大学生が高校生を教える形を取りながら、実は大学生が最も学んでいる|2024ひとよし球磨起業体験プログラム④&出雲高校生チャレンジ
今日は気づけば8月末日。台風10号,えらいことになりましたね。
私自身は8/26-28に日本会計研究学会に参加するため,東京にいました。刻一刻と台風の行き先が変わるので福岡へ戻れないことを覚悟しましたが,結局学会報告後,予約便を早めて帰ることができました。ただ,翌日の行政関係の会議,8/30-31に予定していた名古屋出張はキャンセル。よって久しぶりに福岡でゆっくりしていますが,台風の気圧のせいか,心が曇りっぱなしです(笑)。
が,こういう時こそ積み重なっていた事務仕事や,先日の学会報告の振り返りをしておくことが大事。高大連携アントレプレナーシップ教育プログラム『スプラウト』も全く同じ。
東京出張の前には,8/20-24の4泊5日で天草・苓北と霧島・横川でゼミ合宿に行ってきました。当ゼミでは長らく「創業体験プログラム」と呼ぶ,学園祭の模擬店を擬似会社に見立てて,学生が会社経営を実践的に学ぶ取り組みをしていますが,2020年以来,その場で地域から農作物や商品を仕入れて,場合によっては加工して販売するという取り組みをしています。そして,夏のゼミ合宿は各学年に与えたテーマ(地域)にしたがって,その場所を訪問し,商材探しをすることにしています。
特に,後半の霧島・横川はゼミ3年生の合宿地であること,今年度からゼミ全体の取り組みとして『スプラウト』に取り組むことにしたため,ひとよし球磨起業体験プログラムの第4回授業に3年生全員で訪問し,授業の雰囲気を知ってもらう機会にもしました。
さらに,この秋から大分,宮崎との合同で鹿児島純心女子高校でも同じ取り組みを行うため,鹿児島での現地サポートを合同会社hataoriが行うプログラムmokumokuのメンバーに霧島に来て頂いて,打ち合わせと顔合わせを行いました。mokumokuの皆さん、本当にありがとう!
また、霧島・横川には,かつてゼミに所属したOBがこの春から移住し,彼の夢だった古着店がオープンしましたた。その様子はメディアに取り上げられるなど,彼のキャラクターと相まって,すでに現地に溶け込み、良きメンターと出会って、基盤を構築したようです。
さらに,合宿から戻った翌日25日には島根・出雲へ飛ぶことに。今年度からJR出雲市駅からほど近い商店街「サンロードなかまち」で始まる『出雲市高校生チャレンジ』の一環で,高校生が行う模擬店出店準備に向けた講義を大学生にやって欲しいとのご依頼を頂いたのため。特にゼミ3年生には体力的にも精神的にもしんどい日程になっていることを申し訳なく思うが,よく頑張った。
こうして前置きが長くなりましたが、今回は8/24に開催した「ひとよし球磨起業体験プログラム」の第4回授業と8/25に開催した「出雲市高校生チャレンジ」での講義の模様をお伝えします。ぜひご一読ください。
8月24日:高校生が持つ力を本当に引き出せているのか?|2024ひとよし球磨起業体験プログラム
この日の午前中は今回お世話になったゼミOBが学生を連れて霧島・横川周辺の案内をしてくれた。いかにこの街がかつて栄え,多くの人の営みがあり,ここに至る経緯を含めていろいろと話を聞き、学生は何を学んだのだろうか。そして,各自で人吉市へ移動。霧島市でも北部の横川から人吉までは高速で40分程度。ランチを取って,13時に現地集合。
授業は13時半からスタート。今回はプログラムに参加している学生の半数の出席。テーマは損益分岐点分析と経営計画の策定。教える側の大学生の理解が問われる内容。9/7に予定されている事業計画発表会で高校生が社会人投資家に向けてプレゼンをする。そこで高校生が自信を持ってプレゼンできるように導くのが大学生の役割。果たしてここに来ている何人がそれを理解して授業に向き合っているだろうか。
加えて今回の授業は高校生に加えて,ゼミの同期,鹿児島からmokumokuのメンバーも参加している。彼らも全く初めてでプログラムの雰囲気がどんななのかを学ぶために来ているのだが、その目で何を見てくれたんだろうか。普段とは環境が全く異なる中で,合宿中に創業体験プログラム,合宿そのものの準備等で今回講義を担当していた学生は疲弊していただろう。その中でも良く頑張った。
損益分岐点分析自体は今回参加してくれている高校生にはそれほど難しいものではない。考え方は自体は1次関数であるから,収益と総費用が一致すればプラマイゼロだし,それ以上に販売個数を伸ばせば利益が出るというのは考え方としてシンプルだからだ。むしろ高校生の方が理解しやすいだろう。
問題はこれを自分たちの事業に落とし込むとなったら,どこまで使いこなせるか。さらに,悩んでいる高校生に対して,大学生がどこまでサポートし切れるかだ。マルシェの開催まで1ヶ月を切ったところで,まだ商品も確定していなければ,イベントの詳細も決まらない。焦りは募る。
