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こんなにも辛くて苦しい人生を「ワタシ」は生きる。

ナチュラル・ウーマン

こないだのアカデミー賞外国語映画賞を受賞したチリ映画。ラテンアメリカの映画は定期的に見ている方ですが、チリ映画はメキシコ、アルゼンチンにつづき、切り込んでくるものが多いと感じます。

ウェイトレスをしながらナイトクラブのシンガーとして歌うトランスジェンダーのマリーナは、歳の離れた恋人オルランドと暮らしていた。しかし、オルランドは自身の誕生日の夜、自宅のベッドで意識が薄れたまま亡くなってしまう。最愛のオルランドの死により思いがけないトラブルに巻き込まれ、容赦ない差別や偏見を受けるマリーナは、女性として生きていく権利を胸に前を向いて歩くことを決意する。主人公のマリーナ役を自身もトランスジェンダーの歌手であるダニエラ・ベガが演じる。

マリーナに向けられた謂れのない憎悪が醜すぎて、途中胃がムカムカした。人を人とも思わないその言動。親が親なら子も子だ。何だよ、オルランドの葬儀で、マリーナが現れた時にわざとらしく泣きつく子供の姿。一体彼女が何をしたって言うのさ!オルランドの別れた妻とか言うけどさ、彼はアンタのそんな部分がイヤになって別れたんじゃないのか⁉︎

ということを、めちゃくちゃ言いたくなりながら、唇を噛みつつ、憤怒の表情で見通したと思う。そんなに怒りが湧き出るような映画もなかなかない。

ラテンアメリカは旧宗主国がそうであったようにほぼ全ての国がカトリックの国です。ゲイやトランスジェンダーに対しての風当たりは、そういう面でも強いのかと思います。だからと言って、それが大多数且つ正である必要はない。マリーナを犯罪者かのように扱う人々の方が余程か野蛮だと思うし、見ていて本当に反吐が出そうになります。コレ、そういう偏見を持っている人たちは、それらを目の当たりにしても何とも思わないんだろうか。

時折挟み込まれるマリーナと彼女の歌の先生とのやりとり。綺麗事では片づけられないけど、歌だけが彼女の生きる世界を浄化してくれたんだなと思った。

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この映画と同じ頃に「アバウト・レイ 16歳の決断」を見ました。

見た目は女、心は男のレイと、見た目は男、心は女のマリーナ。

彼らの決定的な違いは、周りに理解者がいるのといないという点です。いや、マリーナにもいるんです。わずかながら。でも、2つの映画を見終えて思ったことは、レイのような境遇の方が稀有で、どの国でもマリーナのような扱われ方の方が大多数なんだろうなと。

だからこそ、トランスジェンダーの人々が生き抜く人生って、辛くて、苦しくて、生きづらいんだというステレオタイプがあると思うし、それを笑いやハッピーな面に目を向けるのってすごく難しいことなんだなと。

こんなにも苦しくて、辛い人生を自分が歩むことになったら。人はなかなか自分に置き換えて、他人の立場を考えることをしないから、あんなヒドイ仕打ちをするんだろうと思うんですが、マリーナは、それでも生き抜こうとする。あのボクシングゲームのパンチ力、私はしかと受け止めた。そして、最後の「オンブラ・マイ・フ」も。

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2018年27本目。テアトル梅田にて。

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