして台湾特有のモチーフを用いること」と現地メディアのインタビューで語っている。
『紅い服の少女』には先に紹介した都市伝説のほかに、もうひとつ「魔神仔(モーシンナア)」という妖怪が重要な要素となって登場する。今夏出版された『[図説]台湾の妖怪伝説』(何敬尭著、原書房)でも「人間が山林に入り込めば容易に魔神仔にもてあそばれ、方向を見失い、果ては見知らぬ場所に連れて行かれてしまう」と紹介されているとおり、魔神仔は台湾に古くから伝わる山に棲む妖怪で、山で行方不明者がでたりすると「魔神仔の仕業ではないか」とニュース報道されるなど、台湾人にとっては身近な存在だそうだ。チェン監督はこれらの「生活に密接」した「台湾特有のモチーフ」を用い、第一章ではハイキングする老人たちの動画に映り込んだ「紅い服の少女」と「魔神仔」が引き起こす恐怖を、第二章では「紅い服の少女」誕生のきっかけとなる一組の親子の悲しい物語が描いた。
本作に登場する「名前を呼んではいけない」というタブーや、死者の霊が蘇りのために生者を身代わりにするといった怪異が、それぞれ今配信で話題の台湾ホラー映画『呪詛(咒)』(2022)や『呪われの橋(女鬼橋)』(2020)に通底し、重要なポイントとなっているのも興味深い。そういう意味でも最近の作品から台湾ホラー映画に興味を持った人にもぜひ本作を見てもらえたらと思う。
また第一章で管理人のおじいさんが爆竹を鳴らしながらお祓いをする姿や、第二章で登場する廟で道教の神“虎爺(フーイエ)”を憑依させその言葉を伝える童乩(タンキー)と悪霊のバトルシーンは、かつて『魔法のおばあちゃん』でヒーローとして描かれた道士の存在や台湾の道教信仰を垣間見ることができるだろう。
もうひとつ、第一章、第二章を支配する、じっとりと肌にまとわりつくような湿度の高い、鬱蒼とした空気感を覚えたなら、台湾ホラー小説『ブラックノイズ 荒聞』(張渝歌著、文芸春秋社、2021年)をぜひ。こちらの小説にも緑が深い南国の原生林や「魔神仔」が登場する。『紅い服の少女』との親和性が非常に高く、スクリーンに映し出されたさまざまな情景がオーバーラップすること請け合いだ。
[作品情報]
監督:チェン・ウェイハオ(程偉豪)
脚本:ジェン・シーゲン(簡士耕)
出演:<第1章・第2章共通>アン・シュー(許瑋甯)、ホアン・ハー(黃河)/<第2章のみ>レイニー・ヤン(楊丞琳)、フランチェスカ・カオ(高慧君)、ロン・シャオホア(龍劭華)
[ストーリー]
【第一章 神隠し】
不可解な失踪事件が、新たな謎を呼び寄せる― 不動産会社で働くジーウェイとラジオ DJ のイージュンは交際 5 年目。ジーウ ェイは結婚を意識しているが、イージュンはその気がない。ある日ジーウェイ の祖母シューファンの友人リンさんが山でハイキング中に失踪する。安否を 心配するシューファンだが、数日後突然街に帰ってきたリンさんと入れ違うよ うに今度はシューファンが行方不明になってしまう。そんな中ジーウェイの元 に突然送られてきたリンさんのカメラに映っていたのは、ハイキングを楽しむリンさん達の後をついてくる“紅い服の少女” の姿だった。その夜リンさんの家を訪ねると、そこにリンさんは居らず、ジーウェイは不可解な現象に襲われる。三日後、 イージュンのいるラジオ局に様子のおかしいジーウェイが突然現れ、心配するイージュン。やがてジーウェイも姿を消して しまい、今度はシューファンが戻ってくるも「あの子の名前を呼んでしまった」と錯乱している。イージュンは山に人を誘い 込むという魔物:魔神仔 モ ー シ ンナ アの存在を知り、魔神仔 モ ー シ ンナ アがいるとされる山にジーウェイを探しに行くが、その山で見たものは想像 を絶する恐怖と悲しみに満ちた世界だった…。
<魔神仔 モ ー シ ンナ ア >台湾で古くから伝わる山の精怪。見た目は赤いサルのような姿をしており、台湾の原住民も目撃していたと されている。赤い服を着た子供にも見え、人をもてあそび、山や森で道を迷わせて帰れなくすると言い伝えられている。
予告編➡ https://youtu.be/2nbU15njwvU
【第二章 真実】 "紅い服の少女"に隠された謎と、試される母と娘の絆 社会局家庭内暴力センターのリーは、「最近子供の姿を見ない」と近所の人 から通報があり、リンの家を訪れていた。リンは娘のヨンチンは留守だと話す が、隠し部屋にいるのが見つかる。リーが仕事で娘のヤーティンを構う余裕の ない日々を送るなか、ヤーティンが妊娠していることが発覚する。リーはヤー ティンの意志を無視して中絶させようとするがヤーティンは反発し、学校から 帰宅せず姿を消す。学校の監視カメラの映像を見ると、そこに映っていたのは“紅い服の少女”に連れられて歩き去るヤ ーティンの姿だった。ヨンチンが施設に送られ、離れ離れになってしまったリンは「“紅い服の少女”の正体を知っている」 と驚愕の事実を語り始める。果たしてリーはヤーティンを無事救い出すことができるのかー。
予告編➡ https://youtu.be/WpHi5xh3FnU
配給:OSOREZONE/台湾映画社
配給協力:シンカ
公式HP: https://taiwanfilm.net/akaifuku/
【第一章】2015/台湾/93 分/カラー/シネスコ/5.1ch/原題:紅衣小女孩/字幕翻訳:夏國明 ©2015 The Tag-Along Co., Ltd
【第二章】2017/台湾/108 分/カラー/シネスコ/5.1ch/原題:紅衣小女孩 2/字幕翻訳:夏國明 ©2017 The Tag-Along Co., Ltd
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?