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経営の第一歩は未来の構想にあり|2022飯塚高校×とびゼミコラボ授業⑤

今日(10/17)は飯塚高校トータルライセンスコースの1-2年生向けの高大連携授業でした。

2年生は今週末(10/22-23)に行う飯塚市中心部のほんまち商店街での販売体験に向けての授業で5回のプログラム最終回。1年生は11月末の文化祭で行う模擬店出店に向けて第4回の授業でした。

特に2年生向けの商店街での出店には「飯塚高校×福岡大学 飯福商店 商い場」という名称がつけられており、高校生と地元商店がコラボして出店を行います。具体的には、商店街で出店されている元野木書店さん、カフェつむぎさん、和雑貨を扱う紅椿さんの3店舗、そして2月以来商店街での出店を続けるSPINNS、さらには商店街からは少し離れていますが、地元のみならず、最近福岡県内でテレビでも取り上げられるようになったカカオ研究所さんの5店舗のご協力を得て出店します。

出店にあたってはそれぞれの店舗で趣向を凝らした商品をご提供頂き、商店街中心部の「ヲソラホンマチ」という広場で生徒が販売します。

ポスターは学生が作ってくれました!

今回は書籍や雑貨というこれまで扱ったことがない商材も取り扱うことになっており、どんな実践になるのか、今から楽しみです。ぜひお近くの方は足をお運びください。宜しくお願いします。

ということで、いよいよ販売実践が近づいてきた高校生たちに対して大学生はどんな授業を行ったのでしょうか。その様子を覗いてみましょう。

なお、これまでの授業については下記のリンクをご参照ください。

1年生は第4回授業:付加価値最大化のためのマーケティングとオペレーション

まずは1年生。どこの高校でも第4回目の授業は「利益」であったり,「付加価値」について話すことが多い。経営の成果を貨幣的価値を用いて測定する意義を学習する機会として。ここで高校生が学習している簿記が企業経営の中でどんな意味を持っているのかを理解してもらおうという流れ。それに倣って,ここでも第4回のテーマは「付加価値」を取り上げた。

1年生の授業の担当はSくん

なぜ付加価値が必要かと言うと,企業の存続のために利益が必要だということ,インプットからアウトプットの差額をできるだけ大きくすることで利害関係者への分配(給料や配当)を大きくできる可能性があることを明確に伝える。ここは私が担当する講義(経営分析論や意思決定会計論)やゼミでもしつこく繰り返し伝えているところなので,4年生は外してこない。

今日の1コマ目のテーマは付加価値

さらに、ここに前回までの授業で話した戦略論=差別化戦略とコストリーダーシップ戦略を組み合わせて理解させようと,グループワークに突入。今回のグループワークは高校生にも馴染みがあるだろうハンバーガーチェーンということで,モスバーガーとマクドナルドがどのような戦略を講じているのかを分析してみることになった。

ケーススタディはハンバーガーチェーンの付加価値創造

原価がよく分かっていないので,ここでは価格・粗利だけに限らないさまざまな視点から両社の相違点を検証していこうと工夫を凝らしている。タブレットやPCを使った調べ学習も高校生たちは当たり前にこなしていく。

タブレットを使って比較分析

こうして身近な企業でも比較をしていくといろいろな違いが見えてくる。モスに行くと◯◯,マクドナルドに行くと△△と,実のところ自分たちも使い分けをしていることに気付かされる。だから,店舗の作りがこうなっていて,メニューがあって,価格が決まっていくのだということを学んでいく。高校の教育課程では学習しないであろう実践的な学びを重ねていく。ここまでで1コマ目終了。

2コマ目は付加価値創造を受けてマーケティング戦略とオペレーションの重要性について。座席も11月末の模擬店出店のグループに分かれて着席。クラスの30人が射的班,ヨーヨー釣り班,ワッフル班と3つのグループに分かれたのは良いのだが,前の2店舗が男子生徒,後の1店舗が女子生徒だけによる構成となっており,このあたりも思春期特有の難しさを感じさせる…。

2コマ目はマーケティング戦略についての授業

ここではジブンゴトに引きつけて考えられるようにと,文化祭の模擬店を用いたマーケティング戦略の分析。セグメンテーション,ターゲッティング,ポジショニングと差別化(STP+D)の話をするのかと思いきや,ここではもう少しざっくりと4Pと4Cに近い話で自分たちの店舗にどんなお客様にご来店頂きたいのかを考える時間に。

ただ,こういう時に高校生が考えてしまいがちなのは,①できるだけ安くする,②割引券を使って割安感の演出。これはどこの地域でも同じ。きっと大学生も同じ。自分たちが売ろうと思っている製品やサービスを安く売るという発想が付加価値創造という話には必ずしもつながらないということがまだ十分に理解できていない印象か。

