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高大連携アントレ教育プログラムの成果はいかに?|2022年度の総まとめ

お久しぶりです!2023年初投稿です!

早いもので2023年の1月も半分が経過してしまいました。年明けから娘氏の受験、学期末、定期試験とバタバタしながら過ごしてきました。また、この間2022年度に高大連携アントレ教育プログラムにご協力頂いた高校の高校生にアンケート調査を実施し、その分析をしていました。データ弄ってるとあっという間に時間が経過しますね…。

今回は2022年のふりかえりとデータ分析の結果ここまで明らかになっていることを書き記します。いつものことながら冗長になるかもしれませんが、ぜひご一読ください。

なお、高大連携アントレ教育プログラムのこれまでの記事はこちらのマガジンから。

あっという間の1年でした

2022年をアントレ教育に捧げる1年にするとしたのは昨年の今日、この日でした。2022年1月19日。

その直前、2021年末に大分県日田市で実施していた学生によるポップアップコーヒースタンド「BESIDE COFFEE STAND」と日田三隈高校2年生7人によるプログラムが行われました。高校生に1万円を渡し、2日間で商品開発と販売、そして1月にその経験を同学年の生徒全員に向けてプレゼンをするという小さな取り組み。

2022年お気に入りの1枚は1月にすでに撮影されていた。

これが思いの外高校生にインパクトを与えたようで、その後の新聞記事では「日田で働くってことを考えてみてもいいかな」というコメントを見て涙しそうになったことがありました。

それからすぐ、長崎県壱岐市を訪問する機会があり、2022年度のアントレ教育の実施を要請されました。かねてからの福岡女子商業高校と合わせて3校。しかも、福岡、大分、長崎(壱岐)と各地で実施することとなれば、これまでのような臨機応変さで乗り切るようなプログラムではなく、一定程度作り込んだものにしなければならないと考えました。それが下の写真であり、当時の記事で書いたことでした。

去年の今日は私の中でアントレプレナーシップ教育を行う意義が明確になった記念日。

それから1年。その後,新たに九州移住ドラフト関係で福岡県飯塚市とのご縁ができて飯塚高校との連携,福岡県から高校生チャレンジプロジェクト関連での支援で博多工業高校や上智福岡高校への支援も実施し,アントレ教育としては4校,プロジェクト支援としては2校の合計6校での授業を展開してきました。

創業体験プログラムと高大連携アントレ教育の展開

特に飯塚高校ではトータルライセンスコースの1-2年生を対象に授業を実施し,11月末の創立60周年記念文化祭は学校法人発祥の地である本町・東町商店街で実施され,普段は閑散としたアーケードが高校生で埋め尽くされるという経験をすることができました。その時の模様は下のYoutubeから。

また,12/3-4に開催された福岡女子商業高校での「女子商マルシェ」では,博多工業高校と上智福岡高校のそれぞれのプロジェクトが出店という形で参戦。うまく行った部分と行かなかった部分がありながらも,それぞれがそれぞれの持っているポテンシャルを最大限発揮した機会になりました。

2022年は壱岐を抜きにして語れない

このように,2019年に1校から始まった高大連携アントレプレナーシップ教育プログラムは各地で展開されるようになっていきます。そして,その中でも特に2022年度に印象的だったのが壱岐商業高校でのプログラムでした。

女子商や日田三隈での取り組みをベースにお話をしていたら「来年度毎週火曜日2コマの授業をお願いしたい」と言われることに。私の悪い癖で楽観的な見通しをもとにすぐにOKを出してしまい,あとで学生に多大な迷惑をかけることになるのだけれども,そこから壱岐での活動が始まることになります。

壱岐に訪問しての対面授業

さすがに毎週訪問するわけにはいかないので,授業はオンラインを駆使して実施。学生はあくせくしながら毎週授業資料を作成。特に前期中は3年生だけでは不安だからとOBや4年生を巻き込んで授業を展開し,授業後のふりかえりでは怒られ,思い通りに進まない部分もあって精神的に相当負担だったでしょう。しかし,やればやるほど力は付くもの。本当によく頑張ってくれました。

そして,壱岐商業高校では島内最北端の集落、勝本浦を舞台に2回のマルシェを実施しました。

エテマルシェのハイライト。窓を高校生のメッセージボードに!

