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この星を消さないように

一昨日ほど、自分がウルトラマンでなくてよかったと思った日はない。

もし、私がウルトラマンだったら。
通行人A「明治通りで怪獣が暴れているぞ!」
シュワッチ!(訳:ガッテン承知!)
シュドドドドドド(町を駆ける音)

通行人B「何やってんだ!あっちだ!」
ヘアッ!(訳:やべえ、あっちだったか)
シュドドドドドド(町を駆ける音)

通行人C「おいおい、行きすぎだよぉ」
デュワ!?(訳:マジかよおい)
シュダダダダダダ(来た道を駆け戻る音)

怪獣を探して、町中を駆けるウルトラマン。
走り疲れて立ち止まると、じょじょに土煙が引いていく。
私の目に飛び込んできたのは、自分の足で踏み荒らしたビル、家、田畑。
そして変わり果てた通行人A、B、C。
怪獣は高笑いだけ残して、とっくに自分の星に帰っている。

ああ。ごめんな、みんな。
君たちの星、壊しちゃったよ。
なんかほんと、ごめんなぁ。


……あー、やだやだ。
もし私がウルトラマンだったら、方向音痴で星をひとつ消してしまうところだった。危ない危ない。

幸いにして私は、星を消したことはないけれど。
自分の身体が大きくなることによって生じる動きにくさに関しては、ウルトラマンに親近感を抱くことがある。

土曜日私と従姉と彼氏は、ドライブ練習と称して亀戸でレンタカーを借り、平井の個展に行く予定だった。
亀戸と平井はお隣の駅、電車で8分、車で10分弱の距離である。

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この日は平井の本棚という古書店のギャラリーで行われている、高木亮さんのきりえ展に行くつもりだった。

もはや家族および親戚一同高木さんのファンなので、車で向かう私たちと、電車で合流する母と叔母の計五人で展示に伺う段取りだ。
カレンダーやかるたなどのグッズを買ったりしたいなぁとかなり前からはしゃぎながら、私は早々に亀戸のレンタカー店に軽自動車の予約を申し込んでおいた。

出発二日前、彼氏が倒れた。
花粉がすごくて、くしゃみが止まらん。事故る自信しかない
それはやばい。
彼は私たちのドライブ練習の要となる人物(主に駐車をしくじった時の尻拭い要員)なのに。
でも体調が悪い状態でドライブに参加させるのも気の毒だ。
我々はしぶしぶ、彼のキャンセルを受け入れた。
まぁ、私ら二人でも大丈夫でしょう。距離も近いし。

その翌日である、ドライブの前日。
従姉からLINEがきた。
「うちら免許とってからもう二年だよ?しかも元江戸川区民だから土地勘もあるし。もうちょっと冒険しようよ
たしかに13時開場の展示会のために10時に車を借りたのは、石橋の叩きすぎかもしれない。

いくら方向音痴で運転下手な私たちと言えども、さすがに車で10分の場所に三時間はかからないだろう。
従姉が毒々しい色のドーナツが恋しいと言ったので、急遽船橋のIKEAを経由して平井に行くプランに変わった。
亀戸からIKEAは車で25分。ちょうどよい寄り道だと思った。

それが悲劇の始まりだとも知らずに。

そして迎えた当日。
亀戸に集合し車を借りた、そこまでは順調だった。
私たちはレンタカー屋さんの説明を受け、意気揚々とアルトに乗り込み、発車しようとした。
教習所で習った通り椅子の位置を定め、バックミラーを調節する。そして、ドアミラーを動かそうとした。
が、ドアミラーの調整ボタンが見つからない。
慌てて店内に戻ろうとしているレンタカー屋さんを呼び止めたところ、調整は手動だという

……マジか。
驚きのあまり爆笑する従姉を諌めて、お互いにミラーを押したり引いたりして運転席からいい感じに見えるように調節した。
ミラーに気を取られてカーナビを設定し忘れたのでとりあえず近場の大きめのスーパーに停まり、IKEAへの道を設定した。
ところが、このカーナビも曲者だったのである。

まず、妙にテンポがトロい
その道を通過する直前になって、「この信号を右です」とか言う。
しかも口ではそう言いながら、地図はまだ少し手前を指している。
どっちが正しいんだよう、ていうかもう遅いようと文句を言いながらまっすぐ走ると、「別ルート探索中」と表示が出て、一瞬地図の向きが進行方向が上の状態から、北が上の表示になる。
その数秒間にわたる謎の演出の間にも、車はずんずん直進していく。

そしてやっと別ルートが表示されたと安堵すると、それがまた三角定規みたいなルートなのである。
いや、気持ちはわかるけど。
さっきの道で曲がるためには、一度曲がってこの道に戻ってやり直さなきゃいかんのはわかるけど。
そんなに大回りで三角になる必要があるの?もっと小回りしちゃダメなの?
そんなことを言いたくなるようなルートを、何度も彼女は提示してきた。
ひょっとしてこれ、自転車か徒歩の方が早かったりしない?

