【29】事業者が商標調査をすべきタイミングとは?

こんにちは、横浜市の商標弁理士Nです。
東京オリンピック、ついに開催されましたね。
賛否両論があるとは思いますが、ただただ今後の世の中の状況が良い方向に向かってくれることを、今は祈るだけです。

さて、以前の「【24】「商標調査」とは、何を調べるのか?」の記事では、商標調査の内容ややり方について、お話しました。シンプルに言えば、商標調査とは、以下のようなものでした。

調査対象の商標について、(1)商標登録ができる可能性(登録可能性)と、(2)他人の商標登録との関係において問題なく使える可能性(使用可能性)を、精査・検討すること。

これまでの記事では、「ある商標について、商標登録ができそうかを知る手段」、つまり(1)の観点から、主に商標調査の重要性を述べてきました。しかし、「ある商標について、使っても問題とならないかを知る手段」、つまり(2)の観点からの商標調査も、実は非常に重要となります。

なぜなら、問題があることを知らずに商標を使っていた場合、その行為が「他者の商標権を侵害する」可能性があるからです。

すでにお話ししたように、商標登録をするかしないかは事業者の自由です。ですから、もし、あえて商標登録をしなかったことで、「被害者」となって痛い目に遭っても、ただの自業自得です。一方で、他者の商標権を侵害してしまうと、「加害者」となり、それなりの法的責任を負うことになります。そういった意味では、むしろ(2)の観点による商標調査の役割の方が、重要と言えるかもしれません。

事業者の方々の中には、商標権侵害を甘く見ている方もおられます。
「問題が出てきたら、商標を変えればすむ話でしょ?」
と、強気でおっしゃる方をたまに見かけます。

こういうことを言う方は、たいてい商標制度を正しく理解していないと思われます。さすがに、「楽観的すぎる」と言わざるを得ないでしょう。

まず、「商標を変える」というのは、それほど簡単な話ではありません
たしかに事業内容にもよりますが、商品のパッケージ、カタログやチラシ、ホームページの内容、看板など、変更の対象となるものは普通は少なくないはずです。そして、その変更作業には、一般的に多大な費用・労力がかかるものではないでしょうか。

また、商標を変えたとしても、その時点までの商標権侵害行為がなかったことになるわけではありません。過去の侵害行為について、損害賠償を請求される可能性だってあるのです。

さらに、貴社が他者の商標権を侵害したということが取引先や顧客の耳に入れば、貴社のイメージダウンや社会的信用の低下にもつながってしまうことは、さすがに避けられないでしょう。

このように、他者の商標権を侵害するというのは、決して影響が小さいものではありません。いざ問題となれば対応も大変ですので、極力回避を心がけるべきです。

というわけで、「ある商標について、使っても問題とならないかを知る手段」という観点からの商標調査がやはり役に立つわけです。それでは、どのようなタイミングでこの商標調査を実施すれば良いのでしょうか?

当然ながら、基本的には「その商標を実際に使い始める前」ということになるのは、おわかりになるでしょう。これを前提として、より具体的に言えば、主に以下のようなタイミングになるはずです。

1.新しい商品名を考えたとき

商品名は、商標になる場合がほとんどでしょう。

新商品のネーミング案をいくつか考えた時点で商標調査を行っておけば、問題のある商品名を採用してしまうのを事前に回避できますし、商標登録によって独占使用できる可能性も事前に予測することができます。

2.新しいサービス名を考えたとき

サービス名も、商標になり得ます。

商品名の場合と同様に、新サービスのネーミング案をいくつか考えた時点で商標調査を行っておけば、問題のある名称を採用してしまうのを回避することが可能になります。

サービスに関して使いたくなるような「〇〇〇プラン」、「〇〇〇コース」、「〇〇〇割」など、意外な名称が商標登録されているケースもありますので、油断は禁物です。

3.新しいシンボルマークを作ったとき

ロゴ図形などのシンボルマーク(たとえば、会社のマーク)を、商品やサービスに表示することがありますが、これも商標になり得ます。

構成が非常に複雑であれば不要な場合もあるとは思いますが、新しいシンボルマークを作ったら、実際に使用する前にきちんと商標調査をしておけば安心です。シンボルマークが比較的シンプルな構成の場合は、特に商標調査の実施をオススメします。

