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中堅どころの物理学者・データ科学者。 ワイン、世界史、科学史、語学好き。 不定期更新で…

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中堅どころの物理学者・データ科学者。 ワイン、世界史、科学史、語学好き。 不定期更新です。忙しくなると増えて、とても忙しいと間が空きます。ご了承ください。

最近の記事

虹の解体: 自然科学・数学的記述に対するルサンチマン?

利己的遺伝子の概念、そして「ミーム」の概念の提唱で有名なリチャード・ドーキンスの「虹の解体」(原題: Unweaving the Rainbow)という著書があります。タイトルの元になったのは、アイザック・ニュートンがプリズムで太陽の光を分解して見せたことに関する逸話です。太陽光がスペクトル(つまり可視光線では虹の7色に対応します)に分解されることを示したニュートンに対し、ロマン主義の詩人ジョン・キーツは「虹の持つ詩情を破壊した」と非難したのです。同様の非難はこれ以外にも数多

    • 物理学における問題意識: テンションという名のマッチポンプへの苦言

      2021年12月のクリスマス、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)が(長い長い苦節の時期の果てに)無事打ち上げられました。ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope: HST)のような初期不良もなく、超遠方宇宙の銀河や近傍の銀河、惑星などのシャープな画像は研究者の度肝を抜き、3年で2000編を超える論文が出版されています。この勢いはとどまることを知らず、宇宙物理学に革命的進歩をもたらすことは間

      • 常時接続社会

        攻殻機動隊という作品をご存じでしょうか。近未来、人間の脳にマイクロマシンを導入し(作中ではこれを電脳化と呼んでいます)、脳から直接コンピュータネットワークに接続することが可能になった世界を舞台としたサイバーパンクです。この中に『個別の11人』(Individual Eleven)というエピソードがあります。 個人的に『個別の11人』は印象的なストーリーの一つで気に入っているのですが、今回の内容とは直接関係ないので詳細は割愛しましょう。ストーリーの中核をなすのは「英雄」を演

        • ジョルダーノ・ブルーノ: 真理の殉教者に非ず

          権力によって死罪にされようとも学問的信念を曲げなかった人として、よくジョルダーノ・ブルーノの名が挙げられます。彼は1548年、ナポリ王国のノーラという街で誕生しました。本名はフィリッポ・ブルーノ(Filippo Bruno) といいます。1565年、17歳でドミニコ会に入会し、ジョルダーノを名乗るようになります。 通俗的解説では、彼は地動説を支持した咎により火刑に処されたと説明されています。火刑にされる直前に彼が口にした「私よりも宣告を申し渡したあなたたちの方が真理の前に恐

        虹の解体: 自然科学・数学的記述に対するルサンチマン?

          天体命名にちなむ苦労と言語学習のご利益

          天体の命名、昔はギリシャ・ローマ神話の登場人(神?)物の名前が定番でしたが、今はいろいろな文化圏からの命名が増えてきています。そんな中、最近私たちが始めた研究で出てくる天体名も大問題で、かなり困っています。いくつかのグループが統一感のない命名をしているため、天体名の表がカオスの様相を示しているのです。 最近、ガイア(Gaia)という天文衛星によって、私たちの住む銀河系の重力場に捕らえられて壊れながら合体していく矮小な銀河が多数発見されました。これらの矮小銀河は銀河系の強い重

          天体命名にちなむ苦労と言語学習のご利益

          シン・寄生獣(?)

          その存在は、広く人々に知られていた。 しかし、人々はそれを特別に意識することはなく、日々の暮らしの中で目立つこともなかった。 …その時までは。 各地で、あるウィルスによる疾患が流行り始めた。多くの人が罹患した国もあり、人々は未知の恐怖にかられ、藁をもつかむ思いで救いを求めた。 その隙を突くかのように、その存在は大々的に増殖し、人類に寄生し始めた。映画『エイリアン』のフェイスハガーのように、人々の顔の半分以上を隠すように寄生する姿は、名作『寄生獣』のパラサイトとは違ってあ

          シン・寄生獣(?)

