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【無料】 川田十夢(著) 『拡張現実的』 書評:マツモトクラブ(芸人) 「僕と川田とハウスのシチューごっこ」

ピン芸人として活動するマツモトクラブ。実は『拡張現実的』の著者・川田十夢とは小学校の同級生。これは書評でもあり、30年越しのラブレター。

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撮影:池本史彦

まつもとくらぶ ● 芸人。1976年生まれ、東京都調布市出身。ソニー・ミュージックアーティスツ所属。東放学園放送専門学校を卒業後、劇団シェイクスピア・シアターに入団、俳優として活動。退団後、芸人に転身。ピン芸人として、2015年から2019年まで5年連続で『R-1ぐらんぷり』決勝進出。テレビ東京『ゴッドタン』の企画「ネタギリッシュNIGHT」第4回大会で優勝。現在YouTubeとnoteにて「ロッキー川越の《たけのこレディオ》」を放送。また、川田十夢がナビゲーターを務めるJ-WAVE『INNOVATION WORLD』のラジオコントコーナー「週刊テクノコント」に作・演出・出演として参加中。

僕と川田とハウスのシチューごっこ


文/マツモトクラブ(芸人)

小学校3年生の頃だったかしら、僕が通う小学校に川田十夢が転校してきた。僕と川田はすぐに仲良くなり、キン肉マンごっこをしたり、奇面組ごっこをしたり、ハウスのシチューごっこをして遊んだ。休み時間に黒板の前で突然コントを披露したり、ふたりで放送委員会に入り、お昼の放送で少年隊の「ABC」をフリ付きで歌ったりした。放送室のブースの中にいる川田と僕からは、教室で給食を食べながら僕らの放送に耳を傾けているみんなの反応は見えない。だからみんなが耳を傾けていたかもわからない。まったくウケてなかった可能性もある。だけど僕は楽しかった。奇面組ごっこもコントもお昼の放送もハウスのシチューごっこも。川田と一緒にした遊びの数々。川田が開発した遊びの数々。僕はぜんぶ楽しかったんだ●そんな川田の著書『拡張現実的』が出版されました。古くからの友人であり、川田の良き理解者であるはずの私は、すぐにその本を読ませていただきました。本を読んだ私は少し不安になりました。本の内容がところどころ理解出来なかったのですから。良き理解者であるはずの私が、です。川田が『情熱大陸』に出演したあたりから薄々感じてはいたのですが、川田はもう、私とは住む世界のちがう、本物の天才なのかもしれません。そして、川田と共に少年時代を過ごし"通りすがりの天才"の隣にいることで自分まで天才のような顔をして歩んできた私はなんだか"隣にいた凡才"だったのです。私と一緒に奇面組ごっこやハウスのシチューごっこをしていた天才川田は、どんな気持ちで凡才松本と数々の遊びを繰り広げていたのでしょうか。著書に収録されている《雨の日の公園は、美しい。》の、文学的でありながらロックンロールの歌詞のようでもある美しい文脈を感じ取った私は、みみなしほういちのようなデザインの本を持ったままガタガタと震えていましたよ。この男は5才の時点でそんなことを考えていたのか、と。小学生時代の天才川田少年は、全力で腰をクネらせながら小学校の踊り場でハウスシチューの歌をネチっこく歌う凡才松本少年をどんな目で見ていたのでしょうか●心配御無用。川田は僕と同じように楽しんでいたに違いありませんのです。天才川田は、凡才松本を蔑んだことなど一度もありません。むしろ川田は、自分の頭の良さとか発想の凄さとか回転の速さとか、そういう才能と呼ばれそうなことを一旦何処かに放り出して生きているように感じます。知能も知識も技術も備えながら、掌ひとつで開墾しているようであり、最先端のテクノロジーを駆使しながら、さやえんどうの下処理をしているようでもあるのです。何やらスゴイ技術を駆使しながら、くだらないことをやってのける川田に私は愛を感じます。川田の根底に"誰かを笑わせたい"という想いを感じるからです。小学校時代もそうでした。数々の遊びを開発した川田の根底にはいつでも、その想いが流れていました。誰かを笑わせる喜びを私におしえてくれたのは川田十夢かもしれません。著書を読み、そのさらに深い位置にあるのが、お母さんの存在だと知りました。この著書の初版が発行される直前の3月のある朝、おばちゃんが亡くなったと連絡がありました。おばちゃんはとても素敵な方でした。小学生の私のくだらない話でも、おばちゃんはいつだってニコニコ笑いながら楽しそうに聞いてくれました。それが嬉しくて私は、おばちゃんにいろんなお話をしたのを覚えています。川田の家に遊びに行くと、おばちゃんはいつも麦茶を出してくれました。ある日おばちゃんが出してくれた麦茶を飲んで私は「にがいっ」と言ってそれを水で薄めました。おばちゃんはそれが麦茶ではなく烏龍茶だとおしえてくれました。夏に多摩川の花火大会に連れて行ってくれたのもおばちゃんでした。そろばんの先生だったおばちゃんは、私にそろばんもおしえてくれました。どの場面のおばちゃんを思い出しても、おばちゃんはずっとニコニコ、素敵な笑顔で笑っています●おばちゃーん、川田が本を出したというので読んでみたけどさぁ、僕にはところどころ理解出来なかったんだ。1番わからなかったのは《738文字で、セルフブランディングを終わらせる。》っていうお話のところ。僕はあのお話を読み出して2行目でもうわかんなくなっちゃって、あのお話だけ飛ばしちゃったんだ。でもやっぱりちゃんと理解したいと思ったから、もう一度あのページに戻って読み直し始めて4文字目でもうわかんなくなっちゃった。"セルフブ"までだったよ。いつか僕もセルフブランディング部に入れてもらえるかなぁ。1番グッときたのはね、やっぱりおばちゃんのお話のところ。僕の知らない単語とかをポンポン使う川田だけど、川田の根底に流れているあたたかいものを、僕は無意識に感じ取っていて、出だしの意味が理解出来なくても、それがいつかなんだか好きなものになって、心がポッとあったかくなる。難しいことは僕にはわからないし、川田がやろうとしていることも僕には理解出来てない部分が多いかもしれないけど、それが何か僕にも理解出来た時に、僕はそれを絶対に好きだと思える自信があるんだ。川田はいつもそういうものをつくる。もしかするとこの本は、未来に向けた予言書みたいな部分もあるのかもしれない。いまの僕の頭では理解しにくいようなお話を、川田はもうとっくに理解出来ていて、それを僕たちにおしえてくれようとしているようにも思えるんだ。小学校の頃からそうだった。川田は新しい遊びを思いついて、それを僕たちにおしえてくれた。いつでも。ハウスのシチューごっこだけは僕、理解出来てないけど。いまでも。