1回目は8月末に2日間にわたって行った「壱岐エテマルシェ」。1学期の授業で見出した事業機会=服を買う場所を作りたい+人が集まる場所を作りたいを形にするため,前者はSPINNSにご協力頂いて洋服店を出店,後者は学生によるポップアップカフェ「BESIDE COFFEE STAND」と島内でパン店を展開する「パンプラス」のコラボ店を出店することに。

イヴェールマルシェは文化祭をコンセプトに開催

2回目は12月に実施した「壱岐イヴェールマルシェ」。それ以前に視察に行った商店街と高校生の取り組み事案から着想して,新型コロナウィルスの関係で公開できない文化祭を勝本浦でやろうという企画。壱岐島内各地から商店に出店をして頂いたり,公民館では写真展を開催,地域を巡るスタンプラリーの実施,そして高校の和太鼓部と吹奏楽部による演奏と子ども連れからお年よりまでが楽しめるイベントを創出することができました。

こうして壱岐商業高校の生徒と学生がコラボレーションしてイベントを創り上げることができました。まさに2022年は壱岐と飯塚を中心に新たな取り組みにチャレンジし,形にした1年だったと言えるでしょう。

活動の成果はいかに|高校生へのサーベイ調査から

こうして行ってきた「高大連携アントレプレナーシップ教育プログラム」は,果たしてどんな成果をもたらしたのでしょうか。ここで高校生に回答して頂いた調査結果をもとに述べていきましょう。

研究の枠組み的なもの

今回の調査を行うにあたり,何本かのアントレプレナーシップ教育研究の論文を読みました。その多くは起業家を育成するには起業意図(entrepreneurial intention)を涵養することがポイントだとしており,その意図は自己効力感と関連性が深いと指摘しています。

しかし,このプログラムは起業家を育成することだけを目標にしていません。先の図にも示したように,地域経済を自立可能なものにするために付加価値を最大化するという発想が必要であること,それを事業を通じていかに行うかを考えることが重要であること,そのためにジブンゴトとして課題を捉え,その解決のために(リスクを見極めながら)限られた資源を組み合わせて最大のパフォーマンスを発揮することが重要だと教えています。

起業という目標に収斂させるのではなく、どのような人生を歩むかは人それぞれだけれども,そのキャリアを自分にとって望ましいものにするためにいかにあるかを考える機会を創ろうとしています。その題材としてビジネスを使っているのであって,儲けろ,起業しろ,リスクを取れなどというつもりは毛頭ありません。

そうした中で,高校生に大学生が授業をする,高校生と大学生が協力して主体的に事業を営むという実践を行い,彼・彼女たちが何かに気づくのを待つというスタンスで授業を進めています。こうして進めてきた授業の成果が如何なるものだったのか。2つの視点から述べていきます。

2022年度の調査結果[暫定版]:ある程度の教育効果はあった?

まずは,授業を受けた生徒がどのように変化したのか。上の表の中央「処置群(220)」とあるのが受講生の反応です。効果量とは,授業後と授業前の回答数値の差(7点リッカートスケール)を授業前の解答の標準偏差で割って求められるもので,当該項目の内容について生徒が授業を通じてどう変化したかを測る尺度です。0.2以上(あるいはマイナス0.2以下)あれば一定程度の反応があったとされます。

ここではESE=起業家的自己効力感を構成する要素である「創造性」「財務リテラシー」と,将来キャリアとの関連性で「起業家的意図」を高めることに効果があったということがわかります。一方で,「起業家的態度」や「起業家的な知識」は大きく減じており,授業がこうした内容にマイナスの影響を与えていることが示唆されます。ただし,これは(また論文で説明しますが)元々これらの回答の平均値が高く,授業を受けた結果として自己認識が修正された結果だともいうことができます。

また,受講者と非受講者との授業後の効果の違いを調査した「処置群=対照群」の項目ではほとんどの項目が0.2を上回っており,受講していない生徒に比して明らかに受講した生徒には本プログラムの教育効果が一定程度あったことが認められます。

中核的自己評価が低い生徒群の方が教育効果が高いのか?

次に,中核的自己評価という概念に着目をしてみます。中核的自己評価とは「人々が自分自身の存在価値や能力をどのように評価しているかを示す傾向」のことで,自尊心(Self-Esteem)や自己効力感(Self-Efficacy),統制の所在(Locus of Control)などを統合した指標です。ここでは,授業開始前の中核的自己評価に着目し,平均より高い生徒と低い生徒がそれぞれ授業終了後にどのように変化したかをまとめてみました。

すると,処置群,対照群ともに自己評価高めの生徒はいくつかの項目で平均値が減じており,自己評価低めの生徒は逆に上昇するという結果になりました。なお,サンプルを(受講生の学年や特徴で)ある程度絞り込むと,中核的自己評価が低い生徒が授業を受講することで,特に起業家的自己効力感(ESE)を構成する各項目が上昇することもわかっています。つまり、このプログラムは自己評価が低いと思っている生徒に自分の持つ力に気づける機会を提供できているということ。

