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『万引き家族』が再定義した「家族」の在り方が、いつか新しいスタンダードになりますように。

【『万引き家族』/是枝裕和監督】

是枝監督が映画作りを通して行なってきたこと。それは、「家族」という概念の再定義だ。

親は子供を選べないし、子供は親を選べない。それでも、いや、だからこそ、お互いに絆を育み合いながら「家族」になるしかない。是枝監督は、血縁という絶対的な繋がりの意味を問い直し、これまで無条件の愛とセットで語られてきた「家族」という枠組み(および、その誤解)を一度取り払うことで、逆説的に、「家族」になることができる幸せを説いてきた。

ネグレクトという社会問題を通して「本当の家族とは何か」と問いかけた『誰も知らない』。「どうしたら家族になれるのか」というテーマを、子供の視点から描いた『奇跡』、親の視点から描いた『そして父になる』。「家族であること」の尊さと切なさを、ささやかな日常描写を通して伝えた『海街diary』。

そして今回、是枝監督は『万引き家族』において新しいテーマに挑戦している。それは、親と子供の関係を「選択」する、ということ。つまり、血の繋がりを超えて、「家族」になろうとする試みだ。

今作で描かれているように、親は、正しさと間違いの間にしか答えを見い出せずに苦しむこともあるし、そして、子供にそうした選択を促すのはあまりにも酷だ。それでも僕は、今作で描かれる新しい「家族」の在り方に、とても眩い可能性を感じた。

いろいろな生き方があって、いろいろな価値観があって、いろいろな愛の形がある。しかし悲しいことに、この社会にはまだ、その全てを許容する余裕はない。劇中で深く言及されることはないが、この物語の前提となっているのは、児童虐待、年金問題、雇用問題といった、現実社会における構造的な負から生じる問題である。今作が投げかける問いかけに、この社会が正面から答えるには、まだ時間がかかるかもしれない。

是枝監督は今作で、カンヌ国際映画祭の最高賞であるパルム・ドールを受賞した。彼が再定義した「家族」の在り方が、一日でも早く世界のスタンダードの一つになりますように。そうした透徹な願いが、カンヌを通して全世界に共有されたことは、2010年代の映画界においてあまりにも深い意義のある出来事だった。



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