なお、ロゴ図形などのシンボルマークの商標調査は、商品名やサービス名などの文字を対象として調査する場合とは異なった手法がとられます。

最近では、ロゴ制作をデザイン業者に依頼すると、提携する弁理士等による商標調査までサービスに含まれている場合もあるようですので、そういったサービス(業者)の利用を検討するのも良いかもしれません。

4.お店の名前(店名・店舗名)を考えたとき

お店の名前(店名・店舗名)も、多くは商標になり得ます。

状況としては、新規開店や、新店舗展開を考えたタイミングということになるでしょうか。お店の外装・内装・備品・制服・印刷物などの発注前には、商標調査を済ませておいて、採用しようとする名称に使用上の問題がないことを確認しておくべきでしょう。もし、後から問題があることが発覚したら、作り直しなどの影響が特に大きいからです。

なお、シンプルな名称や、良い意味合いのある英単語からなる名称は、すでに他者によって商標登録がされている可能性が比較的高いと考えられますので、注意が必要でしょう。

5.会社の名前(企業名・法人名)を考えたとき

会社の名前(企業名・法人名)も、使い方によっては商標になり得ます。

たとえば、「株式会社〇〇〇」や「〇〇〇株式会社」の「〇〇〇」の部分を、ブランド名のように使う場合です。ソニー(SONY)とかパナソニック(Panasonic)を思い浮かべると、わかりやすいでしょうか。

このように、会社名を「商標として」も使う可能性があれば、きちんと商標調査を実施して、使用上の問題がないことを確認した上で、会社名を決めるべきでしょう。会社名を後で変更するのは、手間も労力も認知度的な損失も大きいですから、特に注意したいところです。

会社名を決める場面での話となりますので、状況としては、起業前や新会社設立を考えたタイミングということになるでしょうか。たいていの場合は、ドメイン名の取得にも関わってくると思いますので、やはり採用する名称は慎重な決定が望ましいと考えます。

なお、商業登記(商号登記)と商標登録は別物ですので、商業登記(商号登記)をしているから安心だということにはならない点には、要注意です。

<まとめ>

以上のように、事業者が商標調査をすべきタイミングとは、基本的に「その商標を実際に使い始める前」となりますが、大切なのは、名称を考えたり、思い付いたりした時点で、早め早めに行うことでしょう。ネーミング案が挙がったら、商標調査によって問題がないことを確認した上で、「本採用」とする流れが理想的と言えます。

そして、商標調査の結果、使用上の問題がないことを確認して終わりにするのではなく、ぜひとも、そのまま商標登録も検討することを強くオススメします。商標登録は「早い者勝ち」ですから、調査をした時点では問題がなかったとしても、時間の経過によって他者が先に商標登録をしてしまい、後からトラブルが生じることも十分に考えられるからです。これは本当に、声を大にして言っておきたいことです。1日も早い行動が大切なのです!

なお、商標調査のやり方については「【24】「商標調査」とは、何を調べるのか?」の記事、商標調査を依頼する場合の注意点については「【25】商標調査を依頼する場合の注意点とは?」の記事をご参考くださいませ。

ちなみに、「商標調査をせずに、もうとっくに使い始めちゃってるんだけど!」という事業者の方がいらっしゃいましたら、リスクチェックという意味でも、すぐに商標調査を実施された方がよろしいかと考えます。

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【企業・経営者向け】
「はじめての商標と商標登録のためのお話」は、
こちらの目次からご覧いただくことができます。

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