今回メンターをしてもらっているゼミOBによれば,「大学生よりも高校生が焦っている」「大学生のミーティングは常にアイスブレイクで,決めなきゃいけないことが決まらない」だから,「僕が介入せざるを得ません」と事前に伝えられていた。授業時間も3時間だが,ヌルっと始まって,ヌルっと進んでいくため,空気が澱む。高校生もどう反応してよいかわからないし,前に進んでいる感がない。恐らく,授業担当の学生ももどかしかったに違いない。
もうここを逃したら前に進まない。学生や高校生が萎縮するかもしれないが,何かをブレイクしなければいけない。一言,私から学生に向けて話をした。
それを受けて少しずつ話が進み始める。ただ,損益分岐点分析をうまく使い切れない。数式に費用を当てはめていくけれども,当の高校生がピンと来ていない。イベントを行うためにどれだけ費用が必要なのか,何が必要なのか,どう準備すればよいのかについてのノウハウは大学生が持っているのだから,ここでサポートをして欲しいのだけれども…。
当初目標はここで事業計画の形が見えてくれば良いと思っていた。しかし,そこまでは進まない。ただ,2つのチームのそれぞれの高校生はよく考えてくれて,①今日のミーティングでわかったこと,②すぐに解決しなければ行けない課題の2つを抽出してくれた。
高校生たちは初めて損益分岐点分析なるものを扱ったであろうが,基本的な関数の取り扱いができているだけに,あとは固定費と変動費の区分,必要な費用の算出,売価の決定さえできれば前に進む。
時間は限られているが,高校生のポテンシャルを強く感じる時間になった。と同時に,大学生への課題も見えた。さらに,鹿児島から来たmokumokuの学生たちも何かインスピレーションを感じ取った時間になったようだ。
それぞれに何かを得て,それぞれに課題を感じて,それぞれに希望を見た。
その場は苦しいことが多々あったが,あとから振り返った時にこの場がターニングポイントになったと言えると良いのだが。それは自分たちで作っていくのだから,うまく進められるようにしていきたい。
8月25日:プログラムの意義が理解できた?|2024出雲市高校生チャレンジ
翌25日。朝6:30に福岡空港に集合し,7:15のフライトで出雲へ向かう。出発直前に雷雨のため,出雲空港に着陸できない場合は引き返すという報を受けつつ,飛行機は飛び立った。
約1時間の移動。8時半には出雲空港に到着。商店街の担当者が迎えに来てくださり,一路今回の会場である市役所に向かう。授業開始まで1時間半ほど時間があったので,打ち合わせをしつつ,準備時間が十分でないことから学生同士でミーティングや担当する生徒が作ったビジネスプランに目を通す。
プログラムは高校生の集合が早かったので予定の11時を少し早めてスタート。まずは私からの講座。いつもどおり,地域で付加価値を生み出す事業を創り出すこと,それはそこで生まれ育ったあなただからできることかもしれないという話からスタート。高校生にとっては難しかっただろうが,エッセンスだけでも伝われば十分。授業後,後ろで聞いておられた商店街の皆さんには刺さった内容のよう。
昼食後,今回の舞台となる「サンロードなかまち」を散策する時間に。高校生はほとんど足を運んだことがないであろう場所。しかもこの日は日曜日ということもあり,周辺の店舗はほとんど休んでいる。いわゆる「シャッター商店街」になっている状態。
商店街の担当者からは「高校生の出店場所はここだよ」「このお店には◎◎の設備があるよ」と説明が行われる。高校生は写真を撮ったり,位置を確認したり,大学生と話をしながら商店街を歩く。特に,3月に出雲商業高校の生徒会が実施した「給食カフェ」は大きな反響があったことから,そのイメージで自分たちも出店を考えたという生徒もいた(当日私も足を運んだのにその記録がない。あとでFacebookに書いた記事をこちらにアップし直そう)(記事を書き足しました:2024/9/1)。
その会場になった「発酵文化研究所」には「お母さんと来たことがあります」「給食カフェで来ました」という高校生もいたり。高校生と大人は行動する範囲や好みが異なるから交わる機会が少ないのは致し方ないとして,こうしたお店を見て高校生は何を感じたのだろうか。
そうして14時からは学生による授業がスタート。今回は,主力メンバーの3年生3人,一昨年のプロジェクトリーダーの4年生1人,そしてゼミに入ったばかりの2年生1人という構成。特に2年生は出雲出身であり,ゼミ面談期間中にこのプログラムの話が進むか進まないかという段階で,この話に関心を持ってくれた。おまけに,出雲側の担当をされている先生は当該学生の妹さんの担任という縁,縁,縁。ほんと出雲の縁結びパワーを感じさせる。
授業は3年生のリーダー中心に,今回参加した5つのプロジェクトチームの高校生に学生が1人ずつ担当するという形に。3時間の授業のうち,2時間を講義,1時間をグループワークとして,ビジネスを行うための基本的な知識のインプットとここまで考えてきたアイデアのブラッシュアップを行った。
今回のプログラムには,これまで学生にも高校生にも使ってこなかったワークシートを新たに3種類用意した。
