なかたにつよし

シンガーソングライター なかたにつよし 雑感と不定期のエッセイ

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シンガーソングライター なかたにつよし 雑感と不定期のエッセイ

最近の記事

呉服屋の誰かのものになる前の風に揺られるシャツらの鼓動

これを書いているのは四月の半ば。 もう少ししたら五月だというのに長袖を来て外出した。暖かくならない。暑いか寒いかの二択。生ぬるいのもいやだけど、白か黒かとか行くか行かないかを問われるのもなんかいやだ。進路をみつけなさい。何かはじめなさい。別れを告げなさい。ほんとはここにいたいだけなのに、春ってそういう季節。せわしない。 せわしなくならないために、どこかに出口を見出して脱ぎ捨てるこの町。掛け違える前のボタンに熱を宿して季節と景色は等しく速度を保ちながら。いつもレコードを探して

    • 浅い地面燃やして溜むる民の目に幽霊船はうつらない

      幽霊みたいな町でぷんすかしながら何も持たずに蜘蛛の糸を探しながら暮らしていくのはとても退屈だ。 『GHOST WORLD』を1回目観終えた帰りの山手線でずっと考えていた。最後のバスのイーニド。あれはハッピーエンドだったのだろうか。というか、ハッピーエンドってなんなのか。その話は後からするとして。イーニド、好きだな。スカーレット・ヨハンソンの若い頃というパワーコンテンツに惹かれて観に行った大半がイーニドの方にボッコボコにされているであろう。なんか反骨でいたくて髪グリーンに染め

      • 階段を昇り見つめたタワマンと同じ高さの花火のおまもり

        土曜日の夜、ニッポン放送といえばずっと聴いていた「魂ラジ(オールナイトニッポン サタデースペシャル福山雅治 魂のラジオ)」だった。魂ラジを最後まで聴いて仕舞えば自然とその後の番組も情報として入ってくる。存在自体は認識していたが、初めてオードリーのオールナイトニッポンをリアルタイムで最後まで聴いたのは、いわゆる「春日事件」後のお説教回だった記憶がある。 それからサタデースペシャルのパーソナリティーが年月の変遷とともに入れ替わっていくなかも毎週のようにオードリーのラジオは生活と

        • 賀正を終えた新春の月末までの残り火で炊いた白米うますぎる

          大晦日まで出勤していたから帰って紅白観ながら緊張の糸がぷっつんしてしまい、CDTVの朝方四時台の頃にはもう発熱していた。寝正月は近年していなかったが、今年は問答無用で寝正月だった。おまけに元旦から災害・ニュースで慌ただしく、波乱の幕開け。そんな年始にラジオを聴きながら高熱でうなされる中、何年かぶりに「怖い夢」を見た。「怖い夢」とは言っても、もうちゃんと生きてきた成人社会人だから、泣きながら飛び起きて壁に頭を打ちつけたりはしない。代わりに猛烈に汗をかいて起きた。身体中の水分が沢

        呉服屋の誰かのものになる前の風に揺られるシャツらの鼓動

          クリスマスキャロルの「キャロル」が何なのか分からないまま老いて逝きたい

          ジョン・レノンの「Happy X'mas(War is Over)」いつも年末にしか流れない。山下達郎「クリスマス・イブ」もクリスマス過ぎたら霧が晴れたみたいに流れなくなる。でも羊文学の「1999」は全季節いける。タイトルに「クリスマス」って入ってないからなのか、くるりの「ワールズエンド・スーパーノヴァ」は全季節いけるし、ポール・マッカートニーの「No More Lonely Nights」もいける。いつ聴いても良い"という状態を自分は"全季節いける"と呼んでいる。季節のこと

          クリスマスキャロルの「キャロル」が何なのか分からないまま老いて逝きたい

          天国がもしもほんとにあるとしたらそれは僻地のリゾホのさびしさ

          ここですべて事足りているとほんとうに思ってしまう場所を知っているだろうか。5年くらい前に九州に帰ったとき、遠出して山間のリゾートホテルで一泊したことがあった。そこには地方の温泉リゾートが出し得る限りのすべてがあって、これ以上他に何が要ると言いたくなる空間だった。バイキングはなんでも出てくるし酒もある。噴水とライティングのショー、スーパー銭湯2つ分ほどのバリエーションがある温泉。天国だった。でも何処か時が止まっているような香りがして、ふと我にかえったら急に身体がしゅんとなってし

          天国がもしもほんとにあるとしたらそれは僻地のリゾホのさびしさ

          マルチバースの知らない世界では人がヤクルト1000を毎夜呑んでいる

          ここだけの話、自宅の居間のテレビ画面はマルチバースと繋がっている。 自分が生きている世界の何処を探しても実際に手に入らないものがテレビで名前が上がる。そう、ヤクルト1000。いくら近所のスーパーを探してもないのだ。 試しにiPhoneを開きGoogle検索で「ヤクルト1000 存在しない」と入れてみた。どうやら存在はしているらしい。iPhoneの画面もマルチバースの扉と化していた。大変なことになった。知っている世界と知らない世界が衝突している。インカージョンがはじまって

          マルチバースの知らない世界では人がヤクルト1000を毎夜呑んでいる