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「お得の宝石箱」のつくり方

メディアパルさん主催の「 #ひとり暮らしのエピソード 」という企画をご存じだろうか。

はじめてのひとり暮らしをする人が、ガイド本と一緒にふむふむと読めるマガジンになればうれしいので、ひとり暮らしに関することならば何でもOKです。

下記記事の本文より

この企画を教えてくれたのは、いつももっふもふのうさぎさんの写真をあげているramさんだった。「パーコレーターって何!?響きからして、必殺ビーム!?」と思っていたのだけれど、どうやらオシャレなコーヒーメーカーのことらしい。

「ちょおっと待った~!一人暮らしといえば私じゃ~~!我こそは一人暮らしエッセイ集『春夏秋冬、ビール日和』を書いたつる・るるるであるぞ!!!」とむやみに張り切って過去の一人暮らし投稿に怒涛のタグ付けをキメてしまったのだけれど、せっかくの機会なので「はじめてのひとり暮らしをする人」に向けて、渾身の「ふむふむ」をお届けしようと思う。

まずは簡単に、これまでの私の転居歴をご紹介したい。

大学4年生の冬まで、湘南の某地で家族5人と猫および亀と暮らす。
大学4年生の冬、従姉と千葉県某地の7万円のアパートに引っ越す。
社会人になってから2ヶ月目の6月、「この部屋なんか臭かったから、新しい部屋を見つけておいたよ」と従姉に言われて江戸川区の8万円のアパートに引っ越す。
社会人2年目の冬、「この家チャタテムシが出る!」と従姉が発狂しかけたので別々に暮らすことに。
以降、埼玉某地の4万円のワンルームで一人暮らしを営む。

そんなわけでいま私が住んでいる部屋は、実家を出てから3つ目の部屋になる。
転居するたびに私が一番困ったのは、その都度「地域の最安値」を探りに町中を自転車で駆けめぐらなければならないことだった。

チェーン店がある場合はまだいい。
商品の値段も、夕市の時間帯も卵が安くなる曜日だって、多くの店では変わらない。
ポイントカードだって継続して使えるから、お財布にも優しい。

最初に移った千葉と江戸川区は、だいぶ私にとっては住みやすい町だった。
食材が安く一日中見切り品カゴが出ている高品質・Everyday Low Price OK

外国の菓子やお酒類が安いプロの品質とプロの価格業務スーパー

賞味期限間近や季節のイベント終了後にありえないほどの値引きをかます驚安の殿堂ドン・キホーテ

一着105円からと圧倒的な敷居の低さを誇る古着屋・リサイクルファッションショップたんぽぽハウス。

そんな気安いチェーン店が揃っていたからだ。
やや地域差もあるものの、チェーン店の値段差なんて微々たるもの。
こうした自分にとっての普段使いできる店が何店か揃っていると、初めての地でも絶大な安心感があった。

問題は、初見の店や個人店が多い町に越してしまった場合である。
何を隠そう、私にとっては今の町がそうだ。
不動産屋から聞いた知らないディスカウントショップは外観も内観も殺伐としていて、蛍光色のジャージを腰までズル下げたヤンキーがうろうろしていた。一方で駅近くのスーパーはちょっと調子に乗っていて、ツンとお高くとまった価格設定。
とんだ町に越してきてしまった……。

とりあえず前の家から持ってきた乾麺と春雨で空腹を満たす。
まだ引っ越ししたてでWi-Fiも入っていない時期にも関わらずついうっかり猫の動画を観たりしていたら、あっという間に通信制限がかかってしまった。

でも今日こそはお米を炊かなきゃ……。
味噌も醤油も買ってない……。
野菜もほしい、のに……。

だいたいの荷ほどきは済んだけれど、手当たり次第お店を回る元気もまだ湧かない、そんなある日のこと。
とりあえず財布とエコバックを持って外に出たもののどこに行こうか決めあぐねていたら、パンパンのエコバックを肩から下げたおばちゃんが私の前を通った。
ああ、時々ゴミ捨ての朝に見かける、向かいのアパートの人だ。

そう気づいたら、咄嗟に声をかけていた。
「最近ここに越してきた者なんですけど、どこでお買いものされてます?

