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たのしい味噌パーティ

彼氏の家で、友だちの歌うモナコさんと三人で味噌開封の儀をおこなった。
この味噌は、彼女が私の誕生日にくれたひよこ豆の味噌である。

仕込んだ日の話はこちら。

この日のnoteを読み返して「あれからもう半年か」と感慨に浸りながら黒いフタをひねった。

えっ……この黒いのと白いのってまさか……

がっつりカビていた。

いや実は、カビているのは実は外から眺めて薄々知っていた。
でも、まさかここまで広範囲にわたっているとは思わなかった。

ラップが浮いているところに「隙あり!」とばかりにはびこる、白黒のカビ。
私の詰めが甘かったところをイキイキと染め上げその存在感を示すカビはまるで、子どものころ歯科検診でやらされた歯磨きのあとに噛まされた赤いタブレットのようだった(プラークチェッカーっていうらしい)。

己の歯磨きの甘さを白日の下に晒すこの赤いタブレットが、私はとても嫌いだった。
どんなに丁寧に磨いたつもりでも、奴らは必ず磨き残しを見つける。
そしてそこを血のような赤に染めて、「ここ、ここ!ここがバッチイんだぜ!ヒュ〜~~♪」と囃し立ててくる。
そんなときに限って私の隣は歯科医の息子の小川くんだったりする。最悪。

話は変わって、味噌がカビるのは珍しいことではないらしい。
三七味噌のカビ取り動画を見たら、さすがに私ほどではないものの、そこそこカビていた。

なーんだ、よかった。
安心して、スプーンでカビをへずりとる。

鼻を近づけてみると、いかにも豆っぽいふくよかな香りがする。
仕込んだ時に比べて色味も深く、とてもおいしそう。
すっかり綺麗になった味噌がこちら。

さて味噌の準備ができたところで、汁物スタンバイ。
ここで登場したのは青森県八戸の名物、せんべい汁用せんべい。

八戸名物せんべい

実は12月18日、出張に行ってきたのだ。
雪と寒さに怯えながら、きりえや高木亮さんのワークショップのお手伝い。
普段の私のnoteとは異なり超まじめにレポートした&はちゃめちゃに素敵な書店さんなので、ぜひお読みいただきたい(注:唐突な身バラシ)。

そんな宣伝をしつつ、にんじん、ネギ、ごぼう、豚肉を煮込み、いよいよ味噌投入。

ちょっと摘まんで口に含むと、思ったよりもややしょっぱめ。
でもひよこ豆っぽさもきちんとあって、とてもおいしかった。

味噌が溶けたらせんべいを割り入れる。
どのくらいの大きさが一般的なのかはよくわからないまま、とりあえず四つに割って、入れる。

鍋を大きくかき回し、沸騰する前に火を止めた。
それぞれの汁椀にせんべい汁を入れ、茶碗にご飯を盛る。
味噌本来の味を楽しもうとご飯に味噌を少し落として、私たちは手を合わせた。

汁を吸ったせんべいはもちもちとした噛みごたえがおいしく、久しぶりの豚肉はものすごく豚々しかった。

そして、肝心の味噌。
私の雑な性格がそのまま表れ出ているようなゴツゴツとした味噌は、おかずのような存在感。
ご飯に乗せてかっこむと、しっかりとした豆の食感と塩っぽさが主張してきてかなりおいしい。

「へへへ、けっこうちゃんと味噌だねえ」と調子に乗っていたら、汁椀からごろりと完全体のひよこ豆が出てきた。
それも、3粒も。これはひどい。
全然ちゃんと潰せてないじゃない。
次回はもっと頑張らねば。

じっと豆を見ながら、日本酒を傾ける。
北海道に出張に行った先輩から、彼氏がもらったという。

彼氏はお酒を飲まない。
飲めないのではなく、飲まない人だ。
お酒そもそもの味があまり好きではないと言い、わざわざ酩酊してテンションをバカみたいに上げたり気持ち悪くなったりする人の気がしれないと言う。
私はお酒が好きなので付き合いたての頃は彼を呑んべえの道に引き込もうとしたけれど、彼の決意は固かった。
ほどなくして諦めた私は、一人淡々と、あるいは友だちとともに飲むようになった。

お腹いっぱいになったので、彼の部屋に上がりゲームをすることにした。
なぜか彼のチョイスするゲームは陰鬱なものが多い。
今回やることにしたのは『INSIDE』。

これは赤い服を着た少年を操作して獰猛な犬やキモい豚をいなしながら、薄暗い森や不気味な農場、そして工場地帯へと進んでいくパズルプラットフォーマーアドベンチャーゲームだ。

パズルプラットフォーマーアドベンチャーゲーム」という用語は今Wikipediaからそのまま引っ張ってきたのだけれど、要するにパズルあり障害物ありのいろいろな要素が集まったゲームであるらしい。

豚に轢かれたり犬に噛まれたり得体のしれないアーム状の何かに捕らえられたりと、たった一人で厳しい状況に置かれている少年と、あたたかい部屋で満腹の私たち。
まあゲームってこういうものだよなとは思いつつも、なんだか少年に対するバツの悪さのようなものを感じてしまう。

仕事や生活がおもしろいほどままならない時、「もしかしたら私はゲームの主人公で、誰かがどこかで操作しているのではないか」と妄想することがある。

そうすると、自分の身に起きていることが外の世界の人のせいのように思えてくる。「問題山積みだけど、大丈夫。私のせいじゃない」と無責任にホッとするのだ。

でもその一方で、プレイヤーと呼ばれる人たちがあたたかく居心地のいい部屋で、

「せっかく転職したのに、まーたヤバい上司引いちゃったよ」
「うわ、引っ越し先は埼玉のぼろアパートだって。微妙〜」
「ちょっ、無料の自転車置き場まで来年閉鎖だってよ。引っ越しあたりからやり直せないかなwww」

なんて笑っていたら、地団駄を踏んで悔しがると思う。
パソコン上を駆ける少年と自分を重ねてますますいたたまれなくなりながら、私は彼を見守った。

何度も死にながらも、彼は無事に課された使命を果たした。
私たちが画面を閉じたあと、どうかあたたかくしてほしい。届けられるものなら、せんべい汁を届けたい。

とりあえず私の忘年会は、この味噌パーティが最後である。
今年も一年、ままならないことはたくさんあったけど。

少なくとも私には友だちがいて、あたたかい部屋があって、味噌がある。
それはきっと、自分が思っている以上に、ずっとずっと幸せなことだろう。


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