続いて,2コマ目後半はオペレーションについて。ゼミで行う創業体験プログラムでは3日間20時間弱の営業で1,000食をターゲットにした販売を行う。時間帯によっては1時間60食を超えるオペレーションを必要とする場合がある。だから,ちょうどこの時期に学生に対してオペレーションの重要性をうるさいほど説く。ボトルネックがどこにあるのか,1時間の最大生産数量を引き上げるためにどんな工夫が必要なのか,ムダはどこに生じるのかといった論点を模擬店を使って学習できるようにする。

そしてオペレーションについての授業も試みる

その印象が強いからか,ここでも学生たちはYoutubeを用いて製造現場に潜む「ムダ」という概念を高校生に伝えようとする。今から30年ほど前のVTRだろうか。研修用に作られたと思われるVTRを見つけてきて,高校生に見せる。

「ムダ」っていう概念は高校生に理解できたのだろうか。

これを見て高校生は何かに気づいたのだろうか。先の付加価値の話と踏まえて考えた時に(恐らく直感的に)この商品・サービスではダメだろうと気づいたのだろうか。学生から「今までの授業を踏まえて商品買えたいって人いる?」と聞くと,何人かから手が挙がった。特に,明らかに利益率(付加価値率)が小さくなるであろうある店舗を中心に手が挙がったというのは授業の意図が伝わったと言っても良いのではなかろうか。

付加価値の最大化のための①マーケティングと②オペレーションってわかっとるやないか!

こうして今回の授業では,付加価値創造のための方策として①売価を高めるためのマーケティング戦略と②生産効率を高めることで原価低減を図ろうとするオペレーションの構築という2つの話をした。これ,高校1年生にする内容じゃないよね(笑)。が,今回の授業を構成した4年生は前日も深夜まで「1年生理解できるかなぁ」「これ難しくないかなぁ」「よい動画無いかなぁ」とあれこれと試行錯誤していたそうだ。

一見難しくて面倒くさいだろうことにしっかりとチャレンジしてくれる学生がいることが喜ばしい。本当いつものことながら感謝である。

2年生は本日最終回:これまでの復習と週末の出店に向けた計画策定

続いて2年生の授業は最終回。いよいよ今週末(10/22-23)に迫った「飯福商店商い場」に向けた最終準備。そこで授業もこれまでの総復習と,自分たちが扱う商材をベースにした利益(販売)計画の策定が今回の授業のテーマ。

2年生は今回が最終回

これまでもアントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス,損益分岐点分析(付加価値分析),戦略論,マネジメント・コントロール・システム(Management Control System)と多岐にわたる内容について授業をしてきたが,ここでこうした知識を活用して店舗運営をしてもらおうと気合いの入った授業が進んでいく。

これまでの授業内容のふりかえり①

スクリーンで授業を進めていては全体像が捉えきれないと,これまでの授業内容の関係性を板書で説明する。これまた日頃ゼミの中で繰り返し説明してきていることではあるけれども,いざこれを学生が説明するとなると感慨深いものがある。

これまでの授業内容のふりかえり②

果たしてこれで高校生が全5回の授業の全体像を掴みきれたかどうかはわからない。だからこそ実践をこのプログラムには必ず入れているわけで,実践機会のあとのふりかえりですべてを回収するカリキュラム構成になっている。しかし,この飯塚高校でのプログラムではスケジュールの都合上5回の授業を先に実施し,実践機会を得たあとにオンラインでのふりかえりを行うことにした。対面での授業は今日が最後。

今週末の出店に向けた打ち合わせ①

2コマ目は各店舗に分かれて出店に向けた計画策定を実施。

先に述べたように,今回はこれまでのカフェや洋服店に加えて書店,雑貨店,チョコレート店,コーヒー豆や飯塚高校製菓部(全国制覇おめでとうございます!)といったバラエティに富んだ商品を取り揃えていることもあって,取引関係上すでに利益が確定しているようなものある。そこで擬似的に出店料や給料を決めて店舗を出すことにして,自分たちが売る商品をどれだけ数量を売らなければならないのかを算出してみることにした。

学生が作ってきたスプレッドシート(損益分岐点分析)を使ってシミュレーション

この様子を見ていた先生方からも「出店が近づいてきて,実際に店舗で話を伺ったりしていく中で,生徒が次第にやる気に満ちているのを感じます」というお言葉があったりもした。ほんと信じられないほど単純なように見えるのだけれども,ちょっとした機会の作り方,手間のかけ方で高校生の動きは変わっていく。大学生曰く,まだクラス内での温度差を感じるそうだが,それでもこの授業を通じて1人でも2人でも自分たちで何かをやってみたいと思ってもらえれば御の字なのだ。

ワークシートを使って店舗全体の売上を計画する

こうしているうちにチャイムが鳴ってしまって授業が終了。これで2022年度の2年生向け授業が終了した。クラスリーダーを務めてくれたKくんから挨拶ののちに,私からも一言だけお話をさせてもらった。

