『カリギュラ2』感想:「選択」の結果を突き付ける、理想的な続編。
シャニマスPなので、『カリギュラ2』を買った。というより、本作を遊びたいがために前作に触れ、アニメまでも履修し、「μ」の歌声に心奪われすっかりカリギュラ中毒に。そして今ではシャニマスのログインも寝食も後回しにするくらい、本作に夢中になっている。
2016年にPlayStation Vita専用ソフトとして送り出され、その後はリメイク版の発売、アニメの放送や小説版など様々な展開が繰り広げられてきた『カリギュラ』の、待望の続編。前作から5年後、現実社会で後悔を抱えた者たちが集う仮想空間リドゥを舞台に、リドゥの真実に気付き現実への帰還を目指す「帰宅部」の部長となって、リドゥの歌姫リグレットと彼女に楽曲を提供する「楽士」に挑む、ジュブナイルRPGだ。
本noteは、『カリギュラ2』が気になっている、あるいはタイトルすら知らなかった方に向けたプレゼンを心掛けて書かれている。物語のネタバレを含まないため、安心してお読みいただけると思う。外出自粛を推奨される今、おうち時間を豊かにするための参考になれば幸いだ。
……と銘打っておきながら、まずは前作『カリギュラ オーバードーズ』の話をしなければならない。記念すべき一作目に新キャラクターや帰宅部を離反する裏ルートの追加、その他システム面でも大きな改修が行われた現行ハード向けのリメイク作だが、お世辞にもそれはゲームとしては親切さと洗練さに欠けた、非常に「ぎこちない」一作でもあった。
私が前作(『オーバードーズ』、以下『OD』)に感じた不満点は、主に以下の三つである。
・複雑で時間のかかるバトル
・面倒で不親切なサブクエ周り
・不自然な時間稼ぎマップ
詳細は上掲のnoteを参照いただくとして、序盤でプレイを中断してしまったというツイートを見かけたことがあるほどに、これらの要素がプレイヤーに多大な負荷をかけ、作品の印象をネガティブなものにしてしまった過去がある。では、続編である『2』はどうなのか。結論から言えば、「前作の欠点をことごとく潰してきた上で【カリギュラらしさ】を継承した、理想的な続編」というのが、プレイしてみての素直な所感であった。
簡略化が成立させた爽快感のあるバトル
『カリギュラ』の戦闘を象徴するシステムとして、「イマジナリィチェイン」というものがある。これは、敵味方の行動予測を観ることのできる未来予想図であり、プレイヤーは自ら選択した行動の結果、あるいは敵の行動を事前に把握することで、優位な状況を自ら作り出すことのできるシステムだ。最大4人のパーティの行動を緻密に組み上げ、敵の攻撃に合わせてカウンター技を選び被弾を防いだり、コンボを構築して敵のHPを大きく削ったりと、その場その場で最適解を考え実践していく、奥深いバトルが楽しめる。
しかし、その奥深さゆえに一度の戦闘が長引いたり、コンボの始動技を回避されれば時間をかけて組み上げた戦略が一瞬にして水泡に帰すフラストレーションを感じたりと、好みが分かれるシステムであることは間違いなかった。キャラクター一人につき最大3回、4人パーティなら合計12回に及ぶコマンド選択と発動タイミングの指定を終え、いざ実行に移すもあくまでイマジナリィチェインは未来予測であり、相手が強敵であるほど(レベルが離れているほど)その不確実性は高まる。結果、最も気を遣って行動選択をしなければならないボス戦にてハプニングが生じやすく、コンボの不成立によってこちらが窮地に立たされる場面も多々あった。
その反省を踏まえてか、本作ではキャラクターの行動回数を3回から1回に減らすという、大胆な簡略化が実施された。単純に比較すれば攻撃回数が1/4となって戦闘の長期化が解消されないのでは?と序盤こそ疑問に思ったが、これが中々面白いことに、この簡略化こそがバトルの取っつきにくさを和らげ、同時にコンボをキメやすくなったことにより前作以上の爽快感を味わうことが出来たのだ。
各キャラクター1回の行動を最大4人で計4回。攻撃にはそれぞれ「カウンター」や「派生」が設定されており、条件を満たすことで敵を宙に浮かせて行動を封じたり、追加攻撃が発生する。基本的な流れは前作とは変わらない。イマジナリィチェインで敵の行動を確認した後、Aがカウンター技でコンボを始動させ敵を無力化、Bが空中の敵に威力が増す攻撃を後に繰り出し、Cがダウン状態の敵に効果のある攻撃で〆……というように組み上げていくのだが、今思えば12回の行動回数で適切なコマンド選びとタイミングの指定を要求される前作は、遊びやすいとは言えなかった。その点、今作では行動選択が4回に絞られ、一人のキャラクターが一つの行動に限定されることで行動とタイミングの把握が容易になり、コンボの組みやすさが格段に向上。それにより、自由にコンボを組む楽しさ、敵を制圧する達成感が生じ、連戦が苦にならず積極的に戦闘を楽しめるバランスに仕上がっている。