これを高校生がゼロから作ることはできないので,提出された申請書をChatGPTにかけて3つのワークシートを仮に作成し,私のコメントを付して高校生の事前課題にしていた。
しかし,こうしたアイデアを作る時に陥ってしまう問題がチラホラ見えた。例えば,普段は顧客目線で商品・サービスを選択しているのに,販売する側になると「自分が何をしたいのか(を優先する)」「どこかその辺にある課題らしきものをピックアップ」してしまう。本当に顧客が望んでいるものなのか,潜在的に望んでいるのだとしたら,どうして望んでいると言えるのかを説明できるようにしようという目的でこうしたワークシートを導入した。
実は,これらのシートを導入したのは3年生向けのこの夏の課題図書にこうした考え方が含まれているからで,彼・彼女たちが取り組んでいるプロジェクトをより精緻化するための手助けになるというメッセージでもあった(笑)。
そうこうして17時に授業が終了。学生たち,特に3年生は疲れがある中,よく頑張りました。お疲れさまでした。
その後,ホテルにチェックイン後,「発酵文化研究所」で行われた懇親会(直会)に参加。会場には今回関わってくださった商店街の皆さんがお集まりくださり,大学生と商店街店主の語りは盛り上がりに盛り上がった。特に商店街内にある酒造メーカー「旭日酒造」さんとは,ご主人と奥様が私と同窓だったこともあり,30年近く前の記憶を呼び起こして懐かしい話で盛り上がった。私のサークルの同級生と奥様の最初の就職先の1年先輩が同一人物ということもあって,ここでも不思議なご縁を感じた。しかも,お土産としてお酒を頂くことにあり,早速帰宅後頂いた。妻もうまいと絶賛していた。
学生もさまざまな話ができて楽しかったようだ。「遠い出雲まで来て授業をしてください」なんていう指導教員の無茶苦茶な取り組みに(納得はしていないだろうけれども)関わってくれて感謝している。本当にありがとう。
直会のあと,学生は学生でもう1軒行ったようだ。そのときはこんなことを言ってた。
「先生が『地元で稼いだお金を地元に落とせ』と言ってたじゃないですか。だから,このお金は地元のために使います」
この2日間で学生たちは何かを学んでくれたのだとしたら嬉しいですね。
ふりかえり
さて,南へ北へと移動をして2つのプロジェクトを動かしてきた2日間はこうして無事に終了した。いつものことながら学生に負担をかけていることは理解している。3年生になればプロジェクトもあるし,それぞれやりたいこともあるし,24時間をどう使うかをうまく考えなければならない。
一方で,その負担を少しでも下げるために、今年度から『スプラウト』はゼミ全体の取り組みと位置づけ,リーダーはプロジェクト・マネジメントを中心にするように今年度から移行している。が,だからと言って簡単にマネジメントができない。どうすれば良い方向に向かうのか。どうすれば負担感を減らしつつ,より良いパフォーマンスを導けるようになるか。ここは私自身も何年もマネジメントしているが,未だによくわからない。
特にプロジェクトリーダーの学生は体調も万全ではなかっただろう。そこでやり切ったことを美化するつもりは全くないが,もっと事前に準備ができていたら身体に負担をかけずにできたのもあるわけで,これを学びの糧にして欲しい。
たいていプロジェクトが上手くいかなくなる理由は「できるだろう」「大丈夫だろう」という根拠のない自信,慢心だったり,「やりたくない」という先延ばしだったり。スケジュールはだいぶ前から示していたわけで,段取りをして,チームをマネジメントできれば少しは負担を減らせる。この1年間でそうしたことを学んで欲しいし,数多くの授業を行うことで「できるようになる」実感を持ってくれると嬉しい。歳を取るとこうしたことが命取りになる。ぜひとも踏ん張ってやり切る癖をつけるといいだろう。
そう,このプログラムは,高校生に授業をし,高校生が理解をする,できるようになるという過程を大学生が主導し、観察することによって,一番学んでいるのは大学生だという点にポイントがある。授業をするには理解をしなければいけないし,授業をすることで何が理解できていないかもわかる。そして何より,高校生がマルシェに取り組む,それを成功するようにサポートするという行為を通じて,自分たちが行っていることが人に役立っているという実感を得られるようにすることに意味がある。
これが「やりがい搾取」になるような負担感のあるものではなく,自然にそうした行為に結びつくようになれば良いと考えている。ただ,なかなかこれが伝わらないことがもどかしい。恐らく自分の欲が強すぎるのが問題なのかもしれない。決してそんなつもりはないのだけれども,周りにはそういうふうに見えているのかもしれないな。やってみればわかることなんだけれどもね。
秋も福岡女子商業、飯塚、苓北(天草)、大分・宮崎・鹿児島と新たなプログラムが目白押し。むしろここまでよりさらにタイトなスケジュールが待っている。また、壱岐商業のマルシェもまもなく行われる。
今回も自分語りが過ぎました。気づいたら6,000文字を超えていました。購読者がほとんどいないnoteを書き連ねていきます。