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構造デザインの講義【トピック5:超高層と大空間の構造とデザイン】第5講:大空間の骨組を考える

大空間建築も、骨組によって支えられています

東京理科大学・工学部建築学科、講義「建築構造デザイン」の教材(一部)です



フォルムに合わせた構造が、そこにはある

世界には、独創的なフォルムの建築物がたくさんあります。
国や地域によって、建物の安全にクリティカルな外力・荷重は同じではありませんが、いずれも、力学や応力に応じて、適切な構造が採用されています。

独創的なフォルムの構造と空間のデザインを披露する、サンチャゴ・カラトラバ
(写真:Pixabay, https://pixabay.com/ja/)

シドニー・オペラハウス

リオデジャネイロ、香港と並び、世界三大美港のひとつと言われるシドニー湾。
波や白い帆のイメージを彷彿とさせるシドニー・オペラハウスは、20世紀の建築の最高傑作の一つであり、世界遺産でもあります。

見る場所や角度、そして時間や季節により、その表情を変えます。
白磁の白タイルは、汚れがつくにくく、耐久性にも優れています。
光を反射しますが、決して強すぎることはなく、太陽の動きから季節や時間の移ろいを感じさせます。
シェルの開口側に立つと、エッジが際立ち、シャープな姿を見せます。
いくつもの波が押し寄せる姿も圧巻です。

1956年、国際コンペが開催され、デンマークの建築家・ヨーン・ウッソンの「基壇とシェル」の案が選ばれました。
当時、建築界はシェルの名手により、斬新で有機的な大空間建築が世に生み出されていた時代です。
トロハ、ネルヴィ、キャンデラ、そしてウッソンの案を発掘したサーリネン、など。

そのような中、ウッソンの案は、フリーハンドが描く自由な形態が際立っていたと言われています。
しかし、自由で独創的がゆえに、建築の完成まで、実に16年の歳月を要することになりました。
具体的な構造方式と有効な建造技術が見いだせなかったためです。

ウッソンの案の問題点は、1.屋根構造、2.屋根のタイル仕上げ、3.大小ホールのインテリア、4.ガラス壁、でした。

1と2は、オブ・アラップとの共同により進められました。
自由曲面の屋根は、数式で表現が可能なパラボロイド、放物曲面によって定義づけるため、理論、数値解析、模型実験が続けられました。
しかし、当時、技術的な限界に直面していました。

そこで、純粋なシェル構造を断念し、骨組構造を前提として、シェルは二重殻として、内部に鉄骨を用いる案となりました。
しかし、RC曲面の打設や工事、施工の課題は未解決でした。

1961年夏、ウッソンは単一の曲面から、屋根構造のすべての曲面を切り出せば、同じ曲率を持つシェルとすることができることをひらめきます。
プレキャスト化することで、同一部材の利用が可能となりました。


大阪の駅と空港の曲面空間

曲面の空間は、鉄骨によって構成されることもあります。
国や都市のターミナル駅は、出発・訪問の第一印象に残る重要な施設です。
大阪駅と関西国際空港には、鉄骨トラスによるキールアーチにより、大屋根曲面構造が作られています。
多くの人々が集まる賑わいの空間を包み込みます。

国際ターミナルに相応しい立体空間を支える、トラスによる曲面の構造体
大阪駅のアクロバティックな大空間を支えるトラスによる曲面の構造体

幕張メッセ

メッセとは、見本市・展示会を意味します。
もともとは、ドイツの教会のミサにおいて、教会前で行われていた門前市が由来です。

幕張メッセは、複数の大空間建築の施設が揃う、国内第2位の規模の複合コンベンションセンターです。(第1位は、東京ビッグサイトです)
現在、国際展示場、イベントホール、国際会議場に使用される4つの施設があります。

このうち、国際展示場9-11ホールは、特徴的な屋根フォルムの大空間建築です。
支柱とバックステイ、そして一見すると、懸垂曲線のように見える、トラスによる曲線の屋根があります。
すなわち、吊り橋と同じ構造が見られます。

カテナリー曲線の屋根は、構造安全を増すためにトラスで構成されている

懸垂曲線は、軸力のみが作用するため、断面効率が良く、ケーブルなどテンション材を配置することができます。
しかし、幕張メッセでは、曲げやせん断、圧縮にも抵抗できるよう、トラスが採用されています。
これは、地震や風などの水平外力が作用した際、曲げやせん断が作用するため、テンション材では抵抗することができず、適切なトラス構造が用いられています。

また、ライズが低い形状であるため、力学的な要件が関係しています。
さらに、橋梁などと違って、建築物は屋根や天井、設備などを設置する必要があるため、屋根面としての剛性を確保していることも関係しています。


国際展示場1-8ホールの大空間の大屋根を支える鉄骨トラスのキールアーチ
国際展示場1-8ホールの入口のキャノピーは、鉄骨ラチスにより曲面屋根を支えている

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