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エッセイ

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どこかに行きたい衝動

どこかに行きたい衝動

どこかに行きたい衝動に駆られて起きたままベッドの中でいろんな場所を調べてみるんだけども、外の雨とか暑さとか時間とかお金とか準備の怠さとか色々なことを理由に結局やめてしまう。
結局どこにも行きたくない怠惰な部分のが大きくて、ベッドの中で過去のどこかの写真を眺めながらなんとなく時間が過ぎてしまう。

意外とそんな時間が嫌いでもない。
何かしたいと思う自分。どこかに行っていつも何かを見たいと思っている。

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あぁ、この時なのか、と。

あぁ、この時なのか、と。

別れるその日の後ろ姿がいちばん美しかった。

冬の風の強い日だった。
倒れそうになる自転車を懸命に漕いだ。
彼に懇願してももうダメなことは明確だった。
それでも携帯越しなんて、顔を見れば何か、何か違うはずだと、思いたかった。
思えば2年近く付き合っていた。
強い風の音が耳を塞ぎ遮断した。
自転車を漕ぐのに精一杯で、不安とか悲しみとかよりも彼の後ろについて行くのがやっとだった。
田んぼの間の道を西日

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敵味方を共有しようとすること

敵味方を共有しようとすること

あの人は敵だ味方だ、好きだ嫌いだ
自分の思念を話しているようで同意を求めている。
自分の意見を述べているようで、私を敵か仲間か確かめている。
怖いことだ、それにふと気がつくととても仲間ではいられなくなる。
自分もやったかもしれない。
あさましい疑ぐりを。
やられると気分が悪いものを。
賛同してやるものかと少し意地になるものを。

今、私は彼が私の嫌いな人と話しているのを遠巻きに通り過ぎる。
ああ気

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雨の日の傘の下

最近、一人暮らしをはじめた。
ここ何日か自分の期待に応えるべく、なんとなく忙しなく日常を形作ろうとしていた。
今日は朝からずっと降ったり止んだり、バスを待つ今このタイミングでの酷い雨にぼんやりとじぶんの輪郭がぼやけた。
一年前に遠くへ1人で引っ越して行った人が最近やっと生活をしている実感があり、穏やかな時間がこの一年余りなかったように思う。少しづつ持てるようにしたい。というようなことを言っていた。

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またたび

冬に白神山地へ山歩きをしに行った際、多くの湖、池を見た。観光客は皆寒そうに駐車場からほど近い青池なるコバルトブルーの見栄えの良い池を見ては足早に帰っていった。私と母は少し奥まで行くつもりだったのでいそいそと脇の道を進んだ。シーズンを外れていたためか山の中で人にはほとんど出会わなかったが、稀に出会う人は皆少し奇妙であった。
山の中で人とすれ違う際、大抵「こんにちは」と一声掛け合う。なのですれ違った人

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