T(私)の高校生時代②

彼女が欲しい!!!!!

さて、真の友人というものを得た私はまた一つ欲が出てきた。
ぶっちゃけて言うと、彼女が欲しくなった。
私も大名も同性愛者ではない以上、男同士では出来ない青春というものはどうにもならない。それ以外に無理に気の合わない友人を作ろうとする無意味さを察してしまったし、加えて言うと、大名は本当に自分の都合や気分が向いた時にのみ相手をしてくれる猫のような男(ただし可愛げは全くない)だったので寂しい時も多々あった。
色々と言い訳したが、ぶっちゃけ彼女がいる高校生活というのが羨ましかったのである。
実のところ中学時代も彼女がいたことはあったが、短期間であったし恋愛と呼べるかは微妙な交際だったので恋愛の楽しさというのは満喫できなかったので、その分を取り返したろうくらいの勢いであった。
恋に恋する男子である。誠気持ち悪い。

そんな訳で彼女探しを始めるのだが、それはもう大苦戦であった。
前提として、出会いが無い。
私の通う通信制高校は本当に少人数であったし、その少数に都合よく好みの女性がいるかというとそんなことはない。
あとはまあ、シンプルに私の魅力不足である。
恋愛らしい恋愛経験などまともにないので会話はお世辞にも上手だったとは言えないし、お金もやる気も無かったので身だしなみに力を入れることも怠っていた。
それに、私は恋愛がしたいという想いや恋人がいるという優越感というものを満たしたいという一心で行動していた。そんな失礼千万な思惑は、当時アプローチしてきた女性たちには透けて見えたことだろう。

そんな訳で、私は私なりに頑張ってはみた。
結果は以下の通りである。

・同じ高校の三年生の先輩
アプローチを掛けてみれば、彼氏持ちであると判明し敢え無く玉砕。ちなみに先輩のLINEを通して彼氏から怒りのカンスト通知スタンプが来ていたので、そっとLINEを閉じて撤退。

・中学時代に気になっていた同級生
連絡先を交換するも、あまり話が合わずに関係自然消滅。

・中学時代に気になっていた同級生2
同上

酷い有様である。ちなみに、バイトをしていた時にはバイト先の人にアプローチをする前にバイトがきつくなってやめてしまったとかいう最高に情けないこともあった。

いよいよ心が折れかかってきて、気づけば高校2年生となった時、私の転機はやってきた。
1年生に、遠目から見て今時風の可愛らしそうな子が転入してきたのである。
渡部(わたべ)というその後輩にさっそく接触を試みて連絡を取り合うようになると、なんと話が結構弾むのである。純粋に楽しかった。
近くで見ると思った程かわいくはないな等と思った過去の自分のことは棚に上げて、アプローチを続けていった。
そして伝えられる、衝撃の事実。
「好きな人がいるんです」
……ここまで上げて落とされたことは久々であった。
話を聞くと、その相手は同じ高校の同級生であるという。好みの顔だったというのと、転入し立ての自分に良くしてくれたことからすっかり惚れてしまったという。
ただ、話を聞く限り、彼女が好意をちらつかせてからはすっかり冷たくなってしまい、寂しい状況にあるところだったという。
そこに私が上手く付け込めたからこそ仲良くなれた、というオチだったのである。

さて、そこで私が取った行動はというと...…それ以降も気にせずアプローチを続けた!
好きな男がいようがいまいが、ここまで女生と仲良くなるのはもう難しいと踏んだ私は、好きな男がいてもいいと嘯き、余裕をもった男のふりをして愛の言葉をささやき続けたのだ。
それに渡部の話を聞く限り、片思いの男は決して脈が無い訳でもなさそうだった。どうも思春期故のちっぽけなプライドが邪魔して素直になれていないだけで、男が素直になればいつカップルが成立してもおかしくはない。
ならば、そうなる前に彼女を私に惚れさせなければ!と思い、行動したのだ。
これが正しいやり方だったのかはわからない。
唯一頼れる心の友である大名は私が勧めたアニメにまさかのドハマリをしている上に恋愛に興味など一かけらもない人物だったので、アドバイザーとしては控えめに言っても戦力外である以上、私は私がやりたいと思った方へと突き進んだのである。

その想いは、実った。
「今はもう、Tが好き」
愛の告白を受け取り、私は晴れて彼女と恋仲になることが出来たのであった。
初めてのデート。初めてのキス。初めての性夜。
色んな初めてを、二人は共有していきました。めでたし、めでたし。

……とはならなかった。付き合って初めてわかることだが、男女の関係において私と渡部は相性が良いとは言えなかった。
例えば、私がデートにおいて居心地の良さを求めるのに対して、渡部は楽しさを求めるタイプであったり。
例えば、私が恋人に求めるものに一緒にいてくれるだけのことに対して、渡部は憧れや格好良さを求めるタイプであったり。
唯一合うところといえば、二人ともメンヘラ気質だという嬉しくないこと。
喧嘩や気まずい雰囲気になることが、時が経つに連れて増えていった。
「やっぱり私、思春期男子(片思いの男)が忘れられない」
私はともかく、渡部はどんどん私に幻滅していったのだろう。挙句の果てにそう言われてしまった。
私は私でそれでも好きだと渡部に言い続けていたが、自分自身、限界だということもわかっていた。
幾度もすれ違う仲で私は渡部のことを純粋な気持ちで好きと思えなくなっていたこと。今、それでも好きだと言い続けるのは愛情ではなくただの執着でしかないことに。

結局、行き着く先は別れだった。
直ぐに関係が終わることはなかった。別れて直ぐに復縁したり、復縁後別れて、本当に別れた後も肉体関係は続いたりなど、色々あった。
別れた直後は、どうしようもなく悲しかったと思う。
それでも、渡部が好きでもない男と性行為をしたり、結局片思いの相手ではなく新しい男と付き合い始めたという話を聞くうちに自然と愛情は嫌悪へと変わり、彼女との関係は完全に終わった。

恋の終わりと共に、私の高校生活もまた気づけば終わりを迎えた。
あれからもう何年も経つ。嫌悪するに至った彼女への負の感情すら忘却してしまったが、それでも渡部との恋愛で学べたことは多いと感じている。

何も努力しないありのままを愛してもらうというのは自分勝手な我儘でしかないということ。
尊敬が無ければ成り立たない恋愛もあるということ。
身だしなみを整えることは大事であるということ。
束縛は愛情をすり減らす行為であるということ。
他の女性をむやみに褒めるのはNGであるということ。
女性との会話の作法を理解すべきであるということ。
過剰な嫉妬は軋轢を生むということ。
執着は愛情ではないということ。
性行為は最高であるということ。
外面だけでなく中身も好きになれなければ恋は終わるということ。

今現在、実践出来ているものもあれば出来ていないもの、時として出来なくなってしまうものもある。
渡部との恋愛はトータルで見ても楽しいことよりも苦しいことの方が多かったが、それでも色々なことを身を以て思い知った。
そういった意味では、渡部もまた私にとっては感謝すべき対象の一人だ。
高校卒業後、渡部と会う機会が一度だけあった。
感謝はもう、その際に伝えた。未練はない。
未練は無いが、かつて深く関わった人間の一人として思うことはある。
彼女は今、どのようにして生きているのだろうか、と。

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