また、ゲージを消費して優位な効果が得られる「フロアージャック」の実装や、前作同様に難易度の変更機能に主人公以外の行動を自動化するオート機能といったお役立ち要素もあり、ストーリーを読みたいけれど戦闘が苦手な人、歯ごたえあるバトルを楽しみたい人の双方を取り込むことのできる自由度も魅力的だ。これらのオプションはプレイヤーにとって不利益をもたらす要素も一切ないので、戦闘で詰まってプレイを断念するくらいなら、惜しみなくこれらのお助け機能を頼ってクリアまで辿り着いていただきたい。
回収しやすく、それでいて尖ったサブクエスト
本作の舞台である仮想世界リドゥには、リグレットが用意したNPCの他にも現実社会から逃げ出し、各々の理想の姿を得て生活する「人間」がそこかしこにいる。というより、主人公をはじめとする帰宅部も、そしてリグレットを崇拝する楽士もまた、現実で後悔を経験したがためにリグレットに誘われた人々の一人に過ぎないのである。
そのため、この世界に存在する人間にはそれぞれリドゥを訪れた理由、すなわち「トラウマ」が設定されており、それを解き明かしていくのがサブクエストだ。
前作ではなんと500人以上のキャラクター=トラウマが用意され、それを攻略することで主人公を強化するパッシブスキルを獲得できるメリットが存在した。しかし、クエスト達成に必要な装備の入手は運頼みがほとんどで、それらを何度も付け替えたりパーティを変更することを強要され、不親切なUIとにらめっこする内にクエストの目的や依頼人/対象者がどこにいるのかわからなくなるなど、これもまた大きなストレス要因ではあった(一応、スルーしても本編クリアに支障がないのは救いだったが)。
一方本作では、クエスト数は150と大きく減るも、UIの改善により達成条件/依頼人や対象物の居場所が確認できるようになったり、パーティの変更を必要とするものが廃止されたりと、かなり優しい作りに。また、複数のクエストを同時に受注できるようになったため、とりあえず片っ端からクエストを受注し必要なアイテムが揃ってからまとめてクリア!が可能となったため、寄り道要素として正しく遊びやすい仕様に。……というより他のRPGで当たり前となった仕様にようやく追いついただけなのでいかに前作までがヤバかったか、ということなのだけれど、これも大いなる前進である。
クエスト達成の見返りは主人公のステータス強化、アイテムにお金といった要素ももちろんだが、一番はやはり「トラウマに踏み込める」ことだ。彼ら/彼女らはなぜリドゥを訪れたのかが、現実世界での性別や年齢と併せて開示されるため、より深くキャラクターの心の闇を覗くことができる。その内容も過激で仄暗いものがほとんどで、見てはいけないと言われるほど余計に見たくなる、すなわち「カリギュラ効果」を掻き立てる良いエッセンスだ。
なお、帰宅部メンバーも戦闘を重ねることで友好度が上がり「キャラクターエピソード」が徐々に解禁されていくが、その内容の重さ、彼らが抱える悩みやトラウマに寄り添うことで、本作の面白さはさらに深みを増していくのである。その闇に踏み込む好奇心と罪悪感のせめぎ合いこそ、『カリギュラ』の醍醐味だからだ。
理不尽さの目減りしたマップと探索要素
前作において徒労感を抱かせたのは、マップの不可思議な構造だった。道が塞がりアクセス性の劣悪なショッピングモールに水族館、工事中という名目で未完成な道を避けて遠回りを強いらえるビル、カタルシスエフェクトでぶっ飛ばせよ!と怒りたくなる机のバリケードのある学校……プレイ時間を水増しさせたいのか、あるいは嫌がらせか。前作のマップデザインは好ましいものではなかった。
さすがに批判も大きく寄せられたのか、今作においてマップ探索の煩わしさは抑えられ、何度も回り道をさせられることは(皆無、ではなく)あまりない。また、寄り道で回収できる宝箱には前述のサブクエストに必要な装備(スティグマと呼ばれる、精神を調律するアイテム)が内包されており、探索⇒アイテム回収⇒サブクエスト達成の流れが組まれることでマップの複雑さにも意味が産まれたのは大きな改善と言えるだろう。
痛みを伴う物語こそ、心に刺さる
「前作の欠点をことごとく潰してきた上で【カリギュラらしさ】を継承した、理想的な続編」が、筆者の『カリギュラ2』のプレイレビューであることは冒頭で宣言した通りだが、では【カリギュラらしさ】とは何か?ということで、ようやく本作の物語やテーマ性に触れていきたい。もちろん、ネタバレを含まないよう、慎重に言葉を選びながら。
まず前提として、人は生きて行く内に様々な「後悔」に直面することは避けられない。あの時ああしていれば良かった、もっと早くから始めていればよかった、あんなことしなきゃ良かった……大なり小なり、人は行動の結果をジャッジして、現実には採択しなかった行動の結果=もう一つの可能性に考えが至ってしまう時、後悔を抱く生き物である。そしてその結果の前には必ず「選択」という過程が生じている。