(了)

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<書籍情報> 
川田十夢(著) 『拡張現実的』

発行:東京ニュース通信社
発売:講談社 
本体価格:1,500円+税

2011年4月〜2020年2月まで、雑誌「TV Bros.」でおよそ10年間にわたって連載されたコラム初の単行本化。通りすがりの天才・川田十夢が、言葉と文体によって事象の拡張を試みた文学的スケッチ。創作のアイデア、未来への提言、過去のサンプリング、現在芸術論、クールな時評からハートウォームなエッセイまで、膨大な思索が濃縮して綴られた高密度テクストの集大成。

かわだ・とむ ● 1976年生まれ。熊本県出身。通りすがりの天才。1999年にミシンメーカーへ就職、面接時に書いた「未来の履歴書」に従い、全世界で機能する部品発注システムやミシンとネットをつなぐ特許技術発案などを一通り実現。2009年に独立、やまだかつてない企画開発ユニット「AR三兄弟」の公私ともに長男として活動を開始。主なテレビ出演番組に『笑っていいとも!』『情熱大陸』『課外授業 ようこそ先輩』『白昼夢』『タモリ倶楽部』など。主な拡張仕事は、ユニコーンやBUMP OF CHICKENとのコラボレーション、真心ブラザーズのMV監督・出演、新海誠監督のアニメーション作品のAR化など多岐にわたる。現在はJ-WAVE『INNOVATION WORLD』のナビゲーター、文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査員を務める。

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