颯爽と歩いていたおばちゃんは急に呼び止められて一瞬びっくりした顔をしたけれど、「何が必要?」とこちらを怪しむそぶりもなく聞いてくれた。
「とりあえずお米を2キロと調味料と野菜を買いたいんです」
そう言うと彼女はちょっと考えて、「お米と野菜ならこの先下った一本道に八百屋があるからそこがいいと思う。調味料関係はディスカウントショップのJが安いかな」と言った。
Jは私が先ほど外観も内観も殺伐としていると恐れていたお店だった。
ヤンキーに目を奪われていたけど、調味料がお安いのね!

その言葉を信じてまず八百屋に行ったら、前の町よりも少し安くお米と野菜が手に入った。
新しく越してきた旨を告げたら店員さんたちは頑固おやじのいる蕎麦屋と値段のわりにボリューミーなカフェも教えてくれた。
新しい町で人とちゃんと会話が交わせると、一気に心が安らかになる。

続いてディスカウントショップJに、おそるおそる足を踏み入れた。
あらゆる飲食物が、かなり安い。
特に驚いたのはペットボトルのお茶やジュース。500mlが60円くらいで買えた。
もちろん調味料も安かった。
味噌と醤油に加えて、ついつい抹茶塩やラー油など普段はほしくても我慢していた小瓶をカゴに入れてゆく。

ほくほく買い物を終えた数日後、通りで再会したおばちゃんは「行ってみた?けっこうよくない?」と声をかけてくれた。
「前住んでいた町よりずっと安くて驚きました!」と言うと、「また何かあったら言ってちょうだい!お得情報なら自信あるから!」とカラカラ笑ってくれた。

そうか……。
お得情報を自分のものだけにしておきたい人ももちろんいるのかもしれないけれど、そうでない人もいるのだ。
そういえば私も後者のタイプで、住み慣れた江戸川区を離れるときに大家さんに「もしよかったら次の人に渡してください」と近隣スーパーの特に安い商品や何時以降に半額セールが始まるかなどを事細かに記したマップを渡したことがあった。

「月に一回美酢の900mlボトルが500円になる」
「中粒納豆が60円」
「近隣スーパーではもっとも早く、20時から惣菜の半額祭りが始まる」

この部屋に住む次の人が美酢を飲む人なのか、納豆は中粒派なのか惣菜が好きかはわからないけれど。
自己満足とわかっていても、私は自分が蓄積してきたお得知識をどうしても残しておきたかった。
これは引っ越してしまったらもうその知識を使うことはないからなのかと思っていたけれど、ひょっとしたら同じように自身の知識の結晶を誰かに伝えたがっている人はいるのかもしれない。
おばちゃんの誇らしげに輝く顔を見ていたら、ふとそう思った。

そんな人の存在を確かめるべく、私は駅の自転車置き場や長い信号前でエコバックを持った女性に声をかけてみた。
これは決してナンパではない。
よりお得に生きるための鍛錬である。
声をかける前に自転車カゴに荷物を入れるのを手伝ったり、「いいお天気ですねえ」などと言葉を交わした後だったからか、みんな快く自分のおすすめ店を教えてくれた。

「ここは木曜の朝に行くと野菜が安いよ」
「あの店はヨーグルトや牛乳はうんと安いけど、ほかはダメだね」
「この店のポイントカードは作っておくといいよ」

すごい、みるみるうちにお得情報で宝石箱がいっぱいになっていく……!!!
彼女たちのおかげで、私は2週間で町中のお得情報を得るという自己ベストを叩き出した。
一人では一カ月はかかってしまうであろう膨大な知識が、こんなわずかな期間で私の頭の中に……!
しかもそうして得たお得情報は、ネットでは得ることのできない、まさに日々たゆまず足を使った人にしか与えられない貴重なものだった。

最初は一方的に得難い情報をありがたくいただいているだけだったけれど、次第に私も「北口方面だと、この野菜を100円で売っている販売所があって…」と情報を提供できるようになっていった。
きゃー!それ、知らない!
そう相手が喜んでくれたときの喜びと達成感は、お宝を独り占めするよりもずっとずっと大きく、深いものだ。

そんなお得ハンターの私は、絶対にこの町のお宝マップを作ってからこの部屋から巣立っていこうと思う。
みみっちい、否、節約を極めた私たちの汗と努力の結晶。

そんな一つひとつの結晶を丁寧に収めてゆく宝石箱づくりは、私の一人暮らしをよりお得に、そしてちょっと豊かにしてくれる。

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