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地域に「かっこいい商売」をつくる、TANEMAKIをする|飯塚市商店街でのチャレンジ

アントレプレナーシップをいかに伝えていくか。

アントレプレナーシップは起業家精神と訳されるけど,それが発揮される場面は「起業」に限らない。繰り返すが,アントレプレナーシップとは,下の記事にも示されているように「コントロール可能な資源を超越して機会を追求すること」である。

これを学生や高校生には「一歩踏み出す勇気」だと言い換えている。彼らが持ちうる資源はそもそも限られているし,見えている視野も広いわけではない。視点が面白かったりはするけれども,ポジティブにもネガティブにも影響する。

だからなかなか難しいのだけれども,この10年シンプルにやり続けているのは理屈の前に経験,商売をすることに興味を持ってもらうことだった。創業体験プログラムに代表されるゼミのプログラムは,商学部であるにも関わらず,事業の経験がないゆえに理屈だけでは講義内容が十分に理解できないだろうという観点から始めたもの。それこそポジティブなことばかりではないけれども,一定の教育効果はあるように思う。

そして,現在のコロナ禍で学園祭が中止になりながらも,プログラムを続けていられるのは,学内ではできないことを学外でできる機会を求めているからこそ。ある程度リスクを取りつつ、防げるリスクは防ぎながら外で活動することでまた異なる視点が導入され,私自身も多くの学びを得ている。2022年のはじめに書いた教育カリキュラムが次の記事に残している。

さて,だいぶ前置きが長くなったが,今回はそうした中で話がトントン拍子で進んだ福岡県飯塚市でのプロジェクトについて書いていきたい。

「そんなことできるの?」からのスタート

飯塚でのプロジェクトはひょんなことから始まった。

昨年末,当時知り合ったばかりのきむ兄(木村公洋さん)から,「飯塚に面白いことをやっている人がいる。しかも,九州移住ドラフトの球団なんだけど」と言われて,私も「わかった!すぐに会いたい!」と返事をし,トントン拍子に話が進んだ。きむ兄の人となりは下記の記事を参照のこと。

そして,年の瀬押し迫る12月末に飯塚で古くから続く書店である元野木書店を営む元野木正比古さんをご紹介頂いた。

元野木さんは,書店主を務めながら,まちづくり会社である「スキマニヤモリ」という会社を立ち上げ,飯塚市中心部の商店街の活性化,空き家・空き店舗の利用・活用を推進するためのワークショップなどを開催されていた。今回,そこで起爆剤となりうる人材を確保するために九州移住ドラフトに参加されたという話。

元野木さんの活動についてはこちらの記事を参照ください。

ゼミの活動紹介

そこではゼミの取り組みについて話をして,商店街を舞台に何かできるかもしれませんねと。それこそ,創業体験プログラムや日田中心に活動しているPOP UP CAFE"BESIDE"の取り組み,さらには学生が自主的に実施した長崎県島原市でのSPINNSとのコラボ出店などを紹介した。

正直,あれもこれもと提案をしたけれども,これまでさまざまなトライをされてきた元野木さんからすれば「そんなことできるの?」って感じだったのかもしれない。

が,あれよあれよと1月中旬に行われた九州移住ドラフトの指名会議では,1位にゼミ2年生を,2位にきむ兄(3位は東京の大学生)を指名して,こうした話に加速が付き始めたのでした。

店舗候補の内覧から出店期日の決定まで:爆速の本領発揮

それからすぐ,ともに活動している仲間に声をかけてSPINNSの出店ができないかと相談。1位に指名されたゼミ生はそもそも島原での活動をしていたこともあるし,同様に商店街での出店でもあったことから,「これでいきましょう」と。ミーティングには市役所,商工会議所の担当者も加わって,あっという間にストーリーができあがる。

ちょうど福岡県にまん防が発令されるタイミングで厳しいけれども,このタイミングを逃すと何もできなくなる可能性があったのも背中を押すことになり,2/11-13の3連休を使ってSPINNS POPUP SHOPのオープンを決定した。

