【26】「商標が似ている」とは、どう判断するのか?
こんにちは、横浜市の商標弁理士Nです。
早くも近所で、セミの鳴き声がし始めました。
さて、商標登録をすると、「商標権」という権利が発生するということについては、すでに皆様がご理解のとおりです。
この商標権があることの効果の一つとして、「他社が、似ている商標を使うのをやめさせることができる」という点がありました(ご参考:「【3】商標登録のメリットとは何か?」)。
一方で、自社の商標を商標登録しようとした場合に、「その商標と似ている商標が、先に誰かに商標登録されていたら登録できない」という点も、忘れてはならないポイントでした(ご参考:「【22】商標登録が認められない理由とは?」)。
このように、商標の世界では、「商標が似ている」という概念は、非常に重要となります。おそらく、「実務上、もっとも大事な点」と言っても、言い過ぎではないと思います。
ところで、この「商標が似ている」とは、どのような場合を言うのでしょうか?
たとえば、「商標弁理士N」が商標だと仮定した場合。
「ショーヒョーベンリシエヌ」とは、似ているのでしょうか?
「商標弁理士M」と比べたら、どうでしょうか?
「商標弁護士N」とか「商標税理士N」があったら、どうですか?
「スーパー商標弁理士N」とか「商標弁理士N&N」は?
「証票便利師N」だったら?(笑)
ここで、「似ていると思う」、「似ていないと思う」という意見は、誰でもわりとすぐに出せるのではないかと思います。でも、その理由を聞くと、「なんとなく」とか、「印象が」といった答えが多いのではないでしょうか。もし、本当にそのような主観に基づくものであれば、個人間で大きな差が出て、不安定な判断になってしまいますので、よろしくありません。
そこで、実際の商標実務では、「商標が似ている」かどうかを判断するための基準があります。というわけで、今回の記事では、『「商標が似ている」とは、どう判断するのか?』について、できるだけシンプルにお話ししていきたいと思います!
1.商標が似ているかを判断する際の要素
「商標が似ているかどうか」を判断する際に考慮する要素は、次の3つがあります。
(1)外観 → 商標の「見た目」
(2)称呼 → 商標の「発音・読み方」
(3)観念 → 商標の「意味合い」
ある商標とある商標を比較して、これらの外観、称呼、観念の要素のいずれかの共通性が強い場合、原則として、「商標が似ている」ということになります。
ただし、3つの要素の共通性のバランスも、総合的に見て加味されます。
また、必ずしもこれらの3つの要素だけが考慮されるわけではなく、商品やサービスの関連性や取引の実情など、様々な点も参考にされます。
なお、ここではシンプルに説明しましたが、特許庁の「商標審査基準」(第4条第1項第11号)には、以下のように書かれています。ご参考まで。
1.商標の類否判断方法について
(1) 類否判断における総合的観察
商標の類否は、出願商標及び引用商標がその外観、称呼又は観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察し、出願商標を指定商品又は指定役務に使用した場合に引用商標と出所混同のおそれがあるか否かにより判断する。
2.もっとも重視される要素は「称呼」
実際の商標実務の現場では、これらの外観、称呼、観念の要素のうち、もっとも重視されるのは「称呼」です。逆に、「観念」が重視されることは、ほとんどありません。
もちろん、称呼だけが考慮されるとか、観念はまったく考慮されないとかいう話ではなく、すべての要素が比較された上で、どこに特に重きが置かれるかという話です。
ですから、ある商標とある商標が似ているかを考える際には、まずは称呼(発音・読み方)が近似するかどうかを検討するという点は、大切なポイントになります。
なお、比較する商標がシンボルマークなどの図形同士である場合は、事情が変わります。図形からは、称呼が生じないからです。よって、図形商標の場合は、外観(見た目)がもっとも重視されることになります。
3.称呼が同じでも、「商標が似ていない」とされる場合もある
上述のように、商標(文字商標)が似ているかどうかを判断する場合には、称呼(発音・読み方)の要素の共通性が重視され、これが近似すれば、基本的には「似ている」とされることがほとんどです。
しかし、これまた先にお話ししたように、外観、称呼、観念の3つの要素の共通性のバランスも、総合的に見て加味されることになります。この場合、たとえ両商標の称呼が近似していても、「商標が似ていない」と判断されることもあるのです。
実際の例を一つ見てみましょう。
過去に、商標「詩音」と商標「Sion」が、似ているかどうかが争われた事件(不服 2018-13486)がありました。
これらの商標は、最初は「似ている」と判断されました。
たしかに、どちらも「シオン」と発音しますので、称呼が同じになります。そして、文字商標の場合、この称呼の共通性が特に重視されることは、すでにお話しした通りです。というわけで、このような結論となっても、何もおかしなことではありません。
しかし、最終的にこれらの商標は、「似ていない」とされました。
特許庁の判断で、ドンデン返しが起こったのです。
その理由としてまず、両商標は、たしかに称呼は共通しているけども、外観(見た目)や観念(意味合い)が全然違うよね、という点が挙げられています(なお、ここでは、「詩音」からは「詩(ウタ)の音」の観念が生じるが、「Sion」からは何の観念も生じないとされています)。
また、「詩音」からは「シオン」だけでなく、「ウタネ」とか「ウタオト」の称呼も生じるから、称呼が共通するのはあくまでそれらのうちの一つだよね、という点も考慮されているように見受けられます。
そして、これらをトータルして考えると、商標「詩音」と商標「Sion」は、商標全体としては「似ていない」と結論付けられたわけです。
このようなケースがあることにも、留意する必要があるでしょう。
まとめ
いかがだったでしょうか?
「難しいけど、面白いな・・・。」
そのように感じられた方も、少なくないのではないかと思います。
まったくその通りで、実は、「商標が似ているかどうか?」をしっかり判断することは、たとえ実務経験が豊富でもなかなか難しいのです。でも、面白い。だから、商標実務は楽しくてやめられないんです(笑)。
とはいえ、当事者にとっては、結論次第で天と地の差が出るわけです。
ですから、この「商標が似ているかどうか?」の判断の場面においては、非常にプレッシャーがかかりますし、のしかかる責任感というのも半端ないのです。
というわけで、今回の記事では、『「商標が似ている」とは、どう判断するのか?』について、お話をいたしました。商標実務では非常に重要な点となりますので、ぜひ覚えておいていただければと思います!!
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