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祝詞 -norito-

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永遠に解けない暗号を、祈りの言葉に代えて。 詩集のような短編集のような。 書き手の意図など置き去りにして、言葉の羅列から立ち上ってくるイメージや感覚、それらが自分の内側にある世界… もっと読む
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#小説

空

 冷蔵庫の中が空っぽになったので、観念して旅に出ることにした。しかしわたしは旅行バッグを持っていない。仕方なく、目についた弁当箱の中に生活用品を詰め込めるだけ詰め込むことにした。

 着替え用の下着と洗顔料、化粧水、歯ブラシセット、日焼け止め……ブラジャーを入れただけでパンパンになっていたのに、膣もびっくりの伸縮性を兼ね備えているらしく、いくらでも入ってしまう。
 あれもこれもと詰め込むうちに、家

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あの糸

あの糸

 瞼をひらくと、天から一本の糸が垂れ下がっているのが見えた。
 積極的にここから抜け出したいというわけではなかったが、ここであきらめたら先には間違いなく地獄が待っている。
 すがる思いで糸に向かって手を伸ばした。
 先端に結ばれた玉を握り締め、腕に力を込める。そう遠くない場所で、カチリ、と金属がこすれ合う音がした。
 その時、青白い光がこの目を貫いた。
 部屋が明るくなった。

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