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BAR自宅、フルーツブランデー

 バーには黒猫がいる。
 テーブルの向こう側に座る、真っ黒ツヤツヤの毛並みと金色の目、くたくたのやわらかい体が自慢の、ねこが。
 

 今夜も彼女は自分のためのバーメイドとして場を整える。だがいつもとは少しばかり様子が違った。重たい洋酒のボトルを抱えてはいるが、飲もうとしているわけではないらしい。

「オレンジが安かったの」
 帰ってすぐに風呂を済ませ、適当に食事も済ませてしまって、洗いざらしの擦り切れかけたシャツを着たバーメイドはご機嫌だ。キッチンにどんと置かれていた大きな買い物袋の中から、ごろごろと丸い果物を取り出す。
 ツヤツヤのオレンジ色。の、オレンジ。
 隣にはブランデーのボトル。
 それから小ぶりな保存瓶。
 瓶はアルコールで丁寧に消毒し、良く洗ったオレンジを切る。
 ペティナイフでさくりさくりと切り分けられていくみずみずしい果実。滴る果汁で、狭い部屋いっぱいにさっぱりと甘い香りが満ちる。
「氷砂糖はいらないね」
 ひと切れつまんで口に放り込んでから、彼女はくふりと笑った。つまみ食いはいつだって楽しいものだ。

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