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商いを通じて自己の発見につながるか|2022飯塚高校×とびゼミコラボ授業⑥

いよいよこの日が来ました。飯塚高校ととびゼミコラボの「飯福商店 商い場」

今年2月に新型コロナウィルスの影響による緊急事態宣言が発令される中,九州移住ドラフト2022に球団として出場した飯塚市で長年書店を営んでこられた元野木書店さんと,選手として1位で指名されたゼミ3年生,そしてアパレルショップSPINNSのコラボでの出店のときの出会いをキッカケに,飯塚高校でのコラボ授業が始まり,今日を迎えることになりました。

その後も飯塚ではTANEMAKI by SPINNSの活動が続いていたり,飯塚市に所在する近畿大学産業理工学部のある研究室とのコラボ活動(オープンスペースの設置とイベントの開発)など,さまざまな活動を続けています。

しかし、実際のところなかなか手応えが得られていませんでした。しかも,日曜日は閉店されているお店が大半の中で高校生が行う1イベントでどれだけの集客が可能かもわからず,正直,飯塚高校の先生方も,今回携わる私たちも不安で仕方ありませんでした。

今回のイベントには「飯福商店 商い場」という渋い名前が付けられました!

が、いざ蓋を開けると,たくさんのお客様にご来場頂くことができ,予想以上の売上を得ることができました(高校生の取り組み全体とすればなかなかの数字/創業体験プログラムで大学生が3日間で叩き出す数字に匹敵)。そして,課題がゼロとは言いませんが,教室ではどこかまだ元気ないなと思っていた高校生が,お客様とコミュニケーションをしたり,高校生同士で話をしていくことを通じて笑顔になっていく様子を見て,(月並みな表現ですが)本当にこれをやって良かったと思えるイベントになりました。

私も家族や仕事の都合上,全部が全部見に行くことはできませんでしたが,学生や先生方,そして高校生から聞いた話をもとに今回のイベントについて記していくことにします。

なお,飯塚高校とのコラボ授業については下記のリンクをご参照ください。

学校発祥の地で事業を行う意味

今回の出店は,飯塚高校との高大連携プログラムの一環であることは言うまでもないが,実は飯塚高校からすると重要なテストマーケティングの場であった。というのも,ここでも繰り返し書いてきたように,今年(2022年)は飯塚高校設立60周年の記念するべき年であり,そもそも商店街に所縁を持つ同校では記念の年の文化祭を商店街で実施することを企画されていた。

今回出店した本町商店街の中心にある広場「ヲソラホンマチ」はもともと飯塚高校の前身である私塾であり,法人を創設した創立家が事業を営んでいた場所でもある。ここではこれまでもさまざまなイベントが定期的に開催されており,学校法人(高校)と地域を結ぶ重要な場所だということでもある。

文化祭は11月末に開催される。今回はトータルライセンスコースという特に資格取得を目指すコースの2年生34名が出店に参加し、テストマーケティングを兼ねてここまで準備を進めてきた。そして,出店する店舗についても,ご縁があることから商店街内のいくつかの店舗にご協力を頂くことができた。しかも,これまで他で行ってきた事業内容とは異なり,商店街だからこそできる多様な品揃えの企画となった。

高校生と行った新たなチャレンジ:2日間の営業の模様

このようにして始まった新たな企画。過去,日田や壱岐で行ってきた取り組みを基礎に,今回はそれぞれの店舗(6店舗)に大学生の担当を付け,前回授業で計画した経営計画をベースに営業を行うようにした。高校生とはGoogle classroomを活用してコミュニケーションを取り、お店側の要望、品目、値付け、当日のオペレーション、ポップの作成など、営業に必要な確認事項を取ってきた。便利な時代になった。

今回の出店店舗の紹介

以下、今回の店舗をご紹介しよう。

1つめは九州移住ドラフト以来お世話になっている元野木書店とのコラボ店舗。同僚の先生がかつてゼミで行っておられた活動から着想したこの店舗。本好きの男子高校生が自分の売りたい本をポップで紹介し販売するというお店に。また,ゲーム好きな彼らに合わせて,元野木書店で販売されているカードゲームを仕入れて売ることに。自分たちの趣味と実益を兼ね備えた店舗。

今回初めて書店を出店しました!

これがスマッシュヒットを飛ばすことに。初日は少し控えめだった彼らも,2日目は周辺店舗の様子を見ながら少しずつ積極的に売り込みを開始。ちょっと足を止めたお客様に本の良さ,面白さを訴えて1冊,2冊と販売。時にカードゲームの箱買いなどがありつつ,予想を上回る売上を達成。最後のふりかえりでは,11月に向けて新たな本を仕入れて,挑戦を続けたいと前向きなコメントが出た。

2つめは,商店街内に店舗を構えるカフェつむぎとのコラボ店舗。こちらでは,先にスイーツ甲子園2022にて全国制覇を成し遂げた同校製菓コースとのコラボで地元菓子店が製造・販売するお饅頭や,メーカーとのコラボで製造しているドレッシング,コーヒー豆を販売。店舗でも安定的に売上を上げている商品であることから,そこそこ売上を上げるであろうと予想されていた店舗。ところが,蓋を開けると予想以上に売上が伸びて,1日目には2日間の在庫が売り切れ。追加仕入を行うことに。

