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許されない愛の物語を、信じる。映画『流浪の月』に寄せて。

【『流浪の月』/李相日監督】

まだ言語化されていない感情や関係性に、今もなお未分化の領域に、たとえ名付けることはできないとしても、小説は、映画は、その実存に豊かな輪郭を与えることができる。そしてそれこそが、表現の一つの役割であり、使命であり、挑戦なのだと僕は思う。

悲しいことに、今の社会には、旧来的な価値観や仕組みに相入れないもの、矛盾するもの、それら全てを理解し、受け入れるだけの余裕はない。それでも、いや、だからこそ、映画は、表現は、声なき者、声を奪われた者のために、この現実に対して声を上げ続けなければならない。

この映画は、その野心的な挑戦を通して、この社会においては「許されない」愛の物語を美しく表現してみせた。監督・脚本を務めた李相日は、凪良ゆうによる原作小説について、次のようにコメントしている。

魂と魂の未来永劫揺るがない結びつき。そんなものはこの世界に存在しないのかもしれません。けれど、まずは信じてみる。この物語を信じる。更紗と文、二人の息遣いを信じる。そこから、映画「流浪の月」はスタートしました。

この「許されない」愛の物語を、信じる。その想いの背景には、更紗(広瀬すず)と文(松坂桃李)の2人と同じような孤独や不安を抱えながら生きる人たちの選択を、人生を、肯定したい、という信念があるのだと思う。そうしたクリエイターとしての確固たる姿勢を感じて、強く心を震わせられた。

今作は、決して万人に開かれているような作品ではないかもしれない。むしろ、李相日監督の過去作『悪人』や『怒り』もそうであったように、今回も残酷なまでに鋭く人の心の深淵を描いていて、今作を観る上では相応の覚悟が必要である。ただ、この愛の物語に救われる人は少なくないと思う。

極めてセンセーショナルな要素を数多く含んだ作品ではあるけれど、この映画に込められた懸命な祈りが、正しく伝わり、広まっていくことを願う。




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