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構造デザインの講義【トピック1:構造とデザイン】第2講:建物の表現と構造

建物は、具体的に作れないと、意味がない



建物の構造

建物の構造は、どのような材料を用い、どのような形式で、どのような工法でつくるかを考えることが重要です。
このことは、建築を考える第1歩になります。
建物のイメージに合わせた選択をしなければなりません。

人類は、古代よりさまざまな材料を使って構造物を建設してきました。
古代において、入手が容易であった天然材料の石を積み上げて、ピラミッドや神殿などが建設されました。
古代ローマ時代には、石をアーチ状に積み上げて水道橋が建設されました。
これにより、生きるために必要な水を、都市にひき、整備することができました。
さらに、時代が進み、石の組積造によるドームが誕生しました。
その後、セメントやモルタルを利用して大聖堂などが登場しました。

各地の資材・石や土、レンガなどを使った万里の長城(左上)
木と藁による高床式住居は外敵・環境に対する食料保管などの知恵から生まれた(右上)
レンガを骨組で支持して構造が考えられたサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂(左下)
建設当時の材料を使って復元された東京駅(右下)

中世・近代になると、工業製品のセメント、鉄、ガラスなどが使用されるようになりました。
近代にはいり、性能がさらに進化した材料の登場により、建物規模や形態が変化しました。
現代では、鉄鋼材料や高強度のコンクリートを用いて超高層建築や大スパン・大空間建築が建設されるようになりました。

建物の構造にも、歴史があります。
それを理解したうえで、構造を設計し、デザインすることが大切です。

膜材を使い、明るく優しい、浮遊感のある空間を演出しているグランルーフ(左上)
鉄骨に木を纏わせ、樹木を表現した雲の上の図書館(右上)
視線の抜けを邪魔せず、透明性を極限まで追求した国際フォーラム(左下)
曲面の壁で光と影を落とし、神聖な空間を演出する東京カテドラル(右下)

建物の施工

天然材料による古代の構造物は、ころやてこの原理により建設されていたと考えられています。

古代の巨石による建造物の中で、ピラミッドやストーンヘンジ、モアイ像など、その建設方法は、徐々に解明されつつありますが、今でも謎があります。
中世において、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の建設では、巨大な組積造ドームの具体的な建設技術が決まらず、建設が長期間中断しました。
近代では、サグラダ・ファミリアの建設では、建設技術や予算、維持管理の問題から、完成まで300年ほどかかるとされていました。

つまり、建物は、具体的な建設方法を合わせて考える必要があります。

サンタ・マリア・デル・フィオーレやサグラダ・ファミリアなどの大聖堂は、壮麗で尊厳な大空間としての要求ゆえに、建造方法が永らく見いだせなかった
出雲大社は、今日でいうところの高層ビル並みの高さであったと考えられている
シドニーオペラハウスは、当初、シェル構造として設計されたが、具体的な建設方法が見つからず、骨組構造として実現された

近代建築の建設方法は、建物の規模、構造種別や構造形式などによってさまざまです。
設計、材料、加工、組立、などの工程を、精度や品質を管理しながら進められます。

例えば、鉄骨造は、柱や梁などの鉄骨部材をあらかじめ鉄工所などで加工し、建設現場ではボルトや溶接によって、組立によって建設されます。材料の製造、加工、運搬、骨組の建設、監理まで、高度にシステム化されています。
RC造は、柱や梁、壁の形状に合わせて型枠を組み、鉄筋を配してコンクリートを流し込み、建設現場で作られます。また、大型の資材や部材、工具類はクレーンなど重機を使用して運搬され、超高層や大空間の建築物が建設されます。

超高層や大スパン建築を支える鉄骨構造は、重厚な鉄骨の部材を重機で運搬し、ボルトや溶接によって骨組が組み立てられる

建造物の施工においても、今日の科学技術の発展により、より早く、確実に建設できるようになってきました。
すなわち、建造にあたっての設計、測量、加工、建方において、最先端の科学技術や機器等が利活用されています。


科学と構造

建物に荷重が作用すると、柱や梁などの骨組は変形し、力(応力)が働きます。
このときの変形や応力が、材料の強度と変形能力の限界を上回ると損傷し、最終的に建造物は倒壊します。
安全な構造を設計するには、建物に生じる変形と応力の大きさを算定して、安全性を検討することが必要です。

古代の建造物は身の回りの材料を使って、経験的に作られました。
ゴシック建築は、当時、壮麗で優雅な大空間ゆえに、巨大なアーチやヴォールト、ドームが崩壊する事例も生じ、構造と力学が工夫されて安全が高められました。
建造物の損傷や崩壊の歴史を経て、安全な建造物を作るための技術や科学が発展してきました。

今日の建築物の構造設計は、構造解析学と材料力学がベースとなって、安全性が検証されます。
すなわち、
1.構造解析学に基づいて柱や梁などの構造骨組に作用する変形と応力を計算し、
2.材料力学に基づいて断面のもつ強さを求め、
3.骨組の形式や断面の形状寸法を決めます。

これらの基礎となる自然科学や力学、数学、その理論や原理は、古くは15世紀のレオナルド・ダ・ヴィンチの力のモーメントや力の合成、アーチの推力、仮想仕事の原理にまで遡ります。
また、17世紀にロバート・フックは、力と変形は比例することを示し(フックの法則)、18世紀のトマス・ヤング、レオンハルト・オイラーなどの業績により、弾性力学の基礎が確立されました。

弾性力学の確立と発展により、これまでの経験から、科学によって、建物など建造物の建設が可能となりました。
もっと言えば、建物の安全は、数学と力学によって、守られています。

重力による形状=懸垂曲線。
伊勢の夫婦岩をすなぐ大柱連縄は、懸垂曲線。
吊り橋を支えるケーブルは、懸垂曲線。
国立代々木競技場第一体育館の大屋根を支えるケーブルは、懸垂曲線。

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