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虐待を受けていた女の子と出会った話
冬、というか肌寒い季節になると思い出す事がある。
特に吐き出すタイミングもないので、この場を借りようと思う。
2018年夏、私は大学を辞めた。
辞めた理由は人間関係とか勉強疲れとかいろいろあるんだけど、一番の理由は私に発達障害があることが分かったからだ。
私は幼い頃からずっと父に虐待を受けていて、川に沈められたり、木刀でぶん殴られたり、背中に針を刺されたりした。お腹を包丁で刺されそうになったこともある。
そのたびに父は「お前は無能だ」と言っていたけれど、その無能の原因の一つが発達障害によるものだと思うと、とてもじゃないけど大学なんて通えなくなってしまった。
というわけで大学を辞めたわけだが、お金がないと生活できないのでアルバイトを始めることにした。
私は人生において常に人間関係で困っていたから、人に顔を合わさずに仕事を行えるコールセンターで働くことにしたんだけど、これが大正解。
発達障害の特性に「多弁」というものがあるんだけど、これが良い方向に作用したのか、私は業務成績で常にトップの位置をキープすることが出来た。
社員の方もすごく優しく接してくれて、何となく仕事を頑張ろうっておもっいた。
それから半年が過ぎて、冬。
とある女の子がアルバイトとして入社してきた。
この仕事は私服勤務OKだったにもかかわらず、彼女は毎回スーツで現れ、すごく可愛かったのになぜか髪がぼさぼさだった。
そして何より、人に対してバリアを貼ってるというか、話しかけないでほしいって感じのオーラみたいなものが出ていて、すごく特徴的だった。
そんな様子だったから彼女は社内で結構噂になってたし、私自身何となく気になっていた。
そんな時、私は彼女の指導係を命じられた。
「指導」と言っても電話対応の見本を見せたり、業務のアドバイスをするくらいの軽いものなんだけど、人付き合いが苦手な私は結構一生懸命にやった。
常に笑顔を心掛けたし、注意するときも褒めるようにした。お客様が怒ったときはフォローもしっかりやった。
そういった仕事をずっとしていると、何となく彼女との距離も縮まってきて、友人ってほどではないけど、会ったら話すくらいの仲になっていた。
そんなある日、プライベートでたまたま入った楽器屋で彼女とばったり出くわした。
彼女はギターケースを背負っていた。
「ギター弾くんだ?」と私が言うと、彼女は「うん」って言った。
それから少しだけ音楽の話をした。この話題が結構盛り上がって、彼女は好きなバンドの話をしてくれた。The Smithsていうバンドが好きらしい。
その日以降も彼女とはバンドの話をした。好きな曲やかっこいいギターについて何となく話した。
ある日、彼女は私を弾き語りに誘ってくれた。うれしかった。
そしてとある冬の夜、私と彼女はギターとコンビニで買ったお酒をもって町の大きな公園に行った。
公園の風はめちゃくちゃ冷たくて、お互いに「寒い、寒い」って言いながら笑った。
2人とも手がかじかんで思うように指が動かせなかったんだけど、それでもギターを弾いた。
彼女はThe SmithsのThere Is A Light That Never Goes Outという曲を歌ってくれた。へったくそなギターだったんだけど、それでも寒さを忘れるくらいカッコよくて美しくて、綺麗だった。
歌い終わった彼女はお酒を飲みながら、自分のことを話してくれた。
彼女の両親は本当の両親ではないこと。その両親にお金を無心されるから仕事を2つ掛け持ちしてどうにかお金を工面していること。よく怒鳴られるせいで大きな音がトラウマだということ。
彼女はまるで自分ではない誰かのことを話しているような口ぶりで、辛い思いを吐き出してくれた。
彼女の苦しみをどう受け止めていいかわからなかったから、私も苦しかった虐待の記憶を話した。
彼女は「似てるね」って笑いながらお酒を飲んでいた。
その日以降、私たちは2人でいることが増えた。
「恋人」という関係性なのかどうかは分からないんだけど、半同棲みたいな感じになっていて、よく家に来ては掃除を手伝ってくれた。
深夜に急に彼女から電話が来て「親が嫌い」って泣いている声を朝まで聞いてることもあった。
もちろん、楽しいこともたくさんした。
2人でディズニーとかユニバに行ったり、洋服を見に行ったり、色んな事をしたんだけど、一番楽しかったのは深夜のドライブだった。
私の車はボロボロでエンジンから変な音がする中古のタントなんだけど、2人で音楽を聴きながら当てもなく車を走らせるのは日常と非日常の真ん中みたいな感じで、変な高揚感があった。
そんな生活が1年くらい続いたと思う。
彼女が急に「遠くに引っ越す」と言い出した。
両親から逃げて、遠くで就職したいらしい。
私はすごく驚いたし、すごく寂しかったんだけど、きっと彼女にとってはすごく悩んだ末の決断だっただろうし、彼女が一歩踏み出そうとする勇気を引き留めるなんてことはできなかった。
それからしばらくして、彼女が旅立つ1週間くらい前。
私たちは以前一緒に行った公園に、夜、弾き語りをしに行った。
弾いたのはThere Is A Light That Never Goes Out。
彼女は少し涙ぐみながら歌っていた。あの頃よりもギターがうまくなっているなって思った。
歌い終わった彼女は「忘れちゃダメだよ」って言った。私は少し笑いながらうなずいた。
そして彼女は旅立っていった。
彼女がいなくなった部屋はすごく広かった。
覚悟はしていたつもりだったんだけど、すさまじい虚無感が襲ってきて、何日も泣いた。
部屋に残った思い出の品を見つけたり、ふとした拍子に彼女の言葉を思い出すたびに、彼女がいない事実に打ちひしがれた。
そんなことがあってからそろそろ3年くらいたつんだけど、いまだに何となく思い出す。
特に、肌寒い季節になると急に思い出す。
彼女は元気かなぁ。まだThe Smithsを歌っているといいなぁ。
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