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傘と蜜柑に祈りを込めて。

アブ、アダムの息子

これはインドのイスラム教徒を描いた映画です。インドというと歌えや踊れのヒンズー教徒メインのボリウッドムービーが大多数ですが、イスラム教徒ももちろんいて。因みに本作品の字幕翻訳は、かの人気作品バーフバリを訳した方と同じ方だそうです。

映画祭の最初に主催者の方が簡単な説明をされていたけど、この映画はインドのケーララ州というところが舞台で、インドでは珍しく、インド共産党が与党でもある識字率もほぼ100%の州だそうです。

【物語】
ケーララ州の農村に暮らす、アブとアイシュンマの夫婦。 2人はメッカへの巡礼ハッジのため、つましく資金を蓄えていた。 息子は中東に移住したまま帰ってこない。アブは街の旅行会社まで、パスポートを作りに行く…。(映画祭公式サイトより転記)

この映画を見終えて、まず思ったのは、心が洗われるってこういうことなんだということ。これまでも数々の「信仰」についての映画は見てきたけれど、ここまで敬虔で、情が深く、またピュアな人たちばかりが出てくる映画もそうない。とにかく皆信仰心が深く、他者との関わり合いが羨ましくなるくらい温かくて。

老夫婦(といえども多分ウチの親世代くらいの年齢と思われる)のアブと妻アイシュンマ。彼らを取り巻く人々は、一部を除き、みんな慈愛に満ちている。しかし、ドバイに住んでいるという実の息子サッタルは一度も登場しない。アブとサッタルにどんな軋轢があったかは定かではない。つましく、清貧な生活を送ってきた両親を、息子は疎ましく感じたんだろうか。こんなにも周りの人々に恵まれているというのに、子の情には恵まれなかったのが、とても切ない。

ハッジのために小金をコツコツと貯め、様々なものを売り払い、粛々と旅立つための準備を進めるアブ。過去に起こったいざこざの相手(向こうが悪いのだけど)に律儀に許しを請い、互いに誤解や過ちを認め合い、もうこれで故郷に思い残すこともない…と思った矢先にわかった出来事…。皆がアブ夫婦を思いやって、やさしくしてくれる姿が、彼ら夫婦以上に胸にしみて、涙が出た。

とりたてて大きな事件が起こるわけでもなく、淡々と、やさしく時間が流れるストーリー。アブや、村のイスラム教徒の人々が心の拠り所としていた伝道師ウスタードの存在がまたなんとも言えずファンタジックで。

そんな中で、とても目についたのが、アブは、どんな所へ行く時も片時も傘を手放さなかったこと。その傘を開くことはほとんどなく、ほぼ杖代わりのように。また、妻アイシュンマは外出する時は、ミカンを手にしていた。どちらもそれは大切なお守りを肌身離さずにいたかのように。

たとえハッジに行けなくても、彼らは常日頃から、目に見えない何かに包まれて暮らしてきたんだなって。信じること、祈ることの大切さを目の当たりにした気がした。

バーフバリは残念ながら、まだ見ていないけれど、こんなふうに胸いっぱいに、心豊かになるインド映画もオススメだなぁと。

2018年42本目。イスラーム映画祭5本目。元町映画館にて。

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