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選択:お金
「お金だったらいいのにね」
ひかりはワクワクを隠せない面持ちで、スーツケースを触っている。
ダイヤルなどはなく、完全に鍵で開けるタイプのもののようだった。
「ちなみに何キロくらいあるんだろう」
そんな会話をしていると、ちょうど玄関のインターフォンが鳴り、千葉から宅配便で送った荷物たちが到着した。
「はかってみようか」
娘の興奮した面持ちに流されるように、わたしは提案した。
送られてきた段ボールは10箱程度で、表面にきちんと内容物の記載をしていたため、体重計を探し当てるのは難しい作業ではなかった。
今時珍しいアナログの体重計を手に、わたしとひかりは小さくうなずく。
二階の部屋に戻って、二人で協力して体重計の上に乗せる。
「ええと…ちょうど、40キロくらい?」
ひかりはすぐさまスマホを取り出し、検索を始める。
「札束の重さ」
わたしも、身を乗り出してその結果に注目する。
「1,000枚で約1キログラム。てことは、1000×40×1万円で…」
計算機のアプリを出し、計算をしていく。
「えっと…4億?」
ゼロの数を何度も数えながら、ひかり。
4億円。
もしかしたら、このスーツケースに入っている可能性があるということか。
その可能性を帯びたとたん、なんだかそのスーツケースが神々しいものにみえてきた。
「家にあるものだから、わたしたちでもらっていいのかな?? すごくない、一気に大金持ちだよ!!」
わあわあと喜ぶひかり。
「でも、これって、忘れ物になるのかな。警察にとどけなきゃなの? 持ち主死んでたらどうなるのかな」
ひかりはころころと表情を変える。
取らぬ狸の皮算用ではあるが、わたしも気になって手元のスマホで検索をかけてみた。
落とし物などで警察に届けた場合は、落とし主死亡の場合は相続人にわたるらしい。
そうなると、わたしたちがうけたのはあくまでも家だけの相続。このお金には縁がないことになる。
だけど。
わたしは、思うよりも先に、遺言執行人である弁護士・高橋氏に電話をかけていた。
『はい、どうされました?』
2コールで、もはや聞きなれた穏やかな声が出る。
「あの、二階の部屋に故人の荷物があるみたいなんですけど。これって、片づけ忘れですか?」
あえて、スーツケースという単語は使わなかった。
『ああ、二階の部屋ですか。あそこは、遺言に片づけないようにと記載がありまして。そこだけ、我々も触らずに受け渡しさせていただきました』
なんと。
ということは、あそこにあるものは、家の一部としてわたしたちが相続してよいということになるのではないか。そう考えるのは都合がよすぎるだろうか。少なくとも、言わなければ、誰にもわからない。
『何か、変なものでもありましたか?』
「いえ! 大丈夫です!」
わたしは大慌てで電話を切った。
「どうしようひかり、この部屋にあるもの、わたしたちに権利があるよ」
たぶん、と心の中で付け加える。
「人生大どんでん返しじゃん! 早く鍵みつけなきゃ!」
言って、ひかりは嬉々として部屋の中を探し始めた。
先ほどまでスーツケースにしか目が行っていなかったが、この部屋だけ一部家具がそのまま残されている。
もともとここは書斎だったのだろうか。
アンティーク調の机に、座り心地のよさそうな椅子。
所狭しと並べられた本。
確か、故人である八木山隆二はもともと教師だったか。
担当していた教科までは聞いていないが、並んでいる書籍には参考書というよりは小説の類が多く、国語教師だったのかなとうかがわれた。
ひかりは机の棚をひとつひとつ開けて回っている。
「え」
その動きが、ある一つの場所で唐突に止まる。
「おかあさん、これ」
ひかりの顔が明らかに動揺している。
わたしは、彼女が指さしているものに目をやった。
さて、その先にあったものとは次のうちどれだと思う?
<次話以降のリンク>
選択1 https://note.com/tukineko3569/n/n396774e93909
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