          世界におけるフィボナッチ数列と関連する図形

          フィボナッチ数列という不思議な数列、数学の話題としては広く知られているものの一つでしょう。この数列の名前になっているのが12-13世紀のイタリア(ピサ共和国)の数学者レオナルド・フィボナッチ、本名ピサのレオナルド(イタリア語: Leonardo da Pisa)です。 本名のほうはレオナルド・ダ・ヴィンチ(ヴィンチ村のレオナルド)と同じ形式で、姓というわけではなく住んでいた土地や出生地が記されているだけで、固有の名前はフィボナッチの場合もレオナルドのみです。フィボナッチは父

          世界におけるフィボナッチ数列と関連する図形

          宇宙のフラクタル性、別稿

          (改めて執筆予定)

          宇宙のフラクタル性、別稿

          銀河の形態(とそれにまつわる人間模様)

          銀河の形には、まず思いつく渦巻きを持った円盤のあるもの(渦状銀河)以外にも、丸くて特に特徴がなさそうなもの(楕円銀河)、その中間的な円盤はあるけれど渦巻きがないもの(レンズ状銀河)、そして特に対称ではなく不規則なもの(不規則銀河)があります。ただし、これらは主に大きな銀河の分類で、数の上では圧倒的に多い小さな銀河の形は一般にはっきりせず、丸いか不規則かのどちらかです。 一般の銀河が銀河系の外、ずっと遠くににあって銀河系のように巨大な天体であることが分かったのは1926年のこ

          銀河の形態(とそれにまつわる人間模様)

          世界史:「串刺し公」ヴラド

          今回は趣味の世界史のお話です。 もう何年も前のこと、巷で『ドラキュラZero』という微妙な邦訳タイトルの映画が公開されていました。英語タイトルはDracula –Untold–と、こちらはいい感じ。この映画では、史実を若干(本当にちょっとだけ)舞台として用い、実在したワラキアの領主ヴラドIII世、通称ヴラド・ドラキュラ公と吸血鬼伝説をミックスしたストーリーを展開しています。 では、実在のヴラドIII世はどんな人だったのでしょうか。映画の話をツマミにしつつ、この人物について

          世界史:「串刺し公」ヴラド

          宇宙の階層構造とフラクタル性

          宇宙には、流れ星の元になる塵(ダスト)の粒から惑星、星団、銀河、銀河団などいろいろなスケールの構造があります。そして小さな構造は大きな構造の構成要素になっている、つまり入れ子になっていることが多いです。これを、宇宙は階層構造をなしていると表現します。Wikipediaの「宇宙」の項目から図を借りてきましょう。この図は地球から始まっていますが、より小さいダスト粒子や微惑星と呼ばれるものも天体とみなせます。 次々と大きなスケールに構造が現れることが見て取れますね。まさに、様々な

          宇宙の階層構造とフラクタル性

          銀河の一生(の一部)のおはなし

          別の記事で、大きな銀河は周囲の小さな銀河などを食べて成長したと書きました。もう少し一般的に、銀河は成長もするし老化もするし、共食いもすれば捕食もするという、妙に生き物的な存在です。学術用語としても、銀河合体は銀河のカンニバリズム(人食い)と物騒な名前で呼ばれていたりします。 私達の銀河系もアンドロメダ銀河と数十億年後には合体してしまいます。 アンドロメダと銀河系の衝突合体はかなり精密に計算できるようになっていて、研究機関から公式の動画が公開されています。 ちょっと残念なお

          銀河の一生(の一部)のおはなし

          銀河の中心には何がある?

          銀河の中心には何があるでしょうか? たとえば、銀河系の中心には太陽の100万倍ほどの重さのブラックホールがあります。最近、本間希樹教授らがその画像を公表したニュースがありました。ほかの銀河でも、一般的に大きな銀河の中心には巨大なブラックホールがあることが知られています。ただし、小さな銀河(矮小銀河と呼ばれています)ではブラックホールはめったに見られないのです。この辺も興味深い未解決問題です。 ですが、このブラックホールが銀河系の材料を集めたわけではないと考えられています。銀

          銀河の中心には何がある?

          宇宙に渦巻きが多いわけ

          宇宙に渦巻きが多いのは、主に重力(引力)と、角運動量の保存という重要な基本法則があるためです。どちらもニュートン力学以来の伝統的な物理学の重要な概念ですが、特に最新の難解な理論が必要なものではありません。 重力はともかく、角運動量のほうはは聞き慣れないかもしれませんが、回っているものの回る「勢い」みたいなものです。フィギュアスケーターが腕を縮めると回転がどんどん速くなるのはご存知かと思います。これは角運動量保存のためで、物が小さく集まると回転は速くなると思ってください。

          宇宙に渦巻きが多いわけ