カフェつむぎとのコラボは飯塚高校製菓コースの企画商品を販売

2日目には急遽ゼミ生によるポップアップコーヒー店「BESIDE COFFEE STAND」に出店を依頼し,お店独自のブレンド「つむぎブレンド」を使ってコーヒーを販売することに。こちらは思った以上の売上にはならなかったが,お菓子とぴったりで同行していた娘氏が饅頭もコーヒーも美味しい,美味しいと言っていた。

3つめは,カフェつむぎと同じ敷地内にある雑貨店「紅椿」による和雑貨の販売。正月飾りの縁起物で来年の干支であるうさぎの置物を販売。これに足袋くつ下と女性向けの洋服を販売。さすがに高校生がこれを売るには相当苦労をしたようだが,周りの店舗が売り上げているのを見て必死の声掛け。

来年の干支「うさぎ」の置物と和雑貨を販売した紅椿

2日目は,JR九州のウォークイベントがあることを聞きつけ,人通りがあるだろうと見込んで飯塚市内の有名パン店からパンを仕入れて販売。午前中で売り切れるほどの勢い。「自分たちで売る」という貴重な体験につながった。

4つめは商店街からは少し離れた住宅街に店舗を構える「カカオ研究所」のチョコレートを販売。こちらは最近テレビなどでも取り上げられ,福岡市内からも来店客があるほどの店舗。実は家族ぐるみでチョコレートにハマったお店で,ベトナムのカカオ農園の運営にも携わるほど。社長はカカオ生産に,奥様と娘さんは家政系の大学を卒業されてチョコレートの効用についての研究を行うようなこだわりを見せている。

地元有名なチョコレート店「カカオ研究所」とのコラボ

いざ店を始めると絶好調。こちらも2日分の仕入を1日で売り切るほどの勢いで,2日間で最も大きな売上を得るほどに。2日目の追加仕入分も完売し,販売に携わった女子生徒はみな笑顔に。

1日目,2日目の営業終了後,報告とおみやげ購入を目的にカカオ研究所の実店舗にも足を運んだが,お店の皆様も一様に喜んで頂けたようだ。本当にここのチョコレートは美味しいです。ぜひご来店ください。

5つめと6つめはこの高大連携コラボでは大変お世話になっているSPINNSとTANEMAKI by SPINNSによる洋服店。ここ数ヶ月は元野木書店で営業してきたSPINNSですが,今回は元野木書店だけでなく,テントブースも出しての営業。やはりアパレルは最強コンテンツで,高校生が最も興味を持っている。そのため,参加希望者も多かった。SPINNS側もこれまでの経験を活かしていろいろとチャレンジをしてくださった。

SPINNSもテント出店しました!

それが下の店舗。商店街内にある別の元書店のシャッターを開け,少し手を入れたのがこの店舗。そして,店頭には「愛着循環」の文字が。近年,捨てられる洋服を回収する,環境配慮型の事業が注目されており,大手アパレルメーカーでもSDGsの流れなどで回収を行うようになっている。そうした中で,SPINNSでももう着ない服を捨てるのではなく,次の人に循環させるという取り組みを始められた。

TANEMAKIは新業態をテスト

ここで面白いのは,その集めた服を古着として販売するというもの。高校生が値付けをして店頭に並べる。高校生からすれば,言われるがままにすでに付けられた価格の商品を販売するのではなく,自分たちで値付けをして自分たちで仮説検証を行いながら販売する。もう着られないと思ったものでも,次の人が愛着を持ってその服を着てくれるのだとしたら,その循環にはさまざまな意味が含まれていく。事業的にも教育の材料としてもよく考えられた仕組み。

アントレプレナーシップ=一歩踏み出す勇気が発揚された場面

こうして店舗はそれぞれ運営されてきたが,今回の活動を通じて高校生に何かしらの変化をもたらしているのだなと伝え聞いた話があった。

ある日,担任の先生にある生徒から連絡が入った。「先生,ちょっと遅刻します」と。そこで先生は「何してるの?」と尋ねると,「今,近くの小学校で全校生徒に今回のイベントのチラシを配ってもらえないかとお願いに来ています」と答えが。それを聞いた先生は「今からそっち行くから待ってろ」と伝えたけれども,怒られると思った生徒は逃走。先生は謝罪をしなければとその小学校に向かったのだそう。

ところが,小学校に着くと,小学校側からは「わかりました。全校生徒に配布しましょう!」とご快諾頂いたのだそう。生徒の一歩踏み出す勇気が良い方向に向いたし,自分が動くことで周りの人も動くかもしれないという学びを得たのではないか。これも売上を少しでも伸ばすために,高校生が必死になって行動してくれた証。まさにアントレプレナーシップの発揚。

