今までに見たことがないアフロアメリカンムービーだった。
「ビール・ストリートの恋人たち」
ロングライドの試写会が当たり、定時ダッシュして観に行ったもの。
試写会じゃなくても観に行ったけど、公開前に見て、私が感じたことを書き連ねたく思います。
舞台は、70年代アメリカ、ハーレム。若い黒人カップル、ファニーとティッシュの恋物語。愛し合う二人の世界が、とてつもなく優しく、愛で満ち溢れて描かれる。なのに非情にもファニーは突如レイプ犯として逮捕され、彼が拘留中に、ティッシュは妊娠していることがわかる。何とか無実の罪を覆せないかとティッシュと彼女の家族は奔走するが…。
この映画の監督は「ムーンライト」のバリー・ジェンキンスです。ムーンライトの時もそうだったけど、彼の世界観は独特で、とにかく美しい。彼だから作り出せる世界がある。たとえるなら、ものすごく繊細な刺繍を施すような。うまく言えないけれど、アフロアメリカンムービーで、こんなにフンワリした感じは今まで見たことがない。
それと音楽がめちゃくちゃ良い。この映画の世界観を作り上げている大きな要因の一つはこの音楽にあると思います。
閑話休題。映画を見ていて、たまにダメだなと思うことがあります。次にどう展開するのかを先回りして予想して、身構えることがあるのです。
今回だと、ティッシュが「妊娠した」と自分の家族に伝えるシーンがあるんですが、彼女の父がブチギレるんじゃないかと、勝手に恐れて、耳を塞ごうとしてしまったんです。なぜなら、まだファニーとティッシュは結婚もしてなくて、いわば未婚の母、そしてファニーは無実と言えどもレイプ事件の容疑者です。娘を持つ父親ならキレるだろうと勝手に思い込み。
それが他のシーンでも同じで、私はおかしな呪縛に囚われていて、とりわけ黒人男性なら、すぐに声を荒げる、手を出す、と思い込みながら見たものだから、そのどれもが覆されて、ちょっと反省した次第です。どれだけ私は偏見を持ちながら映画を観ているのだろうと。でもそれって、これまでの数々の映画の中で、彼らはそうだという描写が大半だから、無意識に私はそう信じてしまっている。彼ら全員がそんなことなんて絶対にないのに。
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今まで、公民権運動や黒人差別をテーマにした映画は幾度となく見てきました。それらに共通するのは、不当な扱い、自由や平等性に対する堅固な主張を声高に叫ぶ感じ、または何も変わらないという悲壮感や諦めです。実際そうだし。そして、観る側の私もそれに対して、ものすごい憤りややり切れなさを感じて、見た後は、疲労感でいっぱいになる。
ところが、これは、ファニーが無実の罪で逮捕されたにも拘らず、もっとその不当性について、叫べばいいのに、それよりも描きたいことがある、といった感じなのです。
もちろんアメリカ社会におけるアフロアメリカンの立場については描いている。だけど、本質はそこではなくて、もっともっと大きな愛やらそれに付随するものを描いているんです。だから、うまく言い表せないけど、ふんわりしていて、やさしさに満ちあふれている。
サイアクな白人警官も出てくるし、事は何にも解決はしていなくて、ファニーは刑務所にいるままなんだけど、だけどそこに悲壮感はないし、だからと言って溌剌とした希望がクローズアップされているわけでもない。その描き方がいい。
また、たまにしちゃうんですが、自分以外の人がどう感じているのかなと、周りの観客の表情をチラッと見ることがあるんだけど、私の席の近くの女性の横顔を見たらですね、ファニーとティッシュのやりとりをニッコリと微笑み、顔を緩ませながらスクリーンを見つめていたんです。私、監督じゃないけど、とても嬉しくなりまして。そういうのってコメディとかじゃないとなかなか見れないんだけど、この映画にはその力があるんだなと。
声高に叫んだり、大きな音や激しいやりとりで訴えるだけではなくて、それよりも大きな影響を及ぼすパワーってあるんだ!とこれを見て強く感じました。
単なる黒人同士の恋愛物語でしょと言う人もいるかもしれない。これが白人同士だったらフツーやんと思う人もいるかもしれない。でもやっとここまで来れたんだと思う。アフロアメリカンが、やさしさと慈愛に満ちた世界観でもって訴えかける作品を作ること。
私がこの映画を映画を見始めた10代の頃に見ていたら、きっと忘れられない作品になっていたと思う。私にとってのベストムービーは、10代〜20代前半に見たもので不動なのです。だから、若い子たちにこの作品を見て、色々感じてほしいです。
2019年7本目。ロングライド試写会、テアトル梅田にて。
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