選択。一つの問題に対して複数の回答が挙げられた時、どれを選ぶのか。また、「あの時〇〇していればよかった」という類の後悔は「〇〇という行動をしないことを選んだ」ということでもあり、行動⇒結果⇒後悔の前には必ず「選択」のプロセスが存在する。人生は選択の連続、とはどこかで聞いた言葉だが、会話の応答や晩御飯の献立といった日常的なものから、進路や就職活動といった人生を左右するものまで、我々は常に目の前の選択肢の中からどれかを採択しなければならない。
本作『カリギュラ2』は、そうした「選択」の重みを実感させる機会がとても多い。例えば戦闘においても、「あの時防御を選択していれば」「別の攻撃ならコンボが繋がったのに」という後悔には、事前のコマンド選択が紐づいている。日常でも、選択肢によっては相手を怒らせたりして、キャラクターエピソードの進行がロックされることもある。「あんなこと言わなければよかった」と、プレイヤーは自らの間違いに何度も気づかされる。
そして時に、その後悔が人生を歪め、一生消えることのない心の傷になりえるということを、本作は執拗に描いていく。リドゥを訪れた人々の根幹の願望は「やり直したい」であり、現実にはあり得ないその願望の成就は抗いようのない誘惑である。しかも、容姿や年齢、性別すら思いのままなリドゥでは、自分という存在そのものを1からやり直し、新たな人生を歩むことが出来る。そんな夢のような世界を与えられ、そこでの生活を享受するに至るほどの絶望を抱えたキャラクターたちの深淵に踏み込むか、とても重たい「選択肢」が、プレイヤーに委ねられる。
これこそ、『カリギュラ』というゲームの神髄だと思っている。一体なぜこの人はリドゥを訪れたのか、その容姿や性別や年齢を望んだのはなぜか。それらを暴き立てることは「お前のトラウマを教えろよ」と要求しているに等しい。自分なら黒歴史は絶対に明かさないのに、他人の秘密は知りたがる。そんな人間の薄汚れたエゴをむき出しにする『カリギュラ』というゲームの後ろめたさは、他の作品ではあまり類を見ない稀有なプレイ体験だ。
また、キャラクターエピソードやサブクエストで明かされるトラウマや悩みは、普遍的なものドラマティックなもの、そして現代らしいものが多く含まれている。セクシャリティ、マチズモ、貧困、家庭不和、承認欲求。インターネットやSNSが普及し誰もが発言できる時代が到来して早数十年、社会の中で暗黙のうちに存在していた様々な病理と、それに苛まれ絶望した人たち。今この世界で起こっている様々な人権運動とも密接にリンクしたそれらの問題を抱えたキャラクターたちは、時に画面の向こうの存在とは思えないほどの生々しさを漂わせる。
彼らの心に踏み込むかどうか、それもまた、プレイヤーが自ら決めなければならない。そして、その真実を知って「踏み込むべきでは無かった」という後悔を抱くかもしれない。その重大な選択においてプレイヤーは自らの行動の結果と向き合わざるを得ない。個人的にはゲーム史そのものに疎いため類似作品があるのか検証はできないが、これほどまでに胃が痛いゲームを、私は知らなかった。そんな唯一無二の体験をこそ、これから『カリギュラ』に触れる人全てに味わってほしい。他者の心と向き合う本作は、あなたの心にも刺さって抜けないトラウマに、強く共鳴するはずだ。
胸を張ってオススメできる傑作
何の権威もなく偉そうな物言いになるけれど、ゲームとしては前作よりブラッシュアップを重ね、物語やテーマの普遍性は共感を呼びやすく、幾度となくプレイヤーに重大な選択を迫るストーリーは進むにつれ止め時を見失う程に深さを増していく。また、前作から引き続きハイクオリティな楽士たちのボーカル楽曲はキャラクターの心情を読み解くサブテキストとして機能しつつ、リグレットとキィの二人の歌い方や情感の差異も彼女たちの出自とマッチしていて実に巧い。それでいて、今回フィーチャーしたトラウマを巡る重苦しさとは別に、青春モノとしての爽やかな友情の物語、あるいは過去と向き合って成長するキャラクターたちへ愛着を抱かせる仕掛けなど、とにかく諸々の要素が良く出来ていて、隙がない。もうこれ、傑作と呼んで差し支えないのではなかろうか。
もうここまでの出来栄えだと「2から遊んでくれ!!」で締めくくっても何の問題もない。……ないのだが、ゲームシステムの進化を知るのは勿論、物語上での前作とのリンク、そしてあの上田麗奈さんがありとあらゆる表現方法の引き出しを総動員して歌うボーカル楽曲の数々なども順を追って触れて欲しい気持ちもあり、ぜひとも余裕のある方は前作『OD』、もっと深く世界観に没頭したい方は小説版とアニメ版を履修して満を持しての『2』が、最も贅沢なプレイ体験になることを保証する。もう何はともあれ、『カリギュラ』をどうぞよろしくお願いいたします。『3』も待ってます。
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