商店街の中心地にある空き店舗が舞台に

ここでも佐賀県武雄市や島原での経験が生かされることに。特に武雄では,路面店を借り,週に数日だけ地元の若者が店を明け,時に働き方ワークショップを開催したり,地域住民とのコミュニケーションを取れる場作りを進めようとしている。

このプロジェクトを主導しているみやぽよさんはこうした活動をTANEMAKI(種蒔き)と呼んで、地域にアパレルを通じた商いとそこで生まれる若者文化を創ろうとしている。まさにアントレプレナーだ。

すでにそうしたノウハウを持ち合わせていることもあり,(ここまで来ると)飯塚の皆さんもきっと安心して任せて頂けるとなったのでしょう。ここからはあらゆることが爆速で進むことになった。店舗やチラシは商工会議所のサポートを頂きながら,出店までの3週間の準備を進めることに。

商店街と大学生のコラボレーションを取材する新聞各紙のみなさん

このプロジェクトの肝は,地元の若い人に服を購入してもらうことではなく,働く場を生み出すことにある。各地で取り組んでいる「大学生を高校生のロールモデルとすることで,高校生に自分の近い未来像を想像してもらう」,「はたらくって楽しい」,「自分で商売するのも良いかもしれないな」と考えてもらうキッカケづくりを進めている。

しかし,ついに「まん防」が発令されてしまう。しかも,高校は期末試験のタイミング。大学生は春休みに入っていることもあるけれども,なかなか数が読めない。しかも,今回のオミクロン株は若い世代に蔓延していて,高校でも厳しい感染対策が施されていたと聞いていた。ついでに、この活動を好意的に捉えてくださっていた学校も「期末テストの時期でもあるからと…」と。

もしかしたら,当日の集客も厳しいかもと。

が,今回のプロジェクトリーダーを務めているドラ1は諦めない。繰り返し,飯塚を訪問し,商店街を訪ね歩き,感染に留意をしながらも店舗運営を行い,周辺のお店にも利益をもたらすようなアイデアを提案してくれたそうだ。

地元紙の電子版より

こうして,元野木さんとの出会いから2ヶ月足らずで出店まで漕ぎ着けた。イベントに向けて無事新聞(3紙がタイミングをズラして)にも記事が掲載され,当日を迎えることになりました。

商店街の期待がひしひしと

それから少し時間が経過し,出店2日前に別件での打ち合わせを兼ねて現地を訪問した。

元野木さんから簡単なブリーフィングがあり,商店街の多くの方が今回の出店に期待を寄せてくださっていること,新聞記事が出てからはご協力頂いている飯塚商工会議所だけでなく,地元選出の県議会議員,市役所,商店街に来られているお客様などからも,問い合わせがあったりしていたそうだ。

出店場所には目立つ形でポスターを
近隣のお店もポスターを掲示してくださいました(その1)
近隣のお店もポスターを掲示してくださいました(その2)
近隣のお店もポスターを掲示してくださいました(その3)

商店街を歩けばそこここにポスターが貼ってある。お店にはチラシが置かれていて,いよいよという雰囲気で当時を迎えることになった。

出店初日はオープン時点から大盛況

オープン初日。2/11はドラ1ゼミ生が中心に集めた学生が店舗に立つことになった。

朝のミーティングの様子(きむ兄提供)

私は家族とともにオープンの12時少し過ぎに現地に到着。すると,その場所に人だかりができていた。これまで数度この商店街を訪問したけれども,これだけの人が1つのお店に集まっているのを見たことがなかった(失礼!が,事実)。商店街を歩く人がみな同じ袋を持っている。これまでの訪問では見たことがない,明らかに若い人たち。そう,みんなSPINNSに来てくれていたのだ。

ドラ1ゼミ生(右)とドラ2きむ兄のコンビ

波が時折あるものの,人が出ては入り,さまざまな人たちが吸い寄せられていく。そもそものターゲットの高校生,大学生という若者世代はもちろん,普段商店街に来ているお年寄り,新聞記事を読んだよといって来られる方,そして小さなお子さんを連れて洋服を見に来た若いお母さんと,それぞれがそれぞれの目的でご来店されていた。

