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真夏のハゲ祭りでIQを溶かせ!!『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』

 「ロック様とステイサムがW主演のアクション映画で、ヴィランがイドリス・エルバ、監督がデヴィッド・リーチなんだけど、どう?」と言われて、抗える洋画ファンがいるだろうか。いつのまにか「アクション俳優版アベンジャーズ」みたいなツラしてビッグスターを無理やりファミリー化させ、大ヒットシリーズとなった『ワイルド・スピード』初のスピンオフ。魚雷を素手で掴むほどの巨椀を振るうガチムチ捜査官ことルーク・ホブスと、「だってあいつハンを殺したんですよ!?」でおなじみデッカード・ショウが、世界とマブいショウの妹を救うために即席チームを組むという、これまた知能指数の低いあらすじに鑑賞前から心のニトロはフルスロットル。殺人的猛暑にも負けない暑苦しさを放つ超大作に、問答無用で親指立ってしまった。

 これまでの『ワイルド・スピード』と一線を画すのは、やはりデヴィッド・リーチ監督の作風によるところが大きい。『アトミック・ブロンド』にて顕著だった、音楽にノせて放たれるスタイリッシュな画作り、流れるようなアクションや過激なスタントなど、アクション映画最先端を切り開いた彼のセンスが光る本作は、ワイスピでありながらワイスピらしからぬ、言うなれば「品の良さ」が漂っている…が、本作の二枚看板であるホブス&ショウが揃った瞬間から、作品の知能指数が一気に降下していくのだ。

 『ICE BREAK』で一時的な共闘を果たしたものの、二人は犬猿の仲。口を開けば汚い言葉で罵り合い、「おれのほうがつよい」「おれのほうがアソコがでかい」みたいなやり取りが続く。人間離れした筋肉と最強の殺し屋が揃たところで、ケンカの内容は小学生レベル。呆れるほどにIQの低い彼らの小競り合いは闘いの最中も収まることがなく、互いの足を引っ張り合いながら敵を確実に殲滅するという抱腹絶倒アクションがほぼ引っ切り無しに続くため、コストパフォーマンスが異常に高い。言うなれば、「仲良くケンカしな♪」なトムとジェリー状態。よもやここまでキャラクターの関係性だけで物語を展開させていいのか?とさえ不安になるほどの、ロック様×イサムの喧嘩祭りだけで進む133分、俳優ファンならわずか10分で上映料金の元が取れてしまう。

 そしてそこに、歩くセクシーことイドリス・エルバが緊急エントリー。黄金色の瞳をしたこのイドリス、実はターミネーターばりに機械化を施された改造人間で、敵の動きを感知する分析アイと無人走行可能な黒バイクを保有する、超絶カッコイイ黒のスーパーマンだ。荒唐無稽に定評のあるワイスピシリーズ、ついに改造人間が参戦するのだが、この主演二人を手こずらせるには敵も人間辞めなくてはならなくなった。しかもこの男ショウとは過去に因縁があり、まさかの三角関係に突入するという修羅場っぷりで観客の心を揺さぶってくる。もはや過去編だけで一本映画が欲しくなる、一作限りの退場が惜しい名ヴィランだった。しかも吹替えは山寺宏一。

 映画に華を添えるヴァネッサ・カービー演じるハッティ・ショウも、現代らしい闘うファイター。さすがショウの血が流れるだけあって、幼少期から暴力と窃盗の技術を磨き、大人になってからはMI6の女性エージェント。屈強な男に負けない身のこなしで力強いアクションを見せつつ、どことなくお色気要素漂う服装や振る舞いも相まって、誰もが虜になってしまう。格好良くて強くてきれいなお姉さんには抗えないのだ。

 アクションスター4人揃えばこうもなろうと言わんばかりに、本作は全編がクライマックス。肉体アクションの名手が揃ったからには必然、本作はワイスピシリーズの中でも最も肉弾戦推しで、パワータイプなホブスとスマートなショウを対比して描く冒頭から殴る!蹴る!締め上げる!のオンパレード。ご丁寧に終盤では「武器が使えなくなる」くだりが用意されるのも笑いを誘う。襲い掛かる敵を迎え撃ち、数の不利を罠や巧妙な作戦でカバーするという西部劇的なお膳立てがなされたサモアの決戦では、『300』ばりの乱戦が行われ映像の暑苦しさは最高潮。

 そんな中、忘れた頃に車に乗り出すものだから「あぁこれワイスピだった」という感慨に襲われるも、やはりカーアクションはド迫力。ロンドンでは改造バイクとの激しいカーチェイス、ロシアでは爆破された基地を背に装甲車をかっ飛ばす銃撃戦、ラストバトルはヘリVS連結したカスタムカーというバカの極みみたいな対決が炸裂し、理屈や整合性といったワードは通用しない。こちらはそうした映像のパワーに身を委ね、あらゆる思考を放棄することしか出来ない。

 こちらの語彙力を軒並み葬り去るアクションが続く一方、唯一気を緩められるとしたら「ファミリーの絆」を描くドラマシーンだ。『ワイルド・スピード』はドミニクを中心とした疑似的なファミリーの活躍を描くシリーズだったが、今作では「血族」という関係性に焦点を当てている。物語の発端はデッカードの妹ハッティであり、家族の問題であるがゆえに当初はホブスを拒絶するデッカード。ヘレン・ミレン演じる最強の母も再登場し、ショウ一家大集合アクションが今から待ちきれない。また、娘を大事に想うホブスも家族には負い目があり、今回の事件をきっかけにそれと向き合うことになる。なんにせよ、「ファミリーの絆」はどんな困難をも乗り越える最強の武器であり、それがサモアという島全体に広がり宿敵を迎え撃つとなれば、燃えないわけがない。

 テクノロジーや選民思想といったしゃらくさい諸々を、生身の筋肉がねじ伏せる。要は「筋肉がいちばんつよい」「車と車をつなげれば1200万パワー」という、ゆでたまご理論の実写化なのだ。筋肉は全ての悩みを解決すると言うが、もはや筋肉は世界を救うのだ。『ワイルド・スピード』から「スピード」を抜いた異端児的大傑作は、記録的猛暑にも負けないアツさであらゆる批判をなぎ倒すに違いない。


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