見出し画像

第96回アカデミー賞予想

 2024年アカデミー賞予想。

*2024年3月13日:受賞結果を追記

【作品】

 くわしくは上記記事にて。

予想:『オッペンハイマー』
結果:同

【監督】

予想:クリストファー・ノーラン『オッペンハイマー』
結果:同

【主演男優】

国内だと次走はジアマッティ、ドミンゴ、ライトの三つ巴のよう

 『オッペンハイマー』キリアン・マーフィーvs『ホールドオーバーズ』ポール・ジアマッティと思われたが、SAG界隈いわく後者はミラージュ。

 ファンの間で「オスカー不利な静かな演技」枠とされたマーフィーだが、個人的に逆な気がする。問題ある人間性で知られる米国重要人物の伝記、極端な減量による役づくり、幅広い年齢層への変身、そして超ドラマティック。ノーランは科学者である主人公の思考を抽象的な画や音響でダイナミックに表現していったのだから、地味どころかエモーショナルな役だ。映画を観た者が思い出すのは憔悴するマーフィーの顔である。

予想:キリアン・マーフィー『オッペンハイマー』
結果:同

【主演女優】

スパイク・リーは秋時点で「オスカーはグラッドストーンのもの」と宣告していた

 『哀れなるものたち』エマ・ストーンと『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』グラッドストーンのデッドヒート。前者は全身を使って感情豊かに快進撃を展開するTHE主人公。後者は後半ほぼ病床に伏せており出演時間は全体20%台で、もともと助演の筆頭候補と思われていた。

 しかしSAG界隈だと「ストーンは批評家と欧州人気。"我々"業界は今年最高の演技をしたグラッドストーンにとらせる」風評が形成されていたらしい。『哀れ』が大好きな会員でも「エマは過剰なコメディキャラクターだったからリリーより難易度が低かった」とこぼしている。

 ファン間で「静かすぎる」と言われてきたグラッドストーンだが、ケイト・ブランシェットはこう評した。「あれは演技ではない。魂を宿らせている」「俳句のようだ」。
 レースはわからない。作品人気、つまり推定される視聴済み有権者数は『哀れ』が圧倒している。『落下の解剖学』ザンドラ・ヒュラー急上昇も見逃せない。それでもグラッドストーンを選んだ理由は、式典でスタンディングオーベーションで迎えられつづけた国内支援状況、そして追い込みとなるSAGスピーチ。まさに「獲るべき」演説。

予想:リリー・グラッドストーン『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
結果:エマ・ストーン『哀れなるものたち』

【助演男優/女優】

予想:ロバート・ダウニー・Jr『オッペンハイマー』、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ『ホールドオーバーズ』
結果:同

【脚本】

 ヒップな部門として知られる脚本だが、ストライキで前哨戦がオスカー後になってしまった。有力は『落下の解剖学』と『ホールドオーバーズ』、もしかしたら『パストライブス』。流石に『落下』がとるんじゃないかと思えるのは、チャレンジングな作家の話であること、欧州賞席巻、米国会員に波及した盛りあがり、指名の幅、監督の演説の魅力、授賞させられるのがここしか無さそうなこと。

予想:『落下の解剖学』
結果:同

【脚色】

 有力候補は、BAFTAとUSCで『オッペンハイマー』をくだした『アメリカン・フィクション』。業界人から共感を集める物語だし、オスカー風刺ネタは「挑戦されるのを好むアカデミー」条件にも該当する。新人作家の挑戦的ブレイクスルーでもあるし、尊敬されるブラックキャストのアンセサンブルで華やかなキャンペーンを行っているから、国内で根づよい票を固められそうだ(作品賞予想3位にしたのも「一定数の票の硬さ」が理由)。直接対決をしていない『バービー』が上回る可能性も残されている。グレタ・ガーウィグ落選ショックによる応援機運はあるようなのだが、ヒラリー・クリントンまで乗っかったオスカーバッシング狂騒で業界を萎えさせた話も。

予想:『アメリカン・フィクション』
結果:同

【国際長編映画】

予想:『関心領域』
結果:同

【長編アニメーション】

 国内前哨戦は技術ふくめて『スパイダーバース』一色。ネックは歴代続編ウィナーが『トイ・ストーリー』シリーズしか無いことくらい。二番手はBAFTAをとったジブリ『君たちはどう生きるか』。