とはいえ私たちは初心者。
大人しく彼女の言葉にしたがって、大きな三角を描いて同じ道に戻り、先ほど曲がり損ねた十字路に再挑戦した。
が、今度は右折レーンに移っておくのを怠り、やむなく再び大三角ルートを辿る羽目になった。

いや私ら、マジでバカじゃん?
ゲラゲラ笑いながら、彼氏や友人の不在を噛みしめる。
彼らがいると、ちゃんと目的地に着こうと気が引き締まる。
私たち二人だけでは、どうにも気が緩んでしまうのだ。
ドライブスルーをスルーしてしまった従姉は、「なんとしてでもドライブスルーしてやる」と再挑戦していた。
ほかの人が乗っていたら、簡単に諦めていたはずなのに。別に私たち、ハンバーガーを食べたい気分でもなかったのに。

二度目のチャレンジでハンバーガーセットを買った私たちは、「やっぱ我々、運転向いてないねえ」と笑い合った。

そもそも私が免許を取ったのは、彼氏の強い要望があったからだった。
「るるっぺ、将来俺が地方に転勤したらどうするん?車運転できた方がいいよ」と彼氏に言われた二年半前のこと。
私は「地方へなんて、一人でゆくがいい」という顔をしていたらしい。
「そんな冷たい顔すんなや」とあまりにも悲しげに言われて、仕方なく教習所に通うことになった。
そして当時同居していた従姉にその話をしたら、「私、以前教習所めんどくなって途中でやめちゃって、そろそろ再挑戦しようかと思ってたんだよね〜!」と一緒に申し込むことになった。

二人で教官情報や右左折の難しさなどを共有できたのは、かなり得難い経験ではあったけれど。
私は忘れていない。私たちに、運転の適性がないことを。
共に受けた適性検査で、私はD、従姉はEだった
半年近くかけてほぼ同時に免許を取得したものの、たぶん本質は変わっていない。
私たちは、相変わらずDとEだ。

そんな話をしていると、従姉が「でも危ない人ってウチらだけじゃなくない?」と開き直った。
たしかにその通りではある。

特に、歩行者とチャリ
歩道があるのにあえて車道を歩いてくるおじさんがいる。
そんな彼は、我々に車内でこんなふうに罵られている。

従姉「歩道歩いてよ!人間でしょう?」
私「もしかして人じゃないんじゃない」

道路を大きく斜めに渡ってくる自転車もいる。

私「うそだろじいちゃん、斬新すぎんだろ」
従姉「今転ばれたらマジで轢くじゃん、危ないな〜」

私たち車は、可能な限り道をスムーズに使うために、道路標識や交通ルールを守らなくてはならない。
Uターンしちゃいけない道や、一方通行駐車禁止等々、道路には情報が溢れている。
それに縛られた私たちが「もう目の前に見えてるのに…」と目的の建物の周りをぐるぐるしている間に、交通ルールをものともしないダイナミックでフリーダムな奴らがやすやすとゴールに到着。
ああん、悔しい!!
本当は車両通行止めの道路に入りたい!
だって、ゴールはすぐそこなのよ。

でも、私たちは決して入ってはいけない。
これは、ウルトラマンが星を消さないための大切なルールだ。
これを守らなかったら最後、鉄のボディスーツに身を包んだ私たちは道路を暴走し土煙をもうもうと舞い上げ、死屍累々、阿鼻叫喚の地獄絵図を完成させ、生き残った者たちから「星に帰れ!」と瓦礫を投げつけられることだろう。
あぁ。ルールがあって、よかったなぁ。

結局我々は17時すぎに車をレンタカーに返却し、電車で平井に向かった。
展示会場で高木さんとお話ししながら、ブックカバーやかるた、カレンダーなどを選ぶ。

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今年の卓上カレンダーは、偽本のアンケートで人気になった12作品が収められているのだそう。トップバッターは『きりえや偽本大全』の表紙にも選ばれている『罪と獏』。

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豆本!
存在は知っていたものの、手に取ったのは今回が初めて。
かわいいやらおかしいやらで、『カエルづくし』と『ドレミのうた』を2オクターブ分買ってしまった。

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いろはがるた!
これね、すごく気になってたんですよ。
なんだかんだで、もうすぐ年末。
お正月に家族で集まれるのかどうかはわからないけれど、かるた大会がしたい。

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そして偽本ブックカバー
以前買ったものはみんな家族や友人にあげてしまったので、人にあげてもよさそうなかわいい系の作品を買っておくことにした。

もし自分が学生だったら、これをきっかけに仲よくなれた人もいたのかもしれない。

本を読んでいる人に話しかけるのには、勇気がいる。
私自身そう言われたこともあるし、そう感じたこともある。
友だちが少ないのを本のせいにするつもりはないけれど、どうしても声をかけにくい雰囲気は出てしまうよなぁと思ってはいて。

でもそこにもし、偽本カバーがあったら。
「えっ、『ぱしれメロス』ってなに⁉︎」と、近寄りがたさの壁をすいっと越えて、つい話しかけてしまいそう。
偽本が結ぶ新たな友情。
なんだかすごく、仲よくなれそうじゃないか。

そんな想像にニヤニヤしていたら、ガヤガヤと母たちが到着した。
閉店30分前である。
聞けば、電車を乗り間違えたことにしばらく気がつかず、よくわからない場所に運ばれかけたという。

あぁ。蛙の子は、蛙。
私たち、ウルトラマンでなくてよかったね。


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きりえやさんのグッズは、こちらからもご覧いただけます〜♪

会期は24日で終わってしまったものの、偽本ブックカバーと『きりえや偽本大全』は、これからも平井の本棚に置いてもらえるそうです。


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