あるいは,前回授業で最後に投げかけた告知の重要性を高校生たちは本当によく聞いてくれていたようで,中学からの友達に来てもらうようにお願いをしていたのだそう。実際に近隣の公立高校の生徒がチラホラと店舗を訪ねてくれて,友達同士で楽しそうに話をしていた。これまでも他の地域で同じような風景を目にしてきたが,彼・彼女たちにとってはほとんど来ることがないような場所に足を運ぶ機会を作れただけでも十分なのに,それなりに仕掛けを作ればまだまだ集客ができるという可能性を感じることができた。

最後に,下の写真は高校生の発想で出てきてた値引きアイデア。これ,大人だとなかなか考えつかないですね。

生徒の知恵で出たポップ

「愛着循環」を運営していたTANEMAKI by SPINNSでの店舗の様子。普通は1割引,2割引としそうなところを,高校生は買った枚数×100円の割引をするというもの。今回,こちらの店舗では500円,700円,1,000円など,高校生が値付けをして販売する取り組みをしていたが,これでいけば例えば5枚買えば500円の服を1枚無料で購入できることになり,確かに数多く服が欲しい人からすればお得感がある。実際に利益計算し出すとどうなんだという問題はさておき,面白い発想だなと感じた次第。

取材・視察にお越しいただきありがとうございました

こうして高校生たちが奮闘した今回のイベント。地元新聞に取材して頂いたり,九州経済調査協会から商店街活性化事案の視察にお越し頂いたり,別府から高大連携プログラムを聞きつけた旅館業の専務さんと社員さんが来てくださったりと,こちらが思っている以上に反響を頂き感謝しております。

西日本新聞10/23朝刊に掲載頂きました!

実は,今回最も驚いていたのは恐らく学校側。これだけのお客様にご来店頂けることはもちろん驚きでありながら,トータルライセンスコースの生徒さんが持つポテンシャルに気づかれたこと。まだまだ商店街という場所でなにかできるということもそうですが,生徒に学校外でのチャレンジの場を作ることで彼・彼女たちがこんなにもいきいきと活動するのだということを知れたことが大きな収穫だったのかも知れません。理事長はじめ,学校関係者の皆様には足をお運び頂き,大変感謝申し上げます。学生にとっても学びの機会になりましたことを改めて御礼申し上げます。

ふりかえり:この機会を次にどう繋げるか

以上のように,今回の飯塚高校トータルライセンスコース2年生の取り組みは一旦区切りを迎えた。営業成績という面では予想以上の成果が得られたと言えるし,これを契機にさらに地域でコラボレーションを進めたいという方も増えるかもしれない。商店街でもさまざまな施策を打たれているが,こうしたアプローチも十分にありではないだろうか。

この2日間,現地にいながら思ったのは,まだまだこうした取り組みには可能性があるということ。先に訪問した天草では民間が起点になって商店街で毎月1回大きなイベントを開催している。

天草市本渡で行われている「まちはみんなの遊園地」

ここでは地元高校もボランティアという形で参加しており,地域の子どもたちが楽しみにしているイベントが行われているそうだ。飯塚高校は近年サッカーや野球が全国レベルになっているのみならず,先に紹介したように製菓コースが全国制覇を成し遂げたり,さまざまなコンテンツを実は有している。こうした資源を有効活用していけば,こうした取り組みはできないことはないだろう。私の悪い癖で先生方に焚き付けてしまったのだが,今度の文化祭はもしかしたらこれに近い景色が目の前で繰り広げられることになるかもしれない。

そう、11/26-27は商店街が高校生でごった返すことになるかもしれない。こんな景色、21世紀にお目にかかることないかも。ぜひ皆さん、来月末は飯塚へ。

こうした取り組みを行っていく中で,高校生たちが社会とのつながりを得ていくことになるかもしれない。今回,この「商い場」を見ていて最も印象的だったのは教室で見せるそれとは違う,彼・彼女たちの笑顔だった。教室では大学生との関係性を見ていてもどことなくぎこちない感じだったが,昨日・今日の様子を見ていると,ちょっと年上のお兄さん,お姉さん(大学生)と一緒に楽しみながらお店を出している感じ。1つのプロジェクトに一緒に取り組むことでグッと距離が縮まったような印象を受けた。やはり,日田や壱岐で見てきた景色だ。

ただ,この経験を「楽しかった」「面白かった」で終わらせてはならない。高校生たちはこれから修学旅行や文化祭に向けた準備に勤しむことになるが,やはりふりかえりは必須。そこでしっかりと今回の経験を言葉にしておくことが重要。今日,閉店後に全体ふりかえりを行ったが,まだまだふりかえりの深度が十分ではない。今日のところはこれでOKとしても,このあとこの経験を言葉にして他者に伝えることを通じて,自分なりの学びがどう得られたのかを説明できるようになることを期待。そのためには大学生がいかに介在するかも重要。出店でおしまいではなくて,ここからがこのプログラムの肝となる。

自分は一体誰なのか。ナニモノなのか。どうしたいのか。

前回の授業でも述べたように,今回の授業が自分の未来を自分で形作る第一歩になることを期待したい。

とりあえずはお疲れさまでした。見ていてこちらも楽しかった。また11月も楽しみにしています。

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