予想:『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』
結果:『君たちはどう生きるか』

【歌曲賞】

 ビリー・アイリッシュとライアン・ゴズリングの『バービー』対決。次点が『KOTFM』な気がしている。この部門で強いのは「人気歌手」「ほかの部門で穫れない作品」「映画に組み込まれた音楽演出」。派手な場面を担当した「I'm Just Ken」はライアン・ゴズリングへの好意としても集票しうる。しかし、キャンペーン量、投票期間におけるグラミー賞とラジオピーク、そして素直に使用場面のフィルムマジックとしてビリーに軍配があがると思う。

予想:『バービー』ビリー・アイリッシュ「What Was I Made For?」
結果:同

【美術&衣装】

 予想最難関のドールズ・デスマッチ。美術組合賞で『バービー』に打ち勝った『哀れなるものたち』は、屋外撮影たった数パーセントの「すべて作り物」コンセプト。オスカーはこうした古き良きスタジオセットを好みがちだ。

 衣装の場合、21世紀最大のファッション旋風を起こした映画『バービー』が敗けるなんて考えづらい。このカテゴリは大御所が強いし、衣装の数が多い大作もとりやすい。ネックに思うのはCHANELと協賛してアーカイブ提供を受けていること。つまり、全コスチュームがオリジナルではない。また、劇中三分の一ほどは滅多に勝たない現代舞台だ。

 時代劇寄りのドレスを創造した『哀れなるものたち』はデザイナー界隈で好評らしい。プロの評価軸のひとつは「前面に出ず映画のストーリーアークに寄与する衣装表現」。両作ともやっているが『哀れ』のほうがわかりやすい気もする。
 美術『哀れ』衣装『バービー』がちょうどいいと思うのだが、後者陣営が技術部門キャンペーンに尽力していたことを考えると……

予想:美術&衣装『哀れなるものたち』
結果:同

【メイクアップ&ヘアスタイリング】

 「俳優の変身メイク」が強いカテゴリだから『マエストロ』が筆頭。ただしレース後期から技術部門にギアを上げた『哀れなるものたち』も見逃せない。そろそろ『哀れ』のようなファンタジーに勝ってほしい気でいたのだが、カズ・ヒロのキャンペーン動画がすごすぎる。

予想:『マエストロ: その音楽と愛と』
結果:『哀れなるものたち』

【撮影&編集&作曲&音響】

 伝記映画を革新した『オッペンハイマー』のエリア。不確かなのは音響賞で、BAFTAだと『関心領域』が競り勝っている。記事で説明した通り音が主役の実験映画で、当時のアウシュビッツ収容所の物音を調べ尽くしただけでなくドイツの街中から生の音を録音して活用している。つまり「生」のインディーズが「技術」最高峰の大作に挑むかたちだ。しかし国内組合を席巻した『オッペンハイマー』も非常に印象的な音響演出を行った。集票パワーで抜けられるに一票。

予想:撮影&編集&作曲&音響『オッペンハイマー』
結果:撮影&編集&作曲『オッペンハイマー』、音響『関心領域』

【視覚効果】

くわしくは記事にて。
 余談。この部門がカオス化した理由は、最有力候補になっていたであろう大作2つの不在だ。ノーランの「VFXなし」売り込み、クレジット欠落問題によって『オッペンハイマー』が落選。ストライキによって『デューン 砂の惑星PART2』が公開延期して範囲外へ。この点でも『ゴジラ-1.0』は運を持っている。

余談

 仮説と余談。

あらたな最強格:おそらく二年連続で一掃が起こる。言い換えれば2010年代型の「広範な好感度による作品賞」つぶし
海外会員の力:
近年話題な国際会員だが、もっともパワーが発揮されるのはノミネーションな気がしている。本番だと接戦で頼れるプラスアルファ
キャンペーンとしての評家賞:批評家投票の賞は(重要な受賞実績というより)本戦へのキャンペーン
BAFTA難儀:審査員制度の欠陥がめだち、扱いが難しい。「多様性」標榜してるけど「ローカル」ピックもあるだろう
キャンペーン:結果どうあれ、巧みだったのは『オッペンハイマー』、『落下の解剖学』、『ゴジラ-1.0』。リスクテイカーは『KOTFM』、『関心領域』。現象的には『バービー』が優勝で、あの狂騒がある意味の作品賞

関連記事


よろこびます