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「で、オレを呼び出したのは?」 ベランダの手すりにもたれかかった彼は呟く。過去の回想を…
大学の研究室のベランダから外を眺めていた。急にやってきた寒さに立ち向かい、色付いた葉っ…
「お前、正気か?」 酒に酔った翔平が僕を責めるように口走った言葉には棘があった。いつも…
「……ありがとう」 沈黙を破った感謝の言葉は、どこか想定の範囲内の言葉だった。その後に…
「やっぱり、時期尚早だったんじゃないかなぁ」 往生際の悪い僕は、隣に座り、講義を聞きなが…
夏の暑さを引きずったまま、秋になった。子供の頃は紅葉を写真に収めていた時期も今は温暖化…
「ここ、禁煙」 タイミングよく誠治が帰ってきた。もはや狙っているのかと勘ぐってしまうくらいにタイミングがよかった。 「沈黙に耐えられなくて。まぁ誰も見てないからいいだろ?」 誠治が差し出した缶コーヒーを右手で受け取る。 「まだ最後まで言ってないんだな?」 疑問符を言葉の最後につける誠治であったが、こうなることを予期していた態度だった。まるで美沙が言葉に詰まり、耐えきれず僕がタバコに火を灯したことを知っているような口調だった。美沙が誠治を呼んだ理由も分かる気がした。 「ど
テレビで終戦特集が組まれている夜、美沙に呼び出された。僕は終戦の時期に恒例の終戦ドラマ…
「海だぁー!」 翔平は大声――まるで声出しをする高校球児のような声――を海に向けて叫ん…
湘南にあるキャンプ場は海から近く、潮の香りや時より吹き抜ける海風が印象的だった。べたつ…
「コバルトブルーの……」 翔平がサザンオールスターズの『涙の海で抱かれたい』を熱唱し始…
「やっと、やる気になったか?」 カウンター席で僕の横に座るマスターは、日本酒のお猪口を…
梅雨が明けた。夏らしい晴れ渡った青空が広がる日々が続いている。猛暑日続きで、身体が悲鳴…
「あの写真、いい写真だな」 誠治の声で僕は鮮やかな思い出から現実に戻った。 「僕もそう思う」 そう言ってから、壁にぶら下げてあるコルクボードを眺めた。そこには誠治たちとの飲み会や大学での日常を切り取った写真が張り付けられている。その真ん中で、あの時撮った写真が一際存在感を放っていた。 「最初のデート、和樹らしくなくて笑ったけどな。でもあれから、茜ちゃんは何かにつけて和樹の写真を褒めてたよな。それに和樹の事をカズ君って呼ぶようになったし、和樹も茜ちゃんって呼ぶようになったし