なお,ここではあくまでも平均値の差を取っているだけで,本来は検定をちゃんと行わなければなりませんのであくまでも暫定的な結論ですが,一定程度の教育効果はあったのではないかと考えています。

確実に何かをもたらせたという実感

こうした結論は授業を温かく見守ってくださった各校の先生方や社会人の実感と沿うもののようです。

2022年12月17日付大分合同新聞より

例えば,こちらは昨年12月に大分合同新聞に掲載された日田三隈高校でのプログラムを紹介してくださった記事です。この時の販売実践もSPINNSによるアパレルとBESIDEによるカフェという2本立てで行ったのですが,売上的には極めて厳しい結果に終わりました。

しかし,記事を読む限りでは他の高校と同じように,そして同校の先輩たちがそう感じたように「やってよかった」と思ってくれたのだそう。そして,彼・彼女たちのプレゼンを聞いて受講しなかった生徒から「やれば良かった」という言葉が出てきたこと。何より,担当してくださった先生が「失敗はしたが『やった』という自信がついたはず。今後,やるか,やらないかを決める場面で『やろうかな』に傾いてくれるといい」と期待してくださっているとも書いてあります。

また,今日来ている壱岐では,現地で伴走してくださっていた壱岐みらい創りサイトのMさんの研究の中で行われた壱岐商業高校でプログラムを受講した生徒10名の変化についてお話を伺いました。すると,受講前の将来のキャリア計画では壱岐に残ることをほとんどの生徒が考えていなかったけれども,受講後には7人が将来的に何らかの形で壱岐に戻ることを考えたいと回答しています。中には親御さんとの会話の中で「壱岐に無いけど重要な仕事は何か」と尋ね,ある資格取得を志そうとしている生徒もいるのだそう。同じ調査を前年に行った時には壱岐に戻って来ることを考えていた(2021年度の)生徒がゼロだったことを考えれば,このプログラムが狙いの1つとしていることは今の時点では達成できたと言えるのかもしれません。

今日打ち合わせをした壱岐商業高校の先生も「このプログラムの中になかなか学校に出て来れなかった生徒がいたのですが、マルシェで役割が与えられて、それをこなしていくうちに学校に来れるようになったんです。そういう子にも活躍できる場があるってことが大事なんだなと学べました」(意訳)と仰ってました。

まさにアントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスを教えてきた成果がこうして体現されてきたと言えるのかもしれません。

もちろん,キャリアを形成するのに「地元に残る」ことだけが彼・彼女たちにとっての最適なわけではありません。ただ、彼らは自分の島を商材として見たとき、そのポテンシャルに気づいたという話。自分にできることは何か。どのような役割を果たすことが良いのか。自分の望む生き方をするために選択肢から何を選ぶか。彼・彼女たちに考える機会を作ることができた授業だったと言えるのかもしれません。その選択肢を正しくする努力をずっとして欲しいと心から願います。

2023年度に向けて

2022年のふりかえりは以上で終了。この春休みを使って2023年度の仕込みを始めなければなりません。学校が増えるのか,地域が拡充するのかは現時点ではわかりません。ただ,昨年までは「やってます」だけだったのが,今年は「こうした実績があります」と胸を張って言えるのは全然違います。

今日も壱岐で来年度以降どうするかという話をしましたが,合わせて来年度はこちらからの授業提供は控えつつ(毎週は流石にしんどい),将来的に先生方にアントレプレナーシップ教育ができるように教育カリキュラムを構築していく1年にしましょうとご提案しました。実際どのような形になるかわかりませんが,今年の取り組みに手応えを持ってくださっているようです。

2023年は皮切りに天草へ。果たして結果はいかに。

また,先日は熊本県天草市を訪問し,天草工業高校で模擬授業を行いました。天草市の中心部である本渡地区では毎月1回第3土曜日に商店街を使って「まちはみんなの遊園地」という活動が行われており,島内にある3つの高校の生徒がボランティアで参加しています。しかし,学校が休みの日にプログラムを運営することにご苦労されているとのことで,以前訪問した際にご案内した壱岐での取り組みに興味を持ってくださったそうです。

これがきっかけに天草への展開が進むかどうかはわかりませんが,新たな展開への芽吹きも感じられています。2023年にこのプログラムがさらに進化できるように,冬の時期にしっかりと仕込みを進めていきたいと考えているところです。果たして来年はどんなことを書いているのだろうか。

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