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《#無垢な泥棒猫》バイト先の主任異動【別離の不可逆性について】#23才秋

「お疲れ様でした」

それしか言えなかった

レジを打ちながら、片手間、みたいなふりして。

最後の彼の目元のやわらかさを、直視する勇気なんてなかった

情けなかった

結局自分を守ることしか考えられないこと

自分の石碑が崩されてしまうこと

彼の独特の温和な雰囲気で
新しい環境への怯えが幾らも払拭されたこと

彼の存在にどれだけ救われていたか
伝えたかった

最後にあんな優しい顔して

あと二ヶ月がんばってねだなんて

そんな言葉要らなかった

そんな優しさ、欲しいって言ってないよ、私


少し、周りのバイトの子より近しく接してくれている感覚、

何かをはじめることが許される、そんな予感

その狭間でたゆたうのを、密かに、楽しんでいた


それでもサラッといなくなっていく、離れていく

そんな日々全部なかったみたいに


こういう寂しさに耐え、

繰り返して慣れていくのが普通なのだとしたら……

私は、あんまり長いこと生きていたいと思わないかもな


どこを見ていろいろがんばったらいいのかな

誰とも関わりたくない、気の合う人に出会いたくない


人との距離の取り方がわからない

やっぱりなんのために生きてるかわからない


モラルを守って、狭い部屋で1人で泣いて、

それを“発散”と呼ぶことで

また何もなかったみたいな顔してレジを打つ


そこから何が生まれるの

楽しいこともあるかもしれないけど

正しいのかもしれないけど

私はそう思いたくない


だって、

あんなに時間かけてゆっくり話せるようになったのに

え、なんのために笑ってたんだろう

なんのために緊張してたんだろう


感情全部無駄だったよね


私だけ取り残されてる?

私だけ幼稚なの?

私が間違ってるの?

これは私の弱さなの?

治さないといけないの?


誰か教えて、

新しい環境で誰かと仲良くする意味がわからない

もうやめよう、こんなの意味ないよ


発する言葉も無駄だよ

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