余裕ができたタイミングでパシャリ

元野木さんはじめ,商店街の皆さんや商工会議所,市役所の職員さんも「普段歩いている人と客層が全然違う,こんなに歩いていない」というようなことを言われていた。また,普段はさまざまなイベントを組み合わせてなんとか集客をされているけれども,単独の出店でこれだけの人が来るのは素晴らしいとのお話をされていた。

ちょっとしたコンテンツと,それを仕掛ける組み合わせの妙(商店街×学生×アパレルショップ×商工会議所),そしてマスコミやSNSの発信力がうまく噛み合って初日は大盛況のうちに営業が終了したそう。

今回参加したゼミ生から話を聞いたところでは,売上もそこそこの金額に達したようで,明日と明後日の営業に大きな期待。

ちなみに飯塚には大学が2つあり、やはり地域貢献でさまざまな活動をされているそう。商店街の中では「なんでこの大学なん?どうつながったの?」というような声もあったそうで、少し違う角度から違うプレイヤーが入ることでの活性化に貢献できると嬉しい。活性化というのは、何か店を作ったり、イベントをしたりというのではなく、ヒトの動きを作ること。まさにそれを実感した。

出店してみての気づき:ふりかえり

あと2日あるのでふりかえりをするのはおかしな話だが,今日実際に半日滞在してみて感じたこと,思ったことを最後にまとめておく。

今回はPOPUPだからこそ集客がしやすかった部分もあっただろう。これが常設になると「当たり前に」なってしまって,どこまで継続可能になるかという問題。固定費もそれなりにかかることを考えれば,このプロジェクト単体だけで成り立つかどうかは要検討。

過去の経験則からターゲットを主に高校生に絞っていたが,近くに保育園があることもあって子育て世代のお母さんのニーズが大きい。加えて,キッズを置くと良さそう。商店街内には子ども服店はない。オシャレとか,かわいいとか,心に引っかかる何かがあれば,顧客は行動する。

以前,このnoteでも紹介したが,子どもが小さかった頃は買い物に一緒に来ていた親世代が,今回のイベントでは逆に子どもに誘われて商店街に来たことを喜んでいたという話を聞いた。まさに今回もそうで,多くの親子連れが来られていた。同行していた妻氏も「息子氏(22)とキャッキャ言いながら服見るとか楽しそう」と言い,(自分が財布になるのをわかっていながらも)自分の子と出かけるのは楽しいよなと納得。そもそも私だって娘氏とのお出かけは楽しいし,ついつい買わんでも良いものを買ってしまうことがある(笑)。

ドラ1学生の発案で,今回洋服を購入したお客様には周辺店舗で使える100円割引券を配布した。これがかなり功を奏していて,結構周りのお店でお買い物をされた方が多かったとのこと。うまい周りの巻き込み方だし,単に自分たちが儲けるだけでなく,周りにも波及効果が出た良いアイデア。こういう視点を持てるってのは素晴らしい。

ということで,創業体験プログラムよろしく,出店してみるといろいろと気づくことがあるものです。いつも同じように仕事をしていると持ちづらい感覚。PDCAではない。小さくても志を達成するために未来をいかに自分の手で構築するか

スタートアップのような世の中を変えてしまうようなイノベーションではないかもしれないけど,街の中心から消えてしまった「かっこいい商売」を生み出していくという取り組みは,温かみのある良いものだなと改めて感じた次第。

明日は残念ながら訪問できませんが,成功を祈ります。若い人のみなぎるエネルギーに期待。

TANEMAKIをして大輪の花を咲かせましょう!

【最後に告知ですんませんm(_ _)m】
記事で紹介したみやぽよさんは、こうした活動を全国で機動的に行えるように「アパレルカー」を作ろうとされています。現在、クラウドファンディングを進めてますので、「我が街にもSPINNS呼びたい!」という方は、お誘い合わせの上、ご支援ください!

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