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構造デザインの講義【トピック1:構造とデザイン】第4講:それでも、建物は壊れます

東京理科大学・工学部建築学科、講義「建築構造デザイン」の教材(一部)です



建物は壊れる、ということを認識することは、大切です

建物に自然外力が作用すると、骨組は変形して力が生じます。
このときの変形や力が材料の強度を上回ると損傷し、構造物は崩壊することがあります。

建物は、いつかは消え去るという運命からは、逃れられません。
それが、寿命によるものか、損傷や倒壊によるものか。

かつて、世界には七不思議と呼ばれる建造物が存在していました。
しかし、今日では、その全容を見ることができるのは、ピラミッド、ただ1つです。
そのほかの建造物は、文明の忘却とともに崩壊し、今日では遺構が残るのみです。


建築構造の学問や技術の役割、それは「安全性の確保」です。
構造物を設計する第一歩は、例外なく、すべてここから思考が始まります。

地震による建物の構造の被害

1901年、イランの古都・スーサで、暗緑色に鈍く光る石碑・ハムラビ法典が発見されました。
およそ4000年前、バビロニア法廷の判例が楔形文字で刻まれています。
その中に、建物の建設と、その安全性について、以下の記述があります。

「もし建築家が他の人のために家を建て、その建設が堅固でなく、倒壊によって所有者の死亡を招いたならば、その建築家は死罪に処せられるべし」


我が国の地震学、耐震工学などは、最先端の科学技術をもって確立されています。
しかし、その理論・技術を基盤とした工学をもってしても、風や地震、水害によって、都市・建物は壊滅的な損傷を被ります。

中世から近代にかけて、材料と自然科学の急速な発展により、橋の超スパン化が加速しました。
しかし、ケベック橋やタコマ・ナローズ橋などのように、設計者の予想だにしない落橋の事故を繰り返すこととなりました。

これらの経験を通し、調査によって原因が究明され、研究成果によって新しい知見を得て、学問と技術が高度化してきました。
被害を乗り越え、発展を繰り返す歴史を経てきたわけです。
それは、貴重な人類としての経験・学びであり、財産とも言えます。

「百の成功より、一つの失敗のほうが、より教訓的である」
「失敗はいかに成功のもとになるか」

世界の災害

建築に携わる人たちが、未然の失敗を体験・経験することは、とても重要なことです。
それは、科学的に究明され、知識・技術の発展を経て、共通の財産として共有されます。
人類は、古代・中世のドゥオーモの崩壊、近代の落橋、現代の自然災害による大規模被災に直面しても、前を向いて歩み続けてきました。

「新しいこと、より困難なものを作ろうとするエンジニアリングは、つくる人としての人間の本性に発した営みである。そして、人間の営みゆえであるがゆえに時に誤ることがある。その誤りが、また次の成功につながる最大のカギとなる。」


「エンジニアリングの中核は設計、すなわち、これまでに存在しないものをつくること」と、解釈されることがあります。
設計(デザイン)とは、追及、発想、検討の繰返しの作業です。

また、「エンジニアリングとは仮説である」とも言われます。
建築物の設計プロセスにおいて、材料、構造体、解析法、荷重・外乱などは、すべて推定に基づいて進められ、その仮説の安全性を証明し、検証されるのです。

建物を作るプロセス

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