「今回のこの機会はたくさんの人の協力があって成り立っている。そこでみんなが販売をするわけだけど,失敗するよりは成功したいよね。だったら,ここから当日までできることを考えてみよう。そして,行動してみよう。みんなが1人でも2人でも声をかけてくれれば,多くのお客さんが来て盛り上がる。やるかやらないかはみんなのちょっとした行動次第。だから,行動して成功させよう!」(意訳)

実際はもっと長く喋っていたのだろうけど,日田,壱岐と活動してきて気づくことは,最後は高校生がどれだけこの機会をジブンゴトとして捉えて行動できるかにかかってるということ。元々閉店している店舗が多い日曜日にわざわざ営業しようというのだから,お客様が来なければテンションは下がる一方だろう。それを盛り返せるのも自分たち次第。少しでも多くのお客様に来て頂けるとよいのだが。

そんなことを考えつつ,2年生向けの授業の全5回が終了した。

ふりかえり:数値で考える,未来を考えるという抽象度の高い思考を行う

さて,授業後のふりかえり。

もうベテランの域に達している4年生だけにふりかえりの密度もかなり濃い。その一方で,果たして授業の内容を理解できているのかどうか,これをもって店舗運営ができるのかという不安もあるようだ。が,自分たちがそうであったように,授業を聞いてパッと経営ができるのであれば苦労はしない。私が学生に対して抱く感情を,学生が高校生に抱いているような感じを受けて笑いそうになってしまった。

そんな学生たちの様子を見ながら,改めて経営の難しさと楽しさを感じた。著書でも記したように,人が関わっている以上,立場に応じて見えている世界は異なるし,それぞれの概念モデルは異なる。そのズレを意識しているからこそ経営者は組織成員に対して経営理念や予算管理,目標管理などのマネジメントの仕組みを使って方向づけ(アフォーダンス)しようとしている。そこには雇用=被雇用という契約関係と働く個人の自己実現と結びついた目的・目標という未来のありたい姿が示されている。

先日亡くなった京セラ創業者の稲盛和夫氏が「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」と京セラフィロソフィで述べていたが,授業で伝えているのは,個人にできることを基礎に組織的に成果を実現することもそうだが,それは自分たちが今を起点にありたい未来の姿を構想することでもある。大なり小なり生きていくためにはありたい未来の姿が見えていた方が指針としてわかりやすいだろうし,それは会社経営でも個人にとっても同じことなのかもしれない。

コンサルタントが追い求める『わかりやすさ』とは,こうして固有の難題の闇にいる目の前のクライアントが,『確かなものがない中でどう考え行動するのがよいか』を自ら『わかる』ための『わかりやすさ』である。それは誰にでもわかる『わかりやすさ』とはまったく異質のものであり,あえて言えば,それはわかる人にしかわからない『わかりやすさ』だといえよう。
石井光太郎『会社という迷宮 経営者の眠れぬ夜のために』ダイヤモンド社

正直,今回の授業で伝えてきたことがすべて高校生に伝わっていると思わないし,実践を経て,ふりかえりを行ったとしても十分には理解できないであろう。むしろわからないくらいでちょうどよい。だって,数値で考える,未来を考えると言われても,それはまだ彼・彼女たちにとってリアリティがないことだし,極めて抽象的でわかりにくいことだから。わかっているのは,こうした試行錯誤を経た中で何かを実現しようとする体験をすることがきっと彼・彼女たちにとって貴重な経験になるだろうということだけ。

うまくいく,いかないに限らず,当日は持てる力を出し切って,自分たちの力で結果を勝ち取れるといいですね。私も当日は現地に向かいます。

雑談:学会報告を受けて

昨日(10/16),姫路で開催された日本会計教育学会において,この取り組みについて報告を行ってきました。そこでふと聞かれたことが頭に残って離れません。

なんでそこまでやるの?

そうなんです。なんでここまでこだわってやってるんでしょうか。もっと楽に過ごすことができるのに(笑)。自分の中ではある程度結論めいたものが見えているのですが,それを言葉にしてしまうと自分を見失いそうになるので書きません。今は,こうした教育手法が高校生の自己効力感や統制の所在にポジティブに影響すること,学習意欲を高めることにつながっていること,学校を社会にもっと拓く方法論を提示すること,教育カリキュラムを標準化して多くの学校に導入されるようなものにすること,大学生が高校生とともに何かを創り出すこと=共創できる環境を作ること,何を示したいのかを挙げればキリがありません。

どこに行っても取るに足らない立場であり,ずっと周縁を生きているから,今の立場に置かれることに不思議はありません。無茶苦茶に見えるかもしれないけど,着実に成果が出ているわけで,やると決めたからやる。少なくともあと1年半はやる。今はそこに注力したいのですね。その先にきっと何かが見えてくるだろうと思っているので。愚直にやるだけ。が,不安ですよ。いつも心で泣いてます。

ある先生が「スーパーマン」と僕のことを評してくださいましたが,全くそんな存在ではありません。取るに足らない,誰にでもできることを,やりたいと思ったからやっているだけのことなんですよね。その先にありたい未来が実現できると思っていたりしています。

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