構造デザインの講義【トピック5:超高層と大空間の構造とデザイン】第5講:大空間の骨組を考える
大空間建築も、骨組によって支えられています
東京理科大学・工学部建築学科、講義「建築構造デザイン」の教材(一部)です
トピック5:超高層と大空間の構造とデザイン
第1講:産業革命と建築構造、その装飾性
第2講:大スパンの構造とデザインと空間
第4講:超高層の構造とデザインと空間
第5講:大空間の骨組を考える(ココ)
フォルムに合わせた構造が、そこにはある
世界には、独創的なフォルムの建築物がたくさんあります。
国や地域によって、建物の安全にクリティカルな外力・荷重は同じではありませんが、いずれも、力学や応力に応じて、適切な構造が採用されています。
シドニー・オペラハウス
リオデジャネイロ、香港と並び、世界三大美港のひとつと言われるシドニー湾。
波や白い帆のイメージを彷彿とさせるシドニー・オペラハウスは、20世紀の建築の最高傑作の一つであり、世界遺産でもあります。
見る場所や角度、そして時間や季節により、その表情を変えます。
白磁の白タイルは、汚れがつくにくく、耐久性にも優れています。
光を反射しますが、決して強すぎることはなく、太陽の動きから季節や時間の移ろいを感じさせます。
シェルの開口側に立つと、エッジが際立ち、シャープな姿を見せます。
いくつもの波が押し寄せる姿も圧巻です。
1956年、国際コンペが開催され、デンマークの建築家・ヨーン・ウッソンの「基壇とシェル」の案が選ばれました。
当時、建築界はシェルの名手により、斬新で有機的な大空間建築が世に生み出されていた時代です。
トロハ、ネルヴィ、キャンデラ、そしてウッソンの案を発掘したサーリネン、など。
そのような中、ウッソンの案は、フリーハンドが描く自由な形態が際立っていたと言われています。
しかし、自由で独創的がゆえに、建築の完成まで、実に16年の歳月を要することになりました。
具体的な構造方式と有効な建造技術が見いだせなかったためです。
ウッソンの案の問題点は、1.屋根構造、2.屋根のタイル仕上げ、3.大小ホールのインテリア、4.ガラス壁、でした。
1と2は、オブ・アラップとの共同により進められました。
自由曲面の屋根は、数式で表現が可能なパラボロイド、放物曲面によって定義づけるため、理論、数値解析、模型実験が続けられました。
しかし、当時、技術的な限界に直面していました。
そこで、純粋なシェル構造を断念し、骨組構造を前提として、シェルは二重殻として、内部に鉄骨を用いる案となりました。
しかし、RC曲面の打設や工事、施工の課題は未解決でした。
1961年夏、ウッソンは単一の曲面から、屋根構造のすべての曲面を切り出せば、同じ曲率を持つシェルとすることができることをひらめきます。
プレキャスト化することで、同一部材の利用が可能となりました。
大阪の駅と空港の曲面空間
曲面の空間は、鉄骨によって構成されることもあります。
国や都市のターミナル駅は、出発・訪問の第一印象に残る重要な施設です。
大阪駅と関西国際空港には、鉄骨トラスによるキールアーチにより、大屋根曲面構造が作られています。
多くの人々が集まる賑わいの空間を包み込みます。
幕張メッセ
メッセとは、見本市・展示会を意味します。
もともとは、ドイツの教会のミサにおいて、教会前で行われていた門前市が由来です。
幕張メッセは、複数の大空間建築の施設が揃う、国内第2位の規模の複合コンベンションセンターです。(第1位は、東京ビッグサイトです)
現在、国際展示場、イベントホール、国際会議場に使用される4つの施設があります。
このうち、国際展示場9-11ホールは、特徴的な屋根フォルムの大空間建築です。
支柱とバックステイ、そして一見すると、懸垂曲線のように見える、トラスによる曲線の屋根があります。
すなわち、吊り橋と同じ構造が見られます。
懸垂曲線は、軸力のみが作用するため、断面効率が良く、ケーブルなどテンション材を配置することができます。
しかし、幕張メッセでは、曲げやせん断、圧縮にも抵抗できるよう、トラスが採用されています。
これは、地震や風などの水平外力が作用した際、曲げやせん断が作用するため、テンション材では抵抗することができず、適切なトラス構造が用いられています。
また、ライズが低い形状であるため、力学的な要件が関係しています。
さらに、橋梁などと違って、建築物は屋根や天井、設備などを設置する必要があるため、屋根面としての剛